杞憂の苦しみ


「旅禍…ですか?」

藍染隊長に呼び出され、今瀞霊廷付近で起こっている出来事の説明をされた。
数名の旅禍が瀞霊廷に浸入しようとしたこと。市丸隊長が、旅禍たちに出会ったにも関わらず、逃がしてしまったこと。

「じゃあもしかして、近いうちにその旅禍たちが瀞霊廷に突入してくることがあるかもしれないということですか?

「そうなるね。だから、万が一の事態に備えて、覚悟はしておいてほしい。君の置かれている状況がどんなだろうと、旅禍たちは関係なく襲撃してくるだろう。そうなったら、君も席官で、死神である以上、命懸けで瀞霊廷を護らなければならない」
「…大丈夫です。仕事はきちんとこなしますよ」

たとえ、私の居場所すらない瀞霊廷だとしても。仕事は仕事だから、護るしかない。

「こちらには多勢の死神と、いざとなれば隊長たちも動くから問題は無いと思うけど…、門番の児丹坊がやられたらしいんだ。ある程度の力があるようだから、油断しないように」
「はい」

どの程度強いのかわからないけど、どうせなら荒らしていってほしいとも思ってしまう。こんな居心地の悪いとこ壊して、あの女のこともやっつけてほしい。
なんて考えてしまう、自分の汚さに嫌気がさした。

「それに、君の敵は旅禍だけじゃない。場合によっては、混乱に乗じて君に襲いかかる者がいてもおかしくない」
「…そうですね。気を付けます」
「ごめんね。解決する前に慌ただしくなってしまって」
「…藍染隊長のせいじゃないです」

慌ただしくなったのは旅禍のせいだし。でもそっちでみんなが手が回らなくなれば、私にも構わないでいてくれるかな。

「でももし旅禍がまた浸入してきたら……私、頑張りますね。五番隊に入ってから、まだいいとこ見せてないですし……いい加減、藍染隊長のお役に立ちたいです」
「香月くん…」
「そろそろ、ちゃんと仕事してるところ皆に見ておいてもらわないと、今後困りそうですし」

旅禍たちがどんな奴らなのか知らないけど、私の汚名挽回のために死んでもらおう。手柄を立てなければ、私は生き残れない。

「あと少しの辛抱だから…」

藍染隊長はそう呟いて私を抱き締めてきた。あと少し辛抱すれば、この状況が変わるとでも言うのだろうか。旅禍が攻めてきてどうなるかわからないという、この状況で。
詳しく聞こうにも、聞いていいものなのかすら不安に思えてしまう。私を安心させるために抱き締めてくれているのか、藍染隊長自身がすがり付く思いで抱き締めてきているのか、わからなかった。

「…あの、大丈夫、ですから」
「あ……すまない、嫌だったかな」
「そうじゃなくて!その…藍染隊長が、何を不安に思っているのか、私なんかにはわからないんですけど……でも、いつも藍染隊長がしてくれるように、不安な時は、私が藍染隊長を支えますから……」

私なんかではとても恐れ多かったが、藍染隊長の体に腕を回した。そうでもしないと、藍染隊長がどこかへ行ってしまうような不安に駆られた。

「…ありがとう」

藍染隊長は私を抱き締める力をきつくした。こんなに近くにいるのに私は藍染隊長の考えも気持ちも何も知らなくて、遠く感じてしまう。
遠くに行かないでください。そう伝えるのは自分勝手な気がして、言えなかった。

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