ご主人さま
あれからたびたび響香ちゃんやお茶子ちゃん、切島くんたちが私を驚かせる日々が続き、背後の気配にめちゃくちゃ敏感になっていた。おかげで驚かなくなってきたし、私は解決策を見出だした。
「大神、耳出しっぱなしにすることにしたんだな」
初めはほんとに恥ずかしかったし、しまえるものを出しっぱなしにするというのは無駄に個性を使っているだけだから、先生にも突っ込まれた。しかし個性をコントロールできるようになるまでは好きにしろと言ってもらえたため、お言葉に甘えた。実際、葉隠さんが透明なままなこともあり、そのへんは緩いようだ。
「出しとくと周りの音めちゃくちゃよく聞こえるから、人が近付いてくるだけでもすぐ解るの」
「あー、だから最近呼ぶ前に振り向くのか」
「みんなの足音もなんとなく覚えてきたしね。後ろから来ても切島くんだって解るんだ」
「なんか、飼い犬みたいだな。狼だけど」
切島くんは喋りながら私の耳に触れる。いつも私の獣耳を見るたびに触ってくるけど、正直なところめちゃくちゃくすぐったい。人の耳を触られるのも獣耳を触られるのも同じ感覚だし、ぞわぞわする。しかしそれを言ってしまえばまた峰田くんとかに今度は耳を狙われそうだし、ここは耐えるしかない。
「犬だったらもっと人になついてるよ」
「今でも結構なついてね?俺の足音聞いて振り向くし、駆け寄ってくるし、尻尾出てるときわさわさ振ってるし…」
あれ、私ってそんな風だっけ。たしかに足音の判別ができるようになってきたからクラスメイトが近くに居るとすぐ反応しちゃうけど。駆け寄ったりしてたっけ?ていうか尻尾そんなに振ってるの?すごい恥ずかしい。
「切島ちゃんに随分となついているわよね」
「えっ」
梅雨ちゃんはそれだけ言ってにこりと笑い、そのまま通り過ぎて行った。
待ってよ、その言い方だと私が切島くんにだけなついているみたいじゃない。
「……犬っぽくなついてんのって、俺にだけなのか?」
小声で控えめに、切島くんは聞いてきた。
「そ、そんなこと聞かれても、解んないよ、尻尾自分で見えないし、他全部無意識だし……」
「だ、だよな。わかんねーよな、変なこと聞いて悪い」
なんだろう、端から見てて、私の切島くんへの態度変なのかな。ていうか切島くんも、なつかれて迷惑だったりするのかな。どうしよう、不安になってきた。
「あ、別に、なつかれて嫌だから聞いたわけじゃねーからな?そこは、勘違いすんなよ」
私の不安を悟ったのか、切島くんはなんだか少し照れたようにそう言ってくれた。やっぱり切島くんは優しい。そういう個性なわけでもないのに、私の不安を察してくれるなんて。
「ありがと」
今尻尾出てなくてよかった。もし今出ていたら、嬉しすぎて、ちぎれるくらいの勢いで尻尾を振ってしまっただろうな。
- 9 -
←前・次→