ラッキースケベ
「いくぜっ!」
今日の演習もまた、切島くんが相手だった。この前のリベンジ戦だし、負けていられない。
少しずるいかもしれないが、私は私の個性をうまく使うために、前もって緑谷くんに相談していた。彼は皆とその個性をよく見ているから、もしやと思い聞いてみたのだ。そしたら良い案がいくつも出てくるし、どういう個性が相手ならどう動くべきか、なども考えてくれて、ものすごく頼もしかった。ただ、手とかが不意に触れそうになったときとかに凄い勢いで避けられたのは寂しかったけど。彼、何か知られたくない秘密でもあるのかな。
「ガウッ!!」
以前と同様に、すぐ獣化して立ち向かった。以前と違うのはルールの方で、今回は戦って勝てばいいだけでなく、相手を捕獲することが勝利条件だった。ヒーロー役が敵役に、先生が用意した手錠をかけられれば勝ちだ。しかし敵に10分間逃げ続けられると、ヒーローの負け。もしくは、戦闘不能になった場合も、ヒーローは負けである。
そして今回、私がヒーローで、切島くんが敵だった。
「はっ、はえぇよ!」
他のクラスメイトたちは敵役が逃げるのが速かったり上手かったりしたからかくれんぼ兼鬼ごっこのような感じだったのだが、人間の足で走る切島くんに、狼の私が追い付けないわけがなかった。
切島くんは背中を向けて走るものだから、私のイメージとしては、今の速さで背中に飛び乗り、人間の姿に戻って手錠をかけて終了というスマートな流れが思い付いていた。
うまくいくか解らないが、切島くんの背中目掛けて飛び付いた。
「ごめん!!」
切島くんは硬化した腕をぶん回しつつ振り向いた。腕の動きも見えていたのに、地に足がついていなかったせいで避けられず、その硬い腕が私にぶつかった。
めちゃくちゃ痛いし、飛ばされた私の体は壁に当たって床に落ち、身体中が痛んだ。
体を起こして前を見ると、もう切島くんの姿は無くなっていた。隠れたって無駄だというのに。
私は嗅覚を使って切島くんのにおいを探した。そしたら簡単に見つかって、私はその方向に駆け出した。
「逃げられねぇなら堂々と戦ってやるぜ!」
まさか切島くん自ら飛び出してくるとは思わなくて、一瞬ひるんでしまった。しかし勢いを落とすわけにはいかず、すぐに切島くんへと駆け出した。
今回のリベンジで重要になるのは、いかに切島くんの隙をつくかだ。緑谷くんと相談したちょっとズルい手が、切島くんにきくかどうか。
「こい!」
切島くんは腕だけでなく全身硬化しているようで、噛み付けそうなところがなかった。しかし全身ということは私の攻撃を防ごうとしているわけで、切島くんは攻撃をしてこないのではないか。
一か八か、正面から首に噛み付くつもりで飛び付いた。スピードはあったものの、切島くんは右腕を出してそれを防いだ。おかげで硬い腕に噛み付くことになり、歯が痛んだ。しかし目の前に腕があるのだからこのまま人に戻って手錠をかけてやろうと思ったのだが、その前に切島くんに腕を掴まれ投げられそうになった。
「残念!」
投げられないように人に戻り、踏ん張った。
「どっちが!」
しかし切島くんの力が予想以上に強く、踏ん張ったところで私の体は投げ飛ばされた。そのままの姿で地面に投げ出され、全身に痛みが走った。
「悪いな」
その隙をつかれて腕を掴まれ、地面に押さえつけられそうになった。逃げるために切島くんを蹴ってみても硬くてきかないし、焦った。両腕掴まれたら手錠をかけられなくなるから負けてしまう。
ひとまず逃げようと、瞬時に獣化して、緩んだ切島くんの手から無理やり抜け出した。
「あっ、こら!待て!」
走ってみたものの、咄嗟に尻尾を掴まれて、一瞬力が抜けたところで胴体ごと抱え込まれて両腕動けなくされてしまった。
「よし、もう戦えねーだろ!」
じたばた動いてみても、切島くんの元々の力と個性のせいで歯が立たなかった。緑谷くんにアドバイスされた隙を突きまくる作戦も実践できなかったし悔しい。ほんとは獣化と人化をもっと繰り返して惑わせるはずだったのに。
「悔しい!」
せめて人に戻って少しでも動ければ手錠をどうにかできるかもと思い、最後の悪足掻きとして、人に戻ってみた。骨格が変わったおかげで隙間ができ、手探りでポケットから手錠を取り出した。あとは切島くんの手首に手錠をかけるだけだったのだが、体に違和感を覚えた。
「き、切島くん…手…」
切島くんはずっと私が動けないように両腕で私の身体を捕らえていたのだが、私が人に戻ったことにより、不運にも切島くんの手のひらが覆い被さっていたのが私の胸元だった。
「うわっ、ごめん!!」
切島くんはすぐに私から離れたのだが、触られたことによる心へのダメージはそれほど無かったから、直ぐ様切島くんの手を引いて、手錠をかけた。
「私の勝ち!!」
「まじか!!」
勝てたことに満足して切島くんの顔を見れば、髪色でもうつったのかと思うくらいには赤面していた。たしかに切島くんが触ったのは私の、女子の胸だけど、事故だからそこまで気にしなくてもいいのに。しかし照れて目も泳いでいる様子を見ていたらなんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、切島くんから手を離した。
「お見事。事故はあったようだが大神の勝ちだ」
「はい!」
「それと切島、その調子だと敵が女だったとき危ない。平常心を保つように」
「…うっす」
切島くんが私のせいで覇気が無くなったと思うと、少しだけ申し訳なく感じた。今回は偶然勝てたようなものだし、相手が男女平等攻撃をしかけてくる爆豪くんみたいな人だったら勝てなかった戦いだ。ほぼ、運である。
「あと大神、獣化しか使わなかったろ」
「え?はい…」
「せっかく接近戦で相手に噛み付いたり飛び付いたりしてんだ。その隙に相手の心読んで攻撃を防ぐくらいしろ」
「なるほど…!」
獣化で戦うことしか頭になかったけど、私の場合は頭脳戦もできるのか。そういえば緑谷くんもそのこと言ってた気がする。やはり両方の個性をコントロールできるようにならないと、実力で勝利を掴むのは難しいだろう。
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