下心を抱えて


「くそっ!ここはどこなんだ!」

聞き覚えのある声がして、ふとそちらに顔を向けてみた。すると、公園の奥の茂みを掻き分けて姿を現したのは、紛れもない良牙くんだった。
私が見ていたせいもあり、良牙くんとばっちり目が合ってしまう。どうしようかと思っていたら、良牙くんの方から近寄ってきた。

「久し振りだな」
「そうだね。元気だった?」
「俺は元気だ。あかねさんももう元気だろう。だがあのときはすまなかったな。反省した」
「あ……そう、なの」

あかねも元気になってるし、良牙くんに対してもう怒ったりしていない。
だけど今、何だって?あかねさん?良牙くん、そんな呼び方するほどあかねと仲良くなってたの?いつのまに?

「良牙くん私の名前覚えてる?」
「はるか……、さん」
「呼び捨てでいいよ」
「……そうか。……あ、これ京都土産だ。やる」

良牙くんは箱入りのお菓子を私にくれた。でかでかと熊本と書かれているのだが、本当に良牙くん大丈夫か。

「それで、ここはどこだ?」
「…東京だし、私の家の近くだよ。今日はどこ行く予定なの?」
「あかねさんに土産を渡しに行こうかと」

ほんとになんなの?あかねさん?あかねといつ仲良くなったの?私そんなの知らないんだけど。照れてる良牙くんちょっとうざいんだけど。あかねに惚れた?まさか?私の知らない間に何があった?

「私も今からあかねのとこ遊びに行こうかと思ってたの。一緒に行く?」
「そうだな!行き先が一緒ならしょうがないな」

しょうがないって何さ。迷子なのは良牙くんなんだから、むしろ私がしょうがなく連れていってあげる側だよ。

「行くよ」

気にくわないけど、良牙くんの袖を掴んで引っ張った。乱馬くんだけでなく良牙くんまであかねに惚れるとか、ずるい。二人もいるなら一人くらい手出してもバチあたらないよね?

「はるか、その、これはやめられんのか」

ふいに名前を呼ばれてドキッとする。これというのは袖を引っ張る行為のことだろう。私にされるのはやっぱり嫌なのか。

「迷子になって困るのは良牙くんでしょ」
「…俺のためか?」
「それ以外何があるの」

本当はそんなことより、ちょっとでも良牙くんの気を引きたいってだけだけど。

「お前、優しいな」
「……は!?」
「出会った時から数回しか会っていないというのに、毎回俺を目的地まで連れていってくれているではないか」
「…まぁ」
「ありがとな」

にこっと微笑まれて、ずきゅーんと心を射抜かれる音がした。

「べ、別に。このくらいお安いご用だし」
「そうか、助かる」

ああもう、また勢いで手でも握ってしまいたい。でもあかねの家行くのに、そんな姿見られたくない……って、でもこの前の決闘のときにうっかりみんなに見せ付けてしまったし、気にするのも今さらなのか?
もやもやしながらも、天道家についてしまう。二人きりの時間ももうおしまいか。しぶしぶと袖から手を離す。
特にあかねに用があったわけでもないのに、良牙くんに媚びを売りたいばっかりに案内してあげてしまった。どうしよう。

「おっ、はるかと良牙じゃねーか。どうした?」
「良牙くんが迷子だったから連れてきたの。あかねいる?」
「おー居るぜ。上がってけよ」
「ありがと、お邪魔しまーす」

乱馬くんに居間へと案内されると、テレビを見ながらくつろいでいるあかねがいた。

「あら、どうしたの?」
「へへ、来ちゃった」

良牙くんを見てみれば、なんとも嬉しそうな顔をしていた。あかねに会えたのがそんなに嬉しいか。私のおかげなんだから感謝してほしいものだ。

「あかねさん!お久しぶりです。これ、京都土産です」

良牙くんは熊本土産を差し出しながらあかねの近くに座りやがった。しかもこいつ、あかねに敬語使ってるのか。私には何の気も使わないようなしゃべり方するくせに。あかねの前じゃかわいこぶっちゃってさ。

「わー、いつもいつもありがとう!」
「京都じゃねーじゃん…」

いつもって何。そんなにも会ってたの?私の知らないうちに?ずるいずるい。私だけ除け者みたいじゃん。

「こんなに遠くまで行って、また修行?」
「えっ!ま、まぁ、そんなところです」

修行なら修行だと言えばいいのに。言いにくそうに誤魔化すあたり、どうせ道に迷っていたのだろう。迷子しながら国内旅行って、どんな体力だ。

「あ、私お茶いれてくるね!ちょっと待ってて」

あかねは席を立ち、居間を後にした。その後ろ姿を見つめる良牙くんがすごく可愛いんだけど、ちょっとだけむかついた。

「良牙はお茶より水でもかぶる方が似合ってんじゃねーか?」
「ほう…貴様、何が言いたい?」
「言っていいなら言うけど」

乱馬くんはにやにやしながら、ちらっと私を見る。それに続いて良牙くんにもチラ見される。何なんだ。

「言ったら殺すぞ」
「おめーに俺が殺せるかよ」
「何なら今から試してみるか?修行の成果を見せてやる」
「修行じゃなくて迷子してただけの奴がよく言うぜ」
「何だと…」

良牙くんが乱馬くんに掴みかかろうとしたところで、あかねが居間に戻ってきた。よかった、二人の喧嘩は私じゃ止められない。

「おまたせー」
「ありがとうございますあかねさん!」

ころっと態度を変えて媚びを売る良牙くん。私があんな風な態度されたらもう良牙くんが可愛くて仕方がないだろうに、どうしてあれが向けられるのが私じゃないんだ。

「せっかくだから、お土産食べようか」

そんなの、私よりあかねが優しくて可愛いからだって、わかってるんだけど。

- 5 -

←前次→