大事な人
「あっれー?嫌われものの香月ちゃんが伝令神機なんかいじって誰と連絡とろうとしてんの?友達いたんですかぁ?」
煽るようなむかつく声の主は、顔を見ずともわかる、城宮だ。答えたくも話したくもなくて無視して伝令神機をいじっていたら、城宮は楽しそうに笑い始めた。
「ね、もしかしてさ、相手って山田くん?もしかして返事無いとか?」
「……」
「そりゃそうですよね〜、だって香月のこと信じてたのに、体も心も香月に傷つけられた可哀想な私がいるんだもん。私のこと信じちゃうよね〜」
「…は?」
こいつ、花太郎くんに近付いたのか。というか、何かしたのか。
「身体中の痣が痛くて四番隊行ったら、偶然にも山田くんに診てもらえてさー。私が香月六席にいじめられてる!って話して痣全部見せたら信じてくれるの!素直で可愛いですよねーあの子」
「…何、平然と嘘ついてんの?」
「きゃっ、こわーい!でも痣あるのは本当だよ?これ脱いだらお腹にも背中にも痣あるから、脱いで脱いでぜーんぶ山田くんに診てもらっちゃった」
全部脱いで?わざわざ?それで、私がやったって嘘ついたの?ありえない。私をいじめることに体を張りすぎじゃないか。
「それで話変わるんだけどさー、山田くんって童貞らしいよ!知ってました?」
「…だから何」
「し、か、も、今日童貞卒業したらしいよ!だからね、おめでとうって連絡、入れてあげたら?そしたら返事、くるかもね!」
城宮はけらけらと笑う。何がおかしい。今の話、どう聞いたって城宮が花太郎くんを襲っただけの話じゃないのか。
「あなたが誰を好きになろうが私には関係無いけどさ…好きでもない子に手出して、笑い話にして、許されると思ってんの?」
「やだーっ、怒らないでくださいよ〜。別に香月さん、山田くんのこと好きだったわけじゃないでしょ?何怒ってんですかぁ?」
「友達がひどいことされて、黙ってられると思う?」
「友達ねぇ?山田くん、あんたのこと友達だなんて思ってないですよ?私と山田くんがえっちしたからって怒るのって、どー聞いても嫉妬じゃない?醜い女の嫉妬じゃない?」
いい加減むかついて、城宮の頬を平手打ちした。ばちんと綺麗に鳴り響いて、城宮の左頬が赤くなった。
「何?もしかして香月さん山田くんのこと好きなんですかぁ?だから私にとられて怒るんですよねぇ?」
「あなたが、彼を傷付けたことに対して怒ってるんだけど、それがわからない?」
「なんでそう思うの?私みたいな可愛い子とえっちできて嬉しかったに決まってんじゃん?山田くんだって男の子なんですよぉ?」
本当にしたのかどうかなんて解らないけど、花太郎くんが音信不通なことが気になってしまう。こいつが何かしたのは間違いないみたいだけど、本当に、花太郎くんに手を出したのか。
「山田くん、気持ち良さそうにしてましたよぉ?さすが私って感じ?可愛い声で啼いてくれるし、可愛くびくびく震えちゃってさぁ、だからってもう会うつもりないんですけどね」
「…へぇ、遊んで満足したらそれで終わりなんだ?本気でも無いのにそういうことするんだ?最低」
「自分に魅力が無くて山田くんとえっちできないからってひがまないでくれます?」
「ひがんでないんだけど。なんでそんなに人に嫌がらせばっかりできるの?花太郎くんがあなたに何かしたの?」
「私は別にされてないですけど。ただ、香月さんと関わったから、引き離してあげようと思って」
城宮はにこりと微笑む。どうしてみんな、こんな悪魔の笑顔に騙されるんだ。
「桃ちゃんに嫌われて、ついでに日番谷隊長に見捨てられて、隊のみんなに疎まれて、山田くんは寝取られて、どう?悔しい?悲しい?みーんな、私の味方になっちゃいましたね」
「…どうして、こんなことするの?」
「嫌いだからって、それ以外の理由があると思います?」
「…嫌いだったら、何してもいいわけ?」
「嫌いなんだもん、しょーがないじゃないですか」
「あ、そう」
ごめんなさい藍染隊長。私は大事な人を傷つけられて我慢なんてできないです。
私が叩いたせいで赤い頬を、今度は拳で殴り付けた。城宮は殴られた勢いで床に倒れた。
「嫌いだからしょうがないよね」
「っ…、みんなに言いふらしてやる…」
「好きにすれば。けど、どうせ言いふらすならもうちょっと殴られてからにしてくれる?私さ、自分が苦しいのは耐えるけど……大事な人を傷つけられるのは、許さない」
倒れた城宮の胸ぐらを掴んで体を起こさせる。顔を殴られるのが効いたのか、いつもの余裕の表情ではなくなっていた。
「そんなにも山田くんのことが大事なんですか?」
「大事だって解ってるから手出したくせに」
「あは、そうでした」
むかついて手に力をこめれば、城宮は少し咳き込んだ。
