私だけを見て
学校から家に帰ると、私の家の前で座り込んでいる人影が見えた。もう日が暮れていたせいで誰だか解らなくて不審に思ったのだが、こっそりと近付いてよく見てみたら、良牙くんだとわかった。
「良牙くん?」
声をかけてみたら良牙くんは顔をあげた。
「よかった、今日も会えないかと思った」
なんて嬉しそうに微笑んでそう言われて、不覚にもドキッとさせられた。良牙くんは立ち上がり、躊躇いながらも私の前に花束を差し出してきた。
「…えっ、な、なに?え?」
「礼をすると言っただろうが。渡すのが遅れて少し元気が無くなってしまったが…たぶんまだ大丈夫だ」
数本のチューリップが束ねられていて、赤やピンクが鮮やかでかわいかった。元気が無いということは買ってから時間が経ってしまったのだろうが、その間私を探し求めてくれていたということでもある。こんなに嬉しいことはない。
「本当は、もっとちゃんとしたものの方がいいかと思ったんだが……何が良いのか解らなくてな」
「いいよ、嬉しい。ありがとう」
良牙くんが私のために迷って選んで、ちゃんと私の家を覚えていてくれて、ちゃんと渡してくれたことが、嬉しい。私のことを考える時間が存在しただけで嬉しい。
「そうだ、ご飯食べてく?今から作るからちょっと時間かかっちゃうけど、どう?」
「いや……もうこんな時間だし、そろそろ寝床を確保しに行く」
「…そっか。残念。来る日解ってたらちゃんと作っておけるんだけどね」
まぁそんなこと良牙くんと約束したところで、約束通りに良牙くんがうちに辿り着けるとも思えないけど。
「…今度の日曜日、来てもいいか?」
「私は構わないけど…ちゃんと来れるの?」
「大丈夫だ。その、最悪、乱馬に連れてきてもらう…」
「乱馬くん、うち知らないよ?」
「げっ、じゃああかねさんに…いや、でもそれは……うーん」
そりゃまぁあかねのことが気になる良牙くんとしては、他の女の家に行きたいから送ってだなんてことをあかねに言えるわけがない。まぁでもせっかく来ようとしてくれてるんだし、どうにかして呼びたい。
「じゃあさ、乱馬くんにうち覚えさせておくから、日曜日絶対来てね。夕飯の用意、めちゃくちゃ頑張ってしておくからね」
「わかった。だが、頑張られてしまったらまた礼をしないといけないな」
「いいんだよそんなこと。私が食べてもらいたいから作るんだもん。気にしないで」
「…そうか?」
「うん」
嬉しくてにこにこしていたのだが、良牙くんのリュックにもう一つチューリップの花束が乗っていることに気が付いてしまった。
「ねぇ、それは?」
「えっ、あの、えっと…つ、ついでに、渡そうと思って、えっと、あかねさんに」
ああやっぱりな、とため息をつきたくなる。はにかみながら答える良牙くんがとても可愛くて、同時に少し憎かった。これじゃあ本当に私のために花束を用意したのか解りゃしない。
「あかねの家まで行ける?」
「……たぶん」
「…送ってくよ。これ花瓶にさしてくるからちょっとだけ待ってて」
「し、しかし、今からご飯の用意があるんだろう?迷惑かけるわけにはいかん」
「別に、母さん帰ってくるまでにできればいいんだし、まだ大丈夫だよ。それに、良牙くん一人じゃあかねの家に着くまでにそれ枯れちゃうよ」
それは嫌なのか、良牙くんは少しうつむいて考え込む。私といるのにあかねのこと考えてるんだよね、悔しい。
「じゃあ…頼んでもいいか?」
「うん、もちろん」
そして私はとりあえず、貰った花束を持って家に入り、急いで花瓶にさした。とても鮮やかで綺麗なのに、あかねのことを思って選んだかもしれないと思うと気分が重くなった。
今から笑顔のまま良牙くんを送り届けられるか不安だったけど、やるしかない。二人並んで歩けるだけでも幸せだと思い込んで、がんばろう。
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