終わりの始まり
腰まで伸ばして手入れしていた自慢の髪を、肩甲骨のあたりまで切った。これでもまだ長い方だが、以前の長さを知っている奴等が見ればビックリだろう。
左腕には包帯を巻いた。普段は見えないが、袖を少し捲れば簡単に見える位置に。念のため、足にも包帯を巻いておいた。
いつも可愛く美しく見られるように努力していた私が、突然髪を切って怪我をしていたら皆どんな反応をするだろう。任務で数日空けていたこともないし、何か厄介事があったと思ってくれるだろう。
「おはよー桃ちゃ……あっ、雛森副隊長」
「あ、おはよう鳴ちゃん…って、髪切ったの!?」
「うん、そうなのー。気分転換……みたいな」
雛森は驚いて私の髪をまじまじと見てくる。
なんとなく不安げな顔をしていたから、更に不安を煽るように、左手で髪を耳にかける。
その際、包帯が雛森にも見えたのか、目を見開いて驚いていた。
「それ、どうしたの!?」
「ふぇ?あっ……えっと、ボーッとしてたら、階段から落ちちゃって……えへ、ドジだよねぇ」
「本当に?他に怪我は?」
「ううん!大丈夫!私は大丈夫だから……」
被害者面して目を伏せてみれば、雛森は私の手を包み込むように握ってきた。
ここまで心配してもらえるなら、どうせなら檜佐木先輩とか藍染隊長に泣き付けばよかった。
「本当に、それだけ?髪の毛切ったのも、その怪我と何か関係あるんじゃなくて?」
「っ……そんなこと、」
「ねぇ、話してくれないかな。私、鳴ちゃんの力になるから」
私のお遊びに本気になる雛森が滑稽で、つい笑ってしまいたくなる。
そっか、雛森は私の力になってくれるのか。
私が目に涙を浮かべて見れば、雛森は私の手を引いて近くにあった資料室に連れ込んだ。
こんな朝早くに人はいないみたいで、うまく二人きりになれた。
「その怪我、誰かにやられたの?」
「……桃ちゃん、私が話すこと、信じてくれる?」
「もちろん。友達が悲しんでるのに、信じないわけないじゃない」
「桃ちゃん……」
別に泣いてはいないけど、それっぽく目元を擦ってみる。
雛森は真剣に心配そうに私を生暖かい目で見つめてくる。
「昨日の、夜なんだけど…階段から落ちちゃって」
「鳴ちゃん、」
「……正しくは、突き落とされて」
自分を守るように、自分の腕をさする。
どう捏造しようかと考えながら雛森から目をそらす。
「誰にも言うなって、脅されたんだけど……やっぱり、桃ちゃんにはお見通しだったかな」
「誰が、そんなことを」
「……ダメだよ、言ったらまた私……」
「髪の毛も、その人に?」
私は黙ってうなづいた。
髪の毛も包帯も自分でやっただけなのに、雛森は私を信じて悲しんでいた。こんなに騙されやすいやつが傍にいてくれてよかった。
「あ、あの、桃ちゃん、このこと、誰にも言わないで?あんまり心配されたくないし、その人にも悪いから……」
「どうして鳴ちゃんが加害者を庇うの?鳴ちゃん、悪いことしてないよね?」
「私がいけないの、私が、あんなことしたから……私が間抜けだから……」
「あんなこと?」
「一緒に呑みに行こうって約束したのに、私が間違った場所を言っちゃってその人を待ちぼうけさせちゃったから……」
雛森はそれを聞いて顔色をかえた。
あれぇ?もしかして犯人わかっちゃった?
「そんなの、わざとじゃないんだから怒るようなことじゃないじゃない……!それに、それって、香月さんのことだよね?」
「え……?な、なんで」
「この前檜佐木副隊長に聞いたの。でもやっぱり、それ鳴ちゃんは悪くないよ。ただの言い間違いかもしれないし、香月さんの聞き間違いかもしれない。それなのに鳴ちゃんに八つ当たりするなんて、おかしいよ」
雛森は怒りと悲しみで声を震わせる。
新入りがそんなことで隊の風紀を乱しているなんて思わなかっただろう。
檜佐木先輩のおかげで話が早く進んでいく。なんて便利なの檜佐木先輩。
「私が直接香月さんに話をつけてあげる」
「だ、だめ!そんなの、だめだよ、こんなの今回だけのことかもしれないし……香月さんを逆上させるようなことになったら、もっとひどいことに……」
「でも鳴ちゃん、」
「お願い、そっとしておいて……私は大丈夫だから。桃ちゃんが話聞いてくれて嬉しかったから…それだけで、いいの」
本人に文句言われて私の嘘がバレるようなことがあったら困っちゃう。
雛森はそんなことは露知らず、私のことを抱き締めてきた。ああやっぱり、雛森じゃなくて男に相談すればよかった。
藍染隊長はわからないけど、檜佐木先輩なら間違いなく雛森と同じことをしただろう。そこに下心も余分についてくるだろうけど。
「私は鳴ちゃんの味方だから……もしまた何かされたら、絶対に私に教えて?私がなんとかしてあげるから」
「桃ちゃん……ありがとう」
ありがとう、私に騙されてくれて。
おかげで心から楽しいよ。
嘘をついた私と罠にはまった香月、泣きを見るのはどっちでしょうね?
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