「今度は日番谷隊長に手出そうと思ってるんですけど、あの人のことはまだ好きなんですか?」
「…あなたに関係無いでしょう」
「えっ?てことは、山田くんと日番谷隊長、二人とも好きってことですか?ふたまた?ビッチだ〜。でもさっきの怒りかた、どー見ても山田くんに惚れてますよねぇ?だったらー、私が日番谷隊長貰ってもいいですよね?」
「あの人はあなたなんか好きになったりしない」
「じゃあ誰ならいいと思うの?香月さんだって、日番谷隊長に好かれるどころか、信じてもらえずに嫌われて見捨てられたくせに」
城宮の言っていることは事実そのものだった。だからこそ我慢できなくて、城宮の顔をもう1発殴ってしまった。
「つーか…顔ばっかやめてくれない!?」
仕返しに、私も顔を殴られた。痛いけど、歯とか折れなくてよかった。
「あんたが大人しく五番隊から出てけば嫌がらせなんかやめてやるっての。ま、日番谷隊長もあんなんだし、十番隊にも戻れないでしょうけど!」
「あなたのせいでね」
「私のせい?そんなわけないじゃん。日番谷隊長に見捨てられる程度の信頼関係しか築かなかったあんたが悪いんでしょ?つーか、そっちへの影響なんて考えてなかったし。雛森が勝手に日番谷隊長に泣き付いたからこうなったんじゃん。全部雛森のせいじゃね?私悪くないじゃん!」
「…雛森副隊長のこと悩ませて悲しませて、罪悪感とかないの?」
「別に無いけど」
笑ってそんなことを言うものだからむかついて、胸ぐらを掴んだまま城宮を壁に押し付けた。
「友達じゃないの?友達を悲しませて、平気なの?」
「あんなの友達じゃないし」
「……あなたさ、友達いないんじゃない?」
「だから?友達よりも男でしょ。楽しまないでどうすんの?」
「…可哀想」
「は?友達なんていらないし。しょせん友達なんて裏切るものでしょ?だからあんただって、今一人ぼっちなんだよねぇ?友達なんてその程度っしょ」
否定の言葉が出てこなかった。私が一人ぼっちだという事実のせいで、返す言葉も無かった。
「悔しかったら泣いてみれば?馬鹿はみんな泣いてる方を信じるんだよ?あんただって女なんだから、泣けば?負け犬みたいにわんわん泣いてくれれば、みんなただの喧嘩だったのかなって思うだろうし、あんたの泣き顔さえ見れれば私だってもういじめたりしないって」
「泣くなんて恥ずかしい真似できるわけが…」
「ふん、馬鹿みたい。だったらもっと苦しめば?それで一人ぼっちで泣けばいいよ」
こんなやつに泣き顔見せるくらいなら、こいつにされた分の仕返ししてから死神なんかやめてやるよ。とは思うが、こんなやつのせいで死神をやめるのは悔しいし、功績も残してないのにやめられるものか。
「涙は最高の武器なのに、使えないなんてかわいそ。見てよほら、私ってばいつでも泣けるってのに」
「だから何?泣けばどうにかなるの?誰かが味方でもしてくれるの?あなたのせいでこんなことになって、今さら泣いてどうなるって?どうせ誰も私のことなんか…」
「ちょっ、苦しいって…」
嘘泣きを見せつけてくる城宮にむかついて、思った以上の力を入れてしまったようで城宮が顔を歪めた。首を締めるつもりは全然無かったから力を抜こうと思ったら、誰かに肩を掴まれ振り向かされて、殴られた。
「お前……いつから人を泣かせるような奴になったんだ?それとも、俺が知らなかっただけか?なぁ、芽衣…」
殴られた頬だけじゃなく、頭も痛くなってきた。私を殴ったのが冬獅郎君だなんて、信じたくなかった。
「殴って追い詰めて泣かせるなんてこと、しなきゃいけなかったのか?話し合いとかできねぇのかよ?」
「冬獅郎君だって……私の話なんか聞かずに、最初から雛森副隊長の話信じるし、今だっていきなり殴ってきたくせに…」
「どう見たってお前が無抵抗の城宮を追い詰めてただけじゃねぇか」
「その人が無抵抗なわけないよ。私だって殴られて、」
「どこをだよ」
「そんなの、今冬獅郎君が殴ったせいでもうわかんなくなっちゃったよ」
口の中が切れたみたいで、血の味がした。
「せっかく席官になったのにこんな風になるなら、席官になんてさせるんじゃなかったな」
「ひ、日番谷隊長…私、大丈夫ですから……香月さんのこと、責めないでください…」
「…大丈夫じゃねぇだろ。行くぞ」
冬獅郎君は城宮の腕を引いて立ち去った。
そんな風に言われるなら、もっと早くから冬獅郎君が私を十番隊の席官にしてくれればよかったのに。よその隊長に見つかる前に、十番隊に縛り付けておいてくれればよかったのに。
考えたって手遅れなことばかりで、どうしようもなくて涙すら出なかった。
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