平穏


「この度、五番隊第六席に就かせて頂くことになりました、香月芽衣です!よろしくお願いいたします!」


五番隊の人達とはほぼ関わったことがなかったから、不安でいっぱいだった。
雛森副隊長は、冬獅郎君の幼馴染みだからということでたまに十番隊舎まで来ていて面識はあった。
二人の仲を疑って焦ったけど、そのせいで一歩引いてしまって雛森副隊長と話すことなどほとんどなかった。
だが今は同じ隊の死神として、一緒に仕事をする仲間になってしまった。
冬獅郎君との仲は未だに疑っていたりもするのだけれど、仕事中はそんなこと考えてられないほど覚えることがたくさんだった。


「雛森副隊長〜、さっき言ってた書類なんですがー」

五番隊に異動してから一週間が経ち、雛森副隊長とは緊張せずに話せるようにはなった。物腰も柔らかいし、落ち着いた雰囲気のお陰で話しかけやすく、困ったときに頼れるので私はどんどん仕事を覚えることができた。
そして慣れてしまったせいで、私はノックもせずに執務室の戸を開けてしまった。

「あれっ、藍染隊長!?も、申し訳ありません、勝手に開けてしまって……」
「構わないよ、入っておいで」

雛森副隊長しかいないだろうと思ったのに、そこには藍染隊長が一人いるだけだった。
ビックリしすぎて口から心臓が出そうだったが、なんとか堪えて言われた通りに執務室に入室した。

「雛森君なら直に戻ってくるだろうから、座って待っていたらいい」
「は、はい……失礼します」

座るところに迷うのだが、不自然にならないように藍染隊長の正面に腰を降ろすことにした。
五番隊に入ってから藍染隊長と二人きりになるのは初めてで、変な汗をかいてしまうくらいに緊張してしまう。

「そろそろここにも慣れた頃かい?」
「はいっ、雛森副隊長が想像以上に優しくて話しやすくて可愛らしい方だったので、だいぶ慣れました」
「それは良かった。でも今は落ち着かないみたいだし、五番隊に慣れたと言うよりは、雛森君に慣れた、と言ったところかな」
「え…あ、そうかもしれないですね、へへ」

図星なことを言われてしまい、笑ってしまう。もちろん苦笑いである。

「五番隊に誘ったの、迷惑だったかい?」
「と、とんでもないです!嬉しい限りです!私、早く席官になりたいって思ってましたし!」
「本当はもっと早い段階で君を引き抜きたかったんだけど、一つ引っ掛かることがあって遅くなってしまってね」
「…と言いますと?」
「日番谷隊長のことだよ」

そこでなぜ彼の名前が出てくるのか、私の頭では思い付かなくて目をぱちくりさせてしまう。
そんな私の様子を見てか、藍染隊長は微笑みながら話を続けた。

「君の活躍振りは隊の違う僕の耳にも度々入ってきていたんだ。それ程の力量が君にはあるのに、なぜ日番谷隊長が君を席官にさせなかったのか、わかるかい?」
「…意地悪ですか?」
「おや?君と日番谷隊長はそんなに険悪な関係だったかな」
「えっ、いや、院生の頃の同期で仲良しですし、ただの意地悪だなんて考えたくないですけど…むしろ意地悪だったら怒りますけど」

普通に私の力不足だと思っていたけど、違うのか?私は私に力があると思っていないくらいだし。

「君のことが大事だから、だよ。席官になればそれだけ危ない仕事が増えるし、命の危険だってあるからね。だから君をただ同じ隊に置いて、席官にはしなかったんだろう。まぁ、僕の憶測になってしまうから軽く聞き流してくれてもいいけどね」

いやまさか冬獅郎君がそこまで私を想っているわけがない。冬獅郎君が本当にそんな考えを持っていたとしたら、私は幸せすぎて十番隊にとんぼ返りしたいくらいだ。

「でも私は日番谷隊長と肩を並べて闘うのが目標だったので、そんな気遣いして欲しくなかったです…」
「戦闘に出るのが好きなのかい?」
「…私あんまり賢くないので、体動かす方が好きなんです。そういう意味では席官よりただの隊員の方が向いてたかもしれないです」

院生の頃も勉強が苦手で苦労したものだ。
剣術や鬼道は冬獅郎君と大差無かったはずだけどね。
頭の出来だけでこんなに実力差が出るとは思わなかったけど、まぁ才能も関係あるのかな。

「でも、せっかく席官にさせて頂いたので、脳みそフル活用しますし、執務だって私にできることでしたら頑張ります!私なんかで皆さんのお役に立てるなら本望ですし!」
「頼もしいね。だけどそこまで気負わなくても、僕や雛森君の手を借りたって構わないよ。僕らは君を歓迎して招き入れたのだから、手助けするのは当然だと考えているしね」
「あ、ありがとうございます。至らない点も多々あると思うので、その時は頼らせていただきたいと思います」

藍染隊長は優しい。私を率いれたということのせいでもあるだろうが、ここまで優しい言葉をかけてくれるとは思っていなかった。
それに常に私を安心させるような笑みを浮かべてくれていて、正直それが怖かった。
いつも無愛想だけど笑うときは笑うし怒るときは怒るような、無愛想ながらも感情が解りやすい冬獅郎君。いつだって好きなように振る舞って、言葉も感情も丸出しな乱菊さん。そんな二人といたせいで、ただ人のために微笑むだけの藍染隊長の表情は、逆に私を不安にさせた。
本当の顔を笑顔の下に隠しているような、そんな気がして。

「藍染隊長、たしか毎月書道教室を開いてましたよね。私もそれ、参加してもいいですか?」
「あぁ、勿論。興味を持ってくれて嬉しいよ」

けど藍染隊長が何を笑顔で隠しているかなんて、私には解らないし想像もつかない。私程度の死神が藍染隊長の本当の顔を知ることなんてきっとできないだろう。
だったら怖がっていても仕方がないので、知れる部分だけでも、普段の姿だけでももっと藍染隊長を知る努力をしよう。
みんなから信頼されている藍染隊長なんだから、私が思うような誰も知らない藍染隊長の顔なんて本当に無いのかもしれないし。


「雛森です、失礼します」

部屋の外から雛森副隊長の声が聞こえてきて、藍染隊長が声をかけると執務室の戸が開かれた。

「ごめんねー遅くなって。頼んでた書類、見つかったかな?」
「これであってます?」
「えーっと、うん、あってるよ。それでね、あとはー……」

藍染隊長と特別な関係になりたい訳でもないし、知らぬが仏という事もあるだろう。
だったら私はただの五番隊六席として、業務を遂行するだけだ。

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