知ることが怖い
最近、切島くんの様子がおかしい。
「おはよう」
「おう!おはよ!」
別に、挨拶すればいつも通りの明るい笑顔で返してくれる。だから気のせいかなって思ったりもするのだけれど、どうしても拭えない違和感があった。
前までは、そのまま雑談とかしてくれて、喋ってたら上鳴くんとか三奈ちゃんとかが混ざってきてお喋りとかしていたのに、それが格段に減っていた。挨拶してすぐ教室を出ていってしまったりとか、困ったように笑って目をそらされたりだとか、別の子のとこに行って喋ったりとかして、それが続くと私も不安になってきた。切島くんが他の人と喋るのは何ら問題無いのだけれど、たまには私とも喋ってほしいとか、私が切島くんに何かしてしまったのかなとか、思ってしまう。
「…切島くん、数学の宿題やった?」
だからたまには、私から、切島くんと会話できるように頑張った。切島くんはきょとんとして、数秒の間を置いてからハッとした。
「やべぇ!やってねぇ!!結構量あったよな!?」
「う、うん」
「うわー、しまった…!大神は?やった?」
「一応」
「くっ……恥を承知で頼む!見せてくれ!俺の頭じゃ今から解いてたら間に合わない!」
あぁ、なんだ。普通に会話してくれるじゃないか。いつも通りの切島くんだ。
「私も答え合ってるか解らないけどね。間違ってたら、ごめんね」
「いい!大神数学得意だろ?大丈夫!」
得意なわけじゃないけど。あぁでも、苦手意識も無いから、得意ってことになるのかな。なんで切島くんそんなこと解るんだろ。
「ノート見にくかったらごめんね」
「おう!サンキュ!」
いつも通りな切島くんにほっとして、数学のノートを切島くんに手渡した。切島くんの笑顔でこんなにも安心できるなんて、おかしいのは私なのかな。
「わわっ」
ノートを渡すときに切島くんの指に少し触れてしまった。その瞬間、一瞬だけ切島くんの表情が強張って、ノートが落下していった。
「悪い!」
切島くんはそれをすぐに拾って、軽くはたいて机に乗せた。
「いいよ、気にしないで。それより早くうつさないと」
「そーだな!」
別に、ノートを落とされたからといって支障は無い。そんなことよりも、私が気になるのは切島くんの表情だ。個性の特性上、さっきのような表情は嫌と言うほど見覚えがあった。私にうっかり触れてしまって、やばいと思った人たちと同じ顔を切島くんにされてしまった。それがバレていないとでも思っているのか、切島くんは既にノートをうつし始めていた。
今まで、初めて会った時からずっと、切島くんは一度もそんな態度とってきたこと無かったのに。他の誰にされても割りとどうでもよかったのに、切島くんにされるのは、苦しかった。
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