不穏
気に入らない。
私がコツコツと積み上げて勝ち取った五番隊八席の座。
ただの平隊員が、それよりも上の六席に突然現れた。
「よろしくお願いしますね」
なんて笑顔で挨拶されたけど、仲良くする気なんて全く無かった。仲良くしたところで私に何の利益も無いし、むしろストレスになって害があるだけだ。
だからなるべく関わらないように目に入れないように過ごしてきたのに、私の全てである藍染隊長に会いに行く度にあの女はそこに居座っていた。今までだってたまには雛森が邪魔なこともあったけど、私と藍染隊長の時間が無くなるほどではなかったのだ。でもあの女が来たせいで、私が藍染隊長と二人きりになれる時間がほぼ無くなってしまったのだ。
上位席官であるアイツの方が藍染隊長に用事があるのもわかる。わかるのだけど、それが何だと言うのだ。
私には関係の無いことだ。
私はただ、私の至福の時間を新入りなんかに奪われるのが苛ついて仕方がなかった。
「香月さん、今日お仕事終わったら飲みに行きませんかぁ?私もっと香月さんと仲良くしたいです!」
とびっきりの笑顔で誘ってやった。そしたらアイツは驚いて怪訝そうな顔で「いいですよ」と答えやがった。
だから私は時間と場所を指定して、その時間に別の居酒屋に行ってやった。アイツに待ちぼうけをくらわせつつ、私も待ちぼうけになり被害者面をするためだ。
「お、城宮じゃねーか。一人でどうしたんだ?」
「檜佐木先輩……。待ち合わせしてるんですけど、来ないんです。五番隊に新しく入ってきた香月さんて人と、一緒に飲もうかと思ったんですけどぉ」
「じゃあ待ちがてら一緒に飲むか?そいつ来るまででもいいから酒の相手してくれよ。外で待っててもつまんねーだろ」
「わぁ、いいんですか?先輩やーさしぃっ」
丁度いい時に檜佐木先輩が来てくれたお陰で、私が待ちぼうけをくらっている可哀想な子を演じることができた。
きっとアイツは私がこうして檜佐木先輩と飲んでいる間にも、私が告げた通りの居酒屋で待っているんだろう。一人で寂しく待っていると思ったら、可哀想すぎて笑ってしまう。
明日はどんな顔でアイツに会ってやろう。アイツの困った顔を考えるだけでお酒が美味しかった。
「おはようございまーす」
朝、すれ違う隊員たちと挨拶を交わしながら歩いていると、前方からアイツが現れた。予想通りの、困惑した表情を浮かべながら。
「おはようございます香月さん」
「おはよう……。昨日、何かあったんです?約束の時間になっても来ないから、心配だったんだけど」
「ええっ?私行きましたよ?待ってたのに来てくれないから寂しかったですよぉ」
「…集合場所、桔梗ってお店だって言ってましたよね?」
「えっ!?私そんなこと言いました!?たしか向日葵って言ったと思うんですけど……言い間違い?聞き間違い?とにかくごめんなさい、私たまにこういう抜けてるとこあって……」
しゅん、とへこんだ振りをしてみれば、香月は安心したかのようにため息をついた。きっと私が本気で間違えたと確信したんだろう。
「私の聞き間違いだったのかもしれないし、私の方こそごめんなさい」
「いいんですぅ、謝らないでくださいよっ!また今度、ちゃんと場所と時間を確認してから行きましょう!時間はいっぱいありますもん、ねっ?」
「……うん、そうしましょう」
私が笑って見せれば香月も笑顔で気持ちのいい返事をしてくる。こんなに簡単に私に踊らされてくれるなんて、なんて気持ちがいいんだろう。
雛森みたいに単純な人間は騙してもつまらないが、香月みたいに新入りで不安いっぱいの人間を騙すのは最高に気持ちがいい。
癖になりそう。
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