不協和音


「───っていうことがあって、私めちゃくちゃビビって、なんかもう泣きそうでした」

今日は乱菊さんのお誘いで、十一番隊舎での飲みに参加していた。
久々に会えた乱菊さんは変わらず綺麗で、十一番隊舎なんて男くさいとこに来て危険は無いのかと心配になる。まぁ大丈夫だから一緒に飲んでいるんだろうけど。
そして城宮八席に待ちぼうけをくらったことと、翌日謝られたことを話していた。

「あんたそれ新入りイジメとかじゃないの?」
「ええっ!?いやいや、でもほら、私が聞き間違えたかもしれないし。城宮さん、普通にいい人そうですし」
「わかんないわよ〜?女って怖いからねー」

そうやって脅してくる乱菊さん自体が怖かったりするのだが、それはまぁ置いておこう。

「それたぶん城宮の言い間違いか勘違いッスよ」
「何よ、何か知ってんの?」
「アイツ俺の同期なんだけど、院生の頃からドジやらかしまくってるような奴だったから」

そう言いながら近くに来たのは十一番隊の、えーっと、阿散井、恋次?だったかな。
そういえばこの人も最近昇格して、どこかの隊の副隊長になったんだっけ。席官から副隊長へ…私も見習わないとな。

「じゃあほんとに、勘違いってことで、私は安心しちゃっていいんですかね」
「いいんじゃねーの。つーか何そんなにビビってんだよ」
「だって、五番隊の人みんな優しいんですよ!?十番隊のときは、冬獅郎君厳しいし、乱菊さん優しいけどからかってきたり適当だったりしたのに、五番隊みんな、みんな結構真面目で優しくて素直で、逆に怖い!」
「適当って何よ適当って」

乱菊さんに頬をつねられるが、全て本当のことだ。乱菊さんみたいに不真面目で緩い人がいないから、正直言って五番隊は緊張する。

「うぅ、乱菊さんの適当さが丁度いいって言いたいんですよぅ」
「あらそーう?だったら五番隊行ったの間違いだったかもね〜?」
「ううぅ……」

そんな事実は認めたくない。私はまだ五番隊に入ったばかりなんだから、合わないとか考えたくない。

「適当なのが好きなら芽衣ちゃん十一番隊に来れば?今なら四席が空いてるから、どう?昇格もできるし」
「えええっ、そんな、私が四席なんて、この前まで平隊員だったのに無理ですって。しかも弓親さんより上とか恐れ多いです……」
「そう?でも闘うの好きだろ?」
「まぁ、そうですけど……十一番隊の人たちほどじゃないですし。ていうか異動したばっかなのにまた異動とか、落ち着き無いし逃げたみたいだし、藍染隊長にも申し訳ないし……」

せめて五番隊で何か活躍してから異動は考えたい。何もしない内に異動するなんて役立たずにも程がある。

「だったら五番隊で頑張るしかないね」
「頑張りますよ……ちゃんと、期待に応えたいですし。どこの隊だろうと私は上まで上り詰めて、冬獅郎君より強くなるんですからね!いつか負かしてヒーヒー泣かせてやるんだから!」
「泣かせるって、日番谷隊長に恨みでもあるの?」
「ふぇ?全然無いですけど。無いけど、あの無愛想な冬獅郎君の顔が、感情で溢れる瞬間が大っ好きなんですよ!ぶすーっとしてんのにたまーに笑ったり怒ったり焦ったり困ったり、最高じゃん!?たまには自分の手で泣かせたいじゃん!?」
「あー、解る解る」
「芽衣も弓親も趣味悪いわね……」

お酒が入って、口からどんどん言葉が溢れ出てきて止まらない。私の話に弓親さんが同意してくれるから、尚更話が盛り上がった。

「あ、私が強くなったら弓親さんも相手してくださいね!私、弓親さんが負ける姿っていうか、この手で負かした姿が見たいです!」
「へぇ、いい度胸してるね」
「だって弓親さん強そうだしいっつも綺麗で余裕たっぷりな顔してるから、その整った顔が敗北に染まったらどれだけ魅力的かっ」
「僕は敗北より勝利に染まった顔の方が美しいと思うけど?」
「でも弓親さん、例えばほら、さっき言った通り冬獅郎君で考えたら、いつもの余裕な勝利の顔より、負けた顔に魅力があると思いません?」
「……まぁ、そうだけど」
「それと同じで、たまには弓親さんが負けた顔も見てみたいって思うんですよ」

乱菊さんや一角さんが私たちのことを悪趣味だ何だと言っている声が聞こえてくる気もするが、酔っている私が気にかけるほどのことでもなかった。

「あっでも私まだまだ弱いので、強くなるまで待っててくださいね」
「さて、僕に勝つまで何十年かかるかな」
「……五十年くらいですかね」
「謙虚だね」

五十年くらい藍染隊長の下で頑張れば、確実に強くなれるよね?それまでに周りの皆も強くなるだろうけど、私がそれ以上に成長すればいいだけだし。
そんな感じで楽しく飲みながら話をしていたら、いつの間にか日付も変わっていたらしく、乱菊さんが話しかけてきた。


