巻き添え
廊下を走る足音に耳を傾けて、タイミングを見計らって曲がり角から飛び出した。
「うわあっ!」
「きゃっ!」
わざとらしくぶつかって、尻餅をついて転んだふりをする。相手はどんくさかったらしく、ちょうど私の上に倒れこんできた。大人しそうな顔して、図々しく私の胸に顔を埋めていた。
「ごっ、ごめんなさい!!だだだ、大丈夫ですか!?」
そいつは慌てて顔をあげるが、その顔色は真っ赤だった。笑ってしまいそうになるが、腰を抑えて顔をしかめておいた。
「痛っ……」
「すみません!どこか痛めましたか?」
「いえ…元から痛めてたので……だから、四番隊に来たんです。あなた……山田七席、ですよね?私の怪我…診てくれますか?」
「えっ、あっ、そうです!大丈夫です!た、立てますか?」
山田は手を差しのべてきたから、おとなしくそれを握って立ち上がった。
「治療室、こちらです」
わざとなのか素なのか、私の手を握ったまま治療室まで案内された。もしかしてこいつ、めちゃくちゃ鈍感なんじゃないか。香月への嫌がらせと思ってこいつに何かしてやろうと思ったけど、嫌がらせしても効果あるの?
「怪我って、何かあったんですか?」
「…隊の人に、嫌がらせされてて。…痣、みてもらえますか?」
ベッドの側にいき、ベッド周りのカーテンを閉めた。帯を緩めて死覇装を脱いで、下着姿を見せ付けた。恥じらうふりは一応しておいたのだが、山田は私の胴体の複数の痣を見て、青ざめた。それより、男なんだから私の体を見てもうちょっと男らしい反応を見せてほしかったんだけど。
「ど、どうしたんですか?これ…」
「……嫌がらせって、言ったじゃないですかぁ。普段見えないとこばっかり、蹴ったり、殴ったりされて…」
こんなもの昨日任務で偶然できた痣に過ぎないんだけどね。信じてくれたよね?女の子がここまでしてるんだから。
「とにかく、治しましょう?痛みますよね」
「この格好のまま…治療するんです?」
もじもじしながら胸を強調させてみれば、山田はまた頬を染めて目をそらした。
「着ててもできるんで、着てください…」
「でも、着たらどこに痣あるかわかんないですよね?大丈夫ですよ、このままで」
「で、でも、」
「それより……、あなたのこと見てると胸がドキドキするんですけど…これって、病気ですかね?」
山田の手をとり、私の胸に押し当てた。下着越しだがもろに触れば感触くらいわかるだろう。
「はっ、早く、治療を…」
「私…体の傷より、心の傷を癒してほしいです」
「傷ついてるようには見えないんですがっ」
「こんなに痣だらけにされて、傷つかない女の子がいると思うんですか?私、何もしてないのにいつもひどいことされて…言いがかりもつけられて、苦しくてっ…」
目に涙を溜めて見せれば、どうやら信じたらしく謝ってきた。ちょろいやつ。
「でも…そんなことするひとがいるんですか?」
「…告げ口するみたいで、嫌なんですけど……五番隊六席の、香月さんって、わかりますか?その人が、私を……」
名前を出せば、山田の表情が凍り付いたのがわかった。私の演技に騙されるか、元々信じていた香月をそのまま信じるのか。私の本物の痣を見て、今何を考えてくれてるのかな?
「…そう、なんですか」
「私の言うこと……信じてくれますよね?」
「…」
山田は戸惑っていた。きっと香月のことを信じたいんだろうけど、私の生々しい痣を嘘だとは言えないのだろう。
「私が、嘘つくように見えるの?この痣が偽物に見えるの?私がわざわざ痣を作ってまで香月さんを貶めようとしてると思うの?ねぇ、私ってそんなに嘘臭い?」
「そ、そんなことは……」
「それとも、香月のことが好きだから信じてあげなきゃとかつまんないこと考えてんの?」
「!」
演技だとばれてしまってもいい。こんな弱くてどんくさそうな奴の言うことなんてどうせ誰も信じない。そう思って、山田をベッドに押し倒した。
「な、何するんですか!」
「何だと思う?男女がベッドでやることなんて一つしかなくない?」
「……治療」
「馬鹿じゃん?あんたそれでも男なの?そんなんじゃ香月とベッドで仲良くなんてできないよ?」
押し倒したときは青ざめたくせに、香月の名前を出しただけで頬を染めやがった。気に入らない。なんでみんなしてあんな女が気になるの?なんで私よりあの女に人が集まるの?
「ねぇ山田くん、香月といつかいちゃいちゃするときのための予行練習しよっか」
「え、遠慮します!」
「は?拒否権なんか有るわけないじゃん、馬鹿なの?」
山田の死覇装の襟を思いきり開く。男らしいなんてお世辞でも言えないような薄い胸板が露になった。
「やめてくださいっ!」
「騒いだら私泣き叫ぶから。男女って、普通に考えて女がか弱いのわかってる?この状況であんたが騒いだところで、私が泣けばみーんな私を信じるからね?」
頬を撫でれば、山田は泣きそうな顔で口をつぐんだ。そう、それでいい。黙って私に犯されればいい。それで香月に会わせる顔が無くなってくれれば、それだけでいい。
「ていうか、こーんなに可愛い私が迫ってあげてんのに、何が不満なの?欲求不満なの?」
「そんな…」
「そんなにも、香月のことが好き?あんた知らないの?香月って日番谷隊長とめちゃくちゃ仲が良くて日番谷隊長のこと大好きなんだよ?それに他の男友達も多いし、藍染隊長にもめちゃくちゃ可愛がられてんだよ?あんたなんて眼中に無いって」
「…わかってますよ、そんなこと」
「はぁ?」
眼中に無いってわかってて、どうして好きなだけでいられるの?奪いたいとか思わないの?こいつ本当に男か?
「あほくさ!童貞きもっ!もういいや黙って」
童貞の意味わかんない意見なんか理解できないし聞きたくもない。童貞じゃなくすればここまでうざい考えじゃなくなるよね?そうだよね?
黙らせるために、私は山田に唇を寄せた。
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