不器用な男



暴走族ストーカー疑惑の話をされてからというもの、なぜか大和田くんと会うことが無くなった。いままで通り一人で絵を描いていても突如現れたりもしないし、どこに居ても、彼は現れなかった。はじめの頃はそこまで気にも留めなかったけど、もう一ヶ月近く彼を見ていない。別に寂しいとかそういう感情が沸くわけではないけれど、もしかして九頭龍くんが何か手を回したのではないかと不安にもなる。それとも、ストーカー疑惑の話が、どこからか大和田くんの耳に入ってしまったのだろうか。


「九頭龍くん、あの、例の暴走族の件なんだけど…」
「あぁ!?何かされたのか!?」
「え、いやいや、あの、あれから、全く見ないんだけど、九頭龍くんが何かしたのかと思って…」
「はぁ?何にもしてねぇよ」
「そっか、ならいいや。疑ってごめんね」

だとするとなんで大和田くんは来なくなったんだろう?別に、来ないなら来ないでいいんだけどさ。個展見に行ってやるとか言ったくせに、もう見飽きたのかな。それはちょっとだけ、つまんないというか、何というか…。私の絵の魅力ってその程度だったのかな。

ちょっとだけ落ち込みながら屋上に出ると、そこには問題の彼がいた。避けられているのなら話しかけない方がいいような気もしたけど、一ヶ月振りだし、久しぶりって声をかけるくらいはいいだろう。

「大和田くん」
「あ"ぁ?」

近寄って呼んでみれば、大層機嫌の悪い返事が返ってきた。こんなことなら話しかけなければよかった。

「ごめん…帰るね、邪魔だったね」
「あ、ちょ…まっ、待てって!!」

怒鳴って引き留められて、驚いて身が震える。待って欲しいなら怖がらせないで欲しい。

「…せっかく来たんだから、座れよ」

いつも私が一人で座っているだけのベンチに、既に大和田くんが座っていたせいで、二人で並んでベンチに座ることになってしまった。いつもより近い距離のせいで、少し緊張する。

「…久しぶりだね」
「……あぁ」

この距離でもし怒鳴られたら、私は確実に逃げ出すだろう。なんとか怒らせないようにしなければ。しかしこれ以上、話す言葉が見つからない。

「…俺、迷惑だったか?」

暴走族の総長にしては珍しく気弱な言葉を聞かされた。驚いて大和田くんの顔を見てみれば、眉間にシワを寄せて怖い顔をしていたのでまた目をそらした。

「そりゃそうだよな、俺みてぇな野蛮な奴が、あんたみたいな大人しい女に付きまとったら、迷惑だったよな」

そんなことないよ、と言うべきなのだろうが、慰めてどうなる。私は大和田くんに傍に居てほしいのか?そういう訳でもないし、うーん。

「そう思ったから、最近来なかったの?」
「…だったら何だよ」
「私の絵に飽きちゃった訳じゃないんだ?」
「まだ飽きるほど見れてねぇよ」
「…なら、飽きるほど見てよ。描いてるとこ見られるのはちょっと恥ずかしいけど…個展、見に来てくれるって言ってたよね」
「…おう」

異性として興味を持たれるのは望んでいないけど、私の絵に、才能に興味を持ってもらえるのは純粋に嬉しい。

「絵を描くの邪魔しないなら、今まで通り、見に来ても構わないよ」
「邪魔なんかしねーよ。…居るだけで邪魔とか言わねーだろうな?」
「そ、そんなひどいこと言わないよ」

言わないだけで、今まで思ってはいたけども。

「ありがとな」
「うん?…どういたしまして?」

礼を言うほど私の傍に居たかったのだろうか。やはり好かれてしまっているのだろうか。いやいやいや、それはちょっと。

「天野先輩と居ると、落ち着くんだ」
「そ…そっか」
「静かだし、心が安らぐっつーか……、…って、柄にも無いこと言わせんな」
「大和田くんが勝手に言ったんだよ…」
「あ"ぁ?」

勝手に喋って勝手に怒るのやめてくれないかな。その低音の脅しが私に重くのしかかるんだよ。

「…悪い」
「へ、」
「怒鳴ったりすんの、クセになってんだ。悪い。別に怒ってねぇよ」

あぁ、なんか、落ち込んだり素直になったり、怒鳴って謝ったりするの、不器用なだけなのかな。だとすると、ちょっと可愛くも思えてしまう。

「…せめて私がいるときは、そのクセどうにかしてね」
「…おう」

大和田くんが怖くなくなれば、きっともう少しだけ、私も普通になれるから。

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