約束の日



約束の日曜日なのに、雨が降ってしまった。寝過ごしてしまってもう昼過ぎになってしまっていたのだけど、買い出しのために家を出た。傘をさしていても足元が濡れてしまうようなどしゃ降りでつらくなる。
買い物を済ませて家に向かう帰り道で、見覚えのある大きなリュックが道端に置いてあることに気が付いた。雨なのに地面に置いてあって、あの番傘も開いたまま落ちていた。

「…豚?」

良牙くんが着ていたような服まで落ちていて、そこに真っ黒の動物がいた。良牙くんとお揃いみたいなバンダナを首に巻いていた。

「良牙くんのペット?」

聞いたこと無かったけど、飼い始めたのかな。それにしても良牙くんはどこへ行ったんだろう。服を脱ぎ捨ててどこかへ行ったとも考えにくいし。

「寒いよね、おいで」

買い物バッグを腕にかけ、空いた手でその豚を抱き上げた。服が汚れてしまいそうだったけど、帰るだけだからと諦めた。地面にあってぐしょぐしょになっている良牙くんの服も一応持って行くことにした。帰ったら洗濯しておいてあげよう。
リュックと番傘もどうにかしておいてあげたかったけど、めちゃくちゃ重いことが解っているからやめておいた。あれだけ重ければ誰も持っていったりしないだろう。

家に着いてからは良牙くんの服を洗濯機に入れて、買った食材を冷蔵庫にしまった。それから雨と泥で汚れてしまったジャケットも洗濯機に放り込み、待たせていた豚をまた抱き上げた。

「…冷たい。生きてる?」

声をかけて撫でてみれば、可愛くない鳴き声をあげた。どうせなら猫とかの方がかわいいのに。

「洗ってあげるか」

風呂場に向かおうとすると、なぜだか豚が暴れだした。洗われるの嫌なのかな。

「このあと良牙くん来るんだから大人しく洗われて!汚いままだと部屋が汚れる!」

豚に言っても解らないだろうが、少しきつめに言ったら大人しくなった。風呂場に行く間に、首に巻いてあるバンダナのようなものを外して、これも洗濯機にいれてスタートを押した。
風呂場に入り、豚を桶においた。

「お湯……だと熱いかな、」

シャワーからお湯を出して温度確認をしていたら、豚が騒がしく鳴いて入り口の方に逃げた。お湯が嫌なのだろうか。

「嫌なら水にしてあげるから、おいで」

蛇口を捻り直して冷水にした。冷たいけど本当に大丈夫かな。ためしにシャワーを豚の方に向けて水をかけたら、はじめはびっくりしていたものの、大人しくシャワーを浴びてくれた。
せっかくだからと思い、シャンプーを手に出して泡立てて、豚を洗うことにした。動物にこの扱いでいいのか解らなかったけど、嫌がらなくなったからまぁいいか。

「流すよー」

シャンプーの泡を流すため、また蛇口を捻って水を出した。つもりだったのだが、間違えてお湯の方を捻ってしまっていた。やばいと思って直そうと思ったのだが、お湯を被った豚の姿が、大きくなって人間へと姿を変えていた。

「り、良牙…くん?」
「ち、違う!いや、違わないけど…違うんだ、こっ、これには深い訳が…!」

色々と聞きたいことはあったけど、全裸の良牙くんとまともに会話ができるわけがないと思い、とりあえず背を向けた。

「は、話はあとで聞くから…ひとまず、シャワー浴びて。タオル、置いとくからさ」
「……はい」

風呂場を出て、バスタオルを解りやすいところにおいておいた。着る服が今洗濯中だから、出たあとに困る、どうしよう。けど落ちてたやつ一応持ってきといてよかった。あのまま服を見捨てていたら全裸の良牙くんを家に置いておくことになっていただろう。危ないところだった。
何かしら服を着てもらわないと私としても目のやり場に困ると思い、自分のタンスを漁った。そしたら大きさを間違えて買ってしまっただぼだぼのパーカーが出てきたのでそれを用意しておくことにした。
こんな状況と言えども良牙くんがいるわけだから、とりあえず晩御飯の用意をして待っていたら、洗濯機が鳴ったので洗濯物を干した。

「あの……、はるか…さん」

脱衣場の扉越しに声がしたから、急いで近寄った。

「パーカーはありがたいんだが……下は、あの、タオル巻いた格好で居ても、大丈夫か?」
「うん……むしろタオルすら巻かない状態で出てこられても困るしどうぞ」

良牙くんは申し訳なさそうに脱衣場から出てきた。パーカーはちょうどいいくらいの大きさだった。下はまぁタオルだしあまり見ないようにしておこう。

「ご飯食べるよね?もう少しでできるから、座って待ってて」

食卓の席に座らせて、急いでご飯の支度を済ませた。良牙くんはそわそわとしていたが、話は食べながらでも聞くことにしよう。

おかずも出来上がって全て並べて、良牙くんの向かい側に腰かけた。良牙くんは少し下を向いていて、顔色が悪そうだった。

「…ごはんより先にお話し聞く方がよかったかな」
「……あぁ」
「とりあえず質問するけど……水をかぶったら豚になって、お湯で元に戻るってことでいいんだよね?乱馬くんが女になるのと同じ原理?」
「あぁそうだ……今日もはるかの家に向かう途中で雨が降って、傘はさしたんだが、車のせいで水溜まりから跳ねた水をかぶってしまった。それであんな醜い姿に…」

どうやら良牙くんはあの姿が気に入らないらしい。人間ですらないし、そりゃそうか。

「はるか」
「なに?」
「今まで騙していて悪かったな。俺の正体は豚だったんだ」
「正体って…別に、本当の姿は人間の良牙くんでしょ?水かぶって豚になるからって、別に良牙くんは良牙くんなんだから、気にしないよ」

そう言うと、やっと良牙くんは顔をあげた。まるで希望を見つけたような、驚いた顔で。

「俺が豚でも、本当に気にしないのか?」
「うん。お湯で元に戻るんでしょ?そしたら普通に喋れるし、ご飯だって食べてもらえるし、全然問題無くない?」
「…ありがとう」
「ん。これで解決ってことでいいのかな?ほら、冷めないうちにご飯食べよ」
「…そうだな。いただきます!」

良牙くんは安心したのか、なんだか嬉しそうにご飯を食べてくれた。いつになく嬉しそうなのが本当に嬉しくて、私もご飯を美味しく食べることができた。急いで作ったから味や焼き加減に不満はあったけど、良牙くんが美味しそうに食べてくれるから元気が出た。

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