シロちゃん
私は何を信じたらいいのか解らなくなっていた。
藍染隊長率いる五番隊で、平穏な空気が壊れることなど無いと確信していたのに、たった一人の行動で平穏な空気が乱れていた。
被害の大きさで言えば小さなことだ。たった一人が被害を受けているだけで、隊が壊れるほどではない。でも危害を加えている者も、同じ五番隊にいるということが私を不安にさせた。
最近五番隊に異動してきたばかりの彼女は、日番谷君のお墨付きで日番谷君と仲良しで、絶対に良い子だと思っていた。
ずっと五番隊にいて八席を勤めていた彼女も、長年一緒に働いてきた仲間で、信用も信頼もしていた。そんな彼女を疑う訳ではないけれど、香月さんが悪いことをするような人には見えなかった。
香月さんが五番隊に来てからずっと、私が研修をして色々教えてあげて、それなりに時間を過ごして、香月さんのことを色々知ったつもりだった。知ったつもりでいただけで、私は香月さんのことなんて何も解ってなどいなかったのかもしれない。
「藍染隊長……」
隊長に相談すればきっと何か掴めるかもしれない。だけど鳴ちゃんは、誰にも言わないで欲しいと言っていた。香月さんの立場を守るために、いつも通りに振る舞おうとしていたんだ。それを私が崩してまで隊長に相談しに行ったら、鳴ちゃんが守ろうとしていた香月さんの立場が無くなってしまう。本当に危害を加えたのが香月さんなら、そんなこと気にせず隊長に相談に行きたいのに。
私は本当に鳴ちゃんの言葉だけを信じて良いのか解らない。
だからって香月さんに直接聞いたところで、やっていようがやっていまいが、やってない知らない解らないという答えが返ってくるに決まってる。
「すみません、失礼します」
不意に執務室の扉が開けられて、頭を悩ませるきっかけとなった人の声が聞こえてきた。
「あれ、雛森副隊長。すみません、ノックしたんですが返事が無かったので開けてしまいました」
「そう…だったの。私こそ気付かなくてごめんね」
「いえ。あと、明日までにって言われてた書類、まとめ終わったんですが、どうしましょう?」
香月さんの態度はいつも通りで、何食わぬ顔をしていた。
鳴ちゃんに何かしたような罪悪感など、欠片も感じさせない表情だった。鳴ちゃんにあんなことをしておいてこんなに穏やかにしていられるのだとしたら、それは恐怖でしかなかった。
「後で見るからそこに置いといて。私ちょっと、用事があるから……」
「あ、はい……」
私は香月さんの目を見続けることが出来なくなって、つい嘘をついて執務室を出てしまった。一室に二人きりで過ごすのが嫌だった。
鳴ちゃんは普段通りの生活を望んでいるのに、私はそれができなかった。隊の平穏な空気を取り戻すことなく逃げてしまうなんて、これでは副隊長失格だ。
隊長に相談したいけど、こんな不穏なことが起こっているなんて隊長に知られたくないし、対処できない私の弱さを知られたくない。
そうなったら、藍染隊長以外の人で、口が固くて信頼できる人に相談するしかない。
「シロちゃんっ……」
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