実力行使
檜佐木副隊長に脅されてから、徹底的にあの女の視界に入らないように行動していた。何事も起こらないように、一人で黙々と仕事をした。寂しさは有るが、真面目に仕事をしていれば誰にも何も言われることなどなかった。
虚しさを感じながらも大人しく生活していた五日目の夕方、もう少し辛抱すれば藍染隊長がどうにかしてくれると考えていたそのときだった。
書物の整理をしていたら、部屋に誰かが入ってきた。私だと気付かれたくなくてそのまま整理を続けていたら、声をかけられた。振り向いてみれば、顔を思いきり殴られて、勢いで本棚にぶつかった。殴られた理由がわからないし、ぶつかったせいで棚から本が崩れ落ちてきた。
「この前忠告したよな?」
胸ぐらを掴まれて、やっとその人を見ることができた。この前よりも怒っている、檜佐木副隊長だった。
「お前は何度あいつを傷付ければ気が済むんだ」
言い返そうにも、殴られたところが痛くて思うように口が動かせなかった。口のなかは、血の味が広がっていた。
「任務に出向いたわけでもないのに骨折って、普通に生活しててどうしたらなるんだ?お前がやったんだろ?」
関わらなくても勝手に怪我して勝手に私のせいにするって、もう私には為す術が無いじゃないか。どうせ骨折だって、折れたふりだろうし、たちが悪い。
「答えろよ!」
檜佐木副隊長の手に力が入り、首もとがきつくなり苦しくなる。どうして私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。
「…言っても無駄か。話が通じるようなら、あんなことするわけねぇしな」
冷たく言われ、寒気がした。それと同時に、床に叩きつけられた。
「死神辞めちまえよ」
思いきり肩を踏みつけられ、自分の体から発せられたとは思いたくないような鈍い音が鳴った。激しい痛みのせいで、叫ぶことすらもできなかった。
それなのに檜佐木副隊長は、そんな私を放置して部屋をあとにした。もう、本当に死神なんか辞めてしまいたくなった。
このままでは痛いだけだと思い、体を起こしたら更に肩が痛くなった。それでも足じゃなかっただけマシだと自分に言い聞かせ、四番隊の詰所へと向かった。
四番隊の人は優しくて、私を見てすぐに声をかけてくれた。無条件の優しさが嬉しくて、泣いてしまいたくなった。
「花太郎君…いませんか」
「山田七席のことですか?それならすぐに戻ってくると思いますが…とりあえず、戻ってくるまで手当てしますよ」
治癒室に入り座らされ、頬に治療の鬼道を使われた。痛い肩を先に治して欲しかったのだが、花太郎君に顔の怪我なんて見られたくなかったから先に顔を治してもらうため黙っておいた。しばらく続けてもらって頬の痛みが引いてきた頃に、やっと花太郎君がやってきた。
「あ、ありがとうございます!あとは僕が代わりますよ」
「はい、お願いします」
治療の続きを花太郎君と交替し、部屋には花太郎君と二人きりになった。
「顔、怪我したんですか?」
「顔はもういい。それより、肩を」
元々はだけぎみだった死覇装を大きく開き、左肩を出した。下着が見えるとかそんなことよりも、肩の変色が怖かった。
「ど、どうしたんですかこれ!」
「…ちょっと」
「…とにかく、痛いでしょう?横になってください」
ベッドへと移動させられ、言われるがままに寝転んだ。花太郎君は詳しく聞き出したりする前に、治療を始めてくれた。
「治るの、どのくらいかかりそう?」
「…全力で頑張っても、明日にはなりそうです」
「そっか……」
じゃあもう、明日は仕事休んじゃおうかな。無理してるところに誰かに追い討ちでもかけられたら我慢できない。
「怪我の理由……聞いてもいいですか?」
「…この前と同じだよ。私が悪いことしたって勘違いした人にやられたの」
「それにしても、これは酷いですよ……芽衣さん、何もしてないんですよね?」
「してない」
花太郎君は私のせいで悲しそうな顔をする。そんな顔させたくないのに。あいつだって、傷つけられたふりをするだけでも雛森副隊長や檜佐木副隊長たちがあいつのために悲しんでいる顔を見ているはずだろう。それなのにいつまでもこんなことを続け周りを悲しませて、何が楽しいんだ。
「僕は…芽衣さんのこと、信じてますからね。治療くらいしかできないかもしれないけど…僕がいるってこと、覚えておいてください」
「…花太郎君って、ほんとに優しいよね」
「優しくない四番隊員なんかに治療を任せたい人なんていないでしょう?だから、四番隊の人はみんな優しいんです」
「でも普通、優しい良い人に嫌な雑用押し付けたりするかなぁ…」
「それは…その、僕が、優しいから、やってあげてるだけです…」
「…今度、お礼に手伝ってあげるね」
「えっ、そんな、悪いですよ!ほんとに掃除してるだけですし、芽衣さん席官なんですからそんなことやらせるわけには…」
「花太郎君も席官でしょ。いいから、手伝わせて?私、五番隊以外で逃げ場が欲しいしさ……」
ずっと五番隊に居て働くのも、最近は息苦しくなっていた。たとえ雑用でも、他の場所に行ける理由が欲しかった。
「僕の伝令神機の番号教えておくので、いつでも連絡ください。なるべく、力になります」
「ありがとう。じゃあ私のも教えるから、花太郎君も何かあったら連絡してね」
「はい」
それから色々な話をしながら、花太郎君に治療を続けてもらった。喋りながらだなんて集中することの邪魔になりそうだとも思ったけど、花太郎君の声を聞いていると気分が安らいで、つい話を振って口を開かせてしまった。
人と他愛の無い話をすることがこんなにも貴重な時間になるだなんて、思ってもみなかった。
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