心の支え
城宮さんからの接近はあれからずっと無かったのだが、状況は悪化する一方だった。
この前城宮さんと雛森副隊長と三人で話してた、というか私が副隊長に責められていたあの場面を見た隊士たちから憶測の噂が広まり、私が悪いことをしたから副隊長に責められていたのだと皆に思われるようになってしまった。
五番隊の皆が、私に笑顔を向けてくれなくなっていた。
私の居場所が、わからなくなっていた。
「失礼します」
五番隊に居場所が無いなら五番隊以外の人に相談に行けばいい。そんな安直な考えで、私は冬獅郎君の元を訪ねていた。
十番隊の隊首室の扉を開けて中に入ると、1ヶ月ぶりに見る冬獅郎君がいた。
「おう、久し振りだな」
「……冬獅郎君」
「日番谷隊長だ」
「どっちでもいいじゃん…」
どんなに無愛想な冬獅郎君でも、ただ無愛想なだけで普通に会話をしてくれる。当たり前のことなのにすごく嬉しくなってしまって、泣きそうになった。
「あのね、私、冬獅郎君に話があって……」
「奇遇だな、俺もだ」
「……じゃあ先に話して」
なんだか空気が張り詰めていて、嫌な予感がした。冬獅郎君といてこんな気持ちになるのは初めてで、いつもと違う動悸がした。
「五番隊で、うまくやってんのか?」
「……そこそこ」
「…お前の素行が悪いって話を耳にした。実際どうなんだ?五番隊に行って、何やったんだ」
冬獅郎君は心配するような口振りで呆れたように私に問いかけてきた。まるで悪ガキに話しかけるように、悪いことをしたということを自覚させようとしている口調だった。私が悪いことをしたと、決めつけているようだった。
「私が……何かしたと思ってるの?」
「雛森に全部聞いた。芽衣がそんなことする奴だなんて思っちゃいないが、雛森の言ってたことは気になるし、雛森の勘違いだったとしても芽衣が勘違いさせるような行動をしていたのは事実だろ?」
「……雛森副隊長が勝手に勘違いしただけでしょ」
「何だと?」
雛森副隊長が冬獅郎君の幼なじみなのは知っていた。私なんかよりも仲が良く特別な関係だということは、知っていたはずだった。それなら何の不思議も無いはずなのに、冬獅郎君が私ではなく雛森副隊長の言い分を鵜呑みにしているということを信じたくなかった。
「どこまで聞いたか知らないけど、私の話だって聞いてくれたっていいのに……なんで聞いてくれないの?なんで私が悪いって決めつけてるの?決めつけちゃうくらい、私って信用無かったの?」
「…芽衣のことは信じたいが、雛森はそんなしょうもない嘘をつくような奴じゃねぇんだよ」
「雛森副隊長が騙されてるとか、そういう可能性は考えないの…?」
「そう簡単に騙されるほど雛森は馬鹿じゃねぇよ」
冬獅郎君は眉間の皺を深くさせて怒ってくる。実際は騙されて冬獅郎君に告げ口しただけだというのに。
「私は本当に何もしてないのに、それでも冬獅郎君は私のこと信じてくれないんだ……」
「芽衣の言うことが本当だとしたら、五番隊の他の奴らもそいつに騙されてるって言うのか?そんな馬鹿げた話があってたまるか」
「……みんな新入りの私なんかより、前から五番隊にいる人のこと信じるに決まってるでしょ。みんな私がどんな奴なのかなんて知らないんだし。でもさ、冬獅郎君は学生の頃からずっと私と居て、私のことはよく知ってるよね?それでも、私が悪いことしたなんて思うんだ?」
私がみんなに嫌われるほど悪いことをするような奴だと、冬獅郎君に思われてしまうなんて。そう思わせるほど、私より雛森副隊長の言葉に力があるなんて。
冬獅郎君にとって、私はどういう存在だったのか。私はこんなことで疑われてしまうほど信用が無かったのか。そう考えると悔しくて、ブチ切れて泣いてしまいたくなった。でもここで泣いてしまう方が悔しくて、私のことを信じてくれない冬獅郎君の前で泣くわけにはいかなかった。
「冬獅郎君が、頼っていいって言うから会いに来たのに……こんなこと言われるなんて思わなかったよ…」
異動が決まったときに、泣きたくなったら頼れって言ったくせに。冬獅郎君のせいで更に泣きたくなるだなんて、思いもしなかった。
「ばいばい……失礼しました」
逃げるように隊首室を出るときに、私を呼び止めるように冬獅郎君に名前を呼ばれた。でもこれ以上何か言われたら、大好きな冬獅郎君のことを嫌いになってしまう気がして、足早に隊首室を後にした。
名前なんか呼んでくるから追いかけて来てくれるかと少しだけ期待もしてみたけど、そんなのはただの幻想で、誰にも話しかけてなんてもらえなかった。
- 10 -
←前・次→