何も知らなかった



眠れなくて、夜中もテレビをつけていた。夜中にもなるともう就寝している生徒たちも多く、コロシアイ放送を見ていても物足りなかった。

『お待たせー!』

例の不二咲さんが物置でゴソゴソしていたかと思ったら、そのまま更衣室の方へと移動して、待ち合わせていた人と合流した。

『別に待ってねぇよ』

大和田くんだった。知らない間に夜中に密会するような仲になっていただなんて。ショックだった。
二人はどうやらトレーニングをするらしい。弱い不二咲さんは、自分を強くするために。そのために、大和田くんに手伝ってもらうなんて。

「天野、まだ起きてんのか?」
「…寝れなくて。そしたら、余計に寝れないものが始まっちゃった」

偶然なのか起きてきた左右田くんは、私の横に腰かけた。
しかしどういうわけか、不二咲さんが更衣室に入ろうとしない。大和田くんが不思議に思って声をかけると、意を決したように不二咲さんは電子生徒手帳を男子更衣室のカードリーダーにかざした。驚いたことに、扉は問題なく開かれた。

『漢同士の、秘密だよ』

不二咲さんは男子だった。本人の口からもそのことが語られた。私と同じく、大和田くんも驚いていた。

「…私、男の子に嫉妬してたんだ」
「大和田も男相手に浮かれてたんだな」
「あれだけ可愛ければ騙されるよ…」

過去を語る不二咲さんからは、強さが感じられた。あの環境で弱い自分を変えようと行動する不二咲さんはそれだけで強くて、男らしく鍛える必要なんて、感じられなかった。

「待って…」

大和田くんの顔色が悪いのは気になっていたけど、ショックだったからだと思った。でも、どうやらそれ以上の何かが、大和田くんの理性を壊したらしい。大和田くんは近くにあったダンベルを持ち上げ、不二咲さんの背後で振り上げた。
テレビには、二人目の被害者は不二咲千尋、とポップ体でテロップが出されていた。

「なんで、」

彼は誰も殺さない、誰にも殺されない強さのある人だと思っていた。信じていたものが崩されて、涙が溢れた。

「あいつ、案外弱いな」

知らなかった。私は大和田くんの弱さなんか知らなかったし、彼の過去も、今も、将来のことも、何も知らなかった。私のことが好きで、私も彼が好き。勉強は嫌い。それくらいしか、私は大和田くんのことを知らなかったんだ。不二咲さんの何が彼を動かしたのか、解らなかった。

「天野、大和田このまま出てこれると思うか?」
「無理だよ…大和田くん、殺人なんか隠せるほど、頭良くない」

きっとこのまま、大和田くんはクロだと判定されておしおきされるんだ。私と左右田くんで作り上げたあのおしおきマシーンで。大和田くんがこの世から居なくなってしまうのは絶望的に悲しいけど、その最期を飾る舞台作りに関われたのだから、実質的に私が彼を殺すのと相違ない。そこがせめてもの救いだった。

「…私、このまま見届ける。左右田くん、先に寝てていいよ」
「じゃあ俺はお前の絶望する顔の観察でもするわ」
「…なんで素直に傍に居てやるって言えないの」
「…それで要らねぇって言われたら泣きそうだしな」

大和田くんは何を思ったのか死体もそのままで走り出した。そのまま生徒玄関まで来たかと思うと、箱から何か取り出してまた更衣室へと駆けた。

「大和田くんあんな必死な顔してる…。あんな死にそうな顔、初めて見た」
「…おしおき、楽しみだな」
「そうだね、私が、殺せるんだもんね…」

なぜか大和田くんは女子更衣室の方のカードリーダーに生徒手帳をかざし、扉を開けることができていた。そして不二咲さんの死体を女子更衣室へと運び込んだ。

「なるほどな、これなら漢同士の秘密も守れるわけだな」
「…私、大和田くんのそういう優しいとこが好きだった。ほんとに、大好きで…好きだったのに、なんで…」

なんで殺しちゃったの。大和田くんにはそんなこと、してほしくなかった。

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