「そういえば芽衣って明日も仕事じゃないの?」
「そうですけど?」
「飲み過ぎに見えるけど、大丈夫?二日酔いになっても私のせいにしないでよ?」
「あはっ、大丈夫ですってー。私そこまで酔ってませんし!」
「自覚無いのね、そろそろ帰んなさいよ」
「乱菊さんは?」
「私はいーの!遅刻しても日番谷隊長だから問題ないもの。アンタはもう五番隊なんだから、藍染隊長に叱られるわよ?」

あの優しい藍染隊長が怒ったらどうなるんだろう。
怒った顔も見てみたいけど、きっと遅刻や寝坊なんかでは怒らないだろう。
ただ、私が罪悪感に苛まれるだけで……

「帰ります……」
「送ってこうか?」
「んー……大丈夫です。私は平気なので、まだ皆と飲んでてくださいよ」

名残惜しいけど明日のことを考えると帰るべきだ。
机に手をついて立ち上がってみたのだが、知らない内にだいぶ酔いが回っていたらしく、足元が不安定でバランスを崩してしまった。
転んで痣になるなーと思いつつそのまま倒れたのだが、軽い衝撃があっただけで全然痛くなかった。

「あれ……?」
「ったく、危ねーな」

状況を把握出来なかったが耳元で声がした気がして顔をあげたら、至近距離に阿散井さんの顔があって驚いた。
どうやら私は倒れたところを近くに座っていた阿散井さんに受け止めてもらったらしい。

「ごごごごめんなさい!すみません!ありがとうございます!すみません!」

男の人の腕に全然慣れていないせいで、顔が熱くなるのを感じて飛び退いた。
心臓がドキドキしすぎて吐きそうだ。

「さっきまで散々悪趣味なフェチ晒してたくせに、男慣れはしてないのよね〜」
「あああ、当たり前じゃないですか!もう!」

何年間冬獅郎君を見続けてきたと思ってるんだ。
そのせいで彼氏なんかいたことないから男に慣れる暇なんて無かったし、阿散井さんと冬獅郎君じゃ体格が違いすぎるから慌てるに決まってる。

「帰りますからね!また今度一緒に飲みましょうね!」
「はいはーい、またね〜」

逃げるように外に出て、早足で帰ることにした。
まだ足元は覚束ないけど、帰るくらい平気なんだから。そう思って歩いていたのに、自分の足につまづいて転びそうになった。
だけどやっぱり痛みはなくて、誰かに腕を掴まれたことに気が付いた。

「危なっかしいなぁ」
「弓親さん……あ、ありがとうございます」
「あれ?阿散井ごときであんなに照れたのに、僕が触っても動じないんだ?」
「……なめてんですか。触られるくらい平気です。さっきのは、ただ、近すぎてですね、腕に収まるというのが、何と言うか、その……」

説明しきれなかったので、諦めて歩きだしたら弓親さんも私の腕を掴んだまま歩きだした。

「離してくれないんです?」
「どうせまた転ぶでしょ」
「……恐らく」

もしかして隊舎まで送ってくれるのだろうか。
十一番隊舎から五番隊舎までは距離があるから申し訳なかったのだが、転ぶのも怖いので素直に甘えることにした。

「さっき言ってた、阿散井の同期のこと……あれ、気を付けた方がいいよ」
「城宮さん?」
「だっけ?名前覚えれないんだよね、好みじゃないから。今まで何度か阿散井に会いに来てるの見たことあるけど、別に美しくないし興味も無かったんだけど、今日の話聞いた限りだと乱菊さんの言ってた通りの怖い部類の女だと思う」
「……お、脅してます?私がビビるの楽しんでる?」
「素直な忠告だから真面目に聞いて」

弓親さんは思ったより真面目な顔をしていて、少しだけ怖くなった。

「仕事上仕方がない部分もあると思うけど、あまり関わらない方がいい。また飲みに誘われても断るべきだ。何なら僕の名前を自由に使っていいから」
「そんなに……やばいですかね」
「阿散井みたいなチョロそうな男の意見より、僕の勘の方が当たると思うよ」

阿散井さんがチョロいかどうかは知らないが、弓親さんの意見は聞き入れる意味があるような気がした。

「一応、気を付けます」
「逃げたくなったらいつでも十一番隊に異動してきても良いんだからね。僕から更木隊長に頼んであげるからさ」
「逃げるのはかっこ悪いから嫌です。……けど、弓親さんなんでそこまでしてくれるんですか?」
「君が綺麗だからだよ。まぁ僕ほどじゃないけど。だから、僕の手で君を更に美しく育て上げたいと思ってね」
「わ、私を育成ゲームみたいな扱いするんですか」
「特別扱いだけど、嫌なの?」
「……美しくなれたらそりゃ嬉しいですけど、それより先に強くなりたいです」

美しい乱菊さんが傍に居ても動じない冬獅郎君なんだから、同じように私がただ美しくなったところで振り向いてくれないだろう。
冬獅郎君を振り向かせるには、美しさより強さが必要だ……と思う。

「どうしたら強くなれるんですかね……」
「特訓しかないだろ」
「ですよねー」

任務に積極的に参加してれば強くなれるかな。
始解くらいできるんだし、頑張れば卍解くらい……無理かな。

「応援してあげるから頑張って」
「はい!いつか弓親さんより強くなりますよ!」
「僕は負けるつもりないけどね」
「私もです!」

生意気なことを言いながらも、それから色々な話をしながら私の部屋まで送ってもらった。
その間もずっと弓親さんは私の腕を掴んでくれていて、酔いが覚めてきてから少しだけ恥ずかしく感じた。

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