砕かれた心



今日もいつも通りの時間に電車に乗って、いつも通り登校するところだった。いつもと違うのは、今日こそ切島くんと会話をするという意気込みだった。泣いてまでみんなに心配かけてしまったし、どうにかしかないとみんなにも申し訳ないし、私も調子が戻らない。


「はぁ…はぁ…」

天気が雨なせいか、今日の電車は人が多かった。蒸し暑いし臭いし最悪で、その上知らない人と密着して、個性を使ってしまわないように抑えるのに必死だった。満員電車だから狭いのは仕方がないのだが、背後に違和感を覚えるようになった。
いつも通り、周りの状況把握のために獣耳を出しっぱなしにしていたのだが、その耳のあたりで荒い息が聞こえるし吐息がかかって不快だった。狭いから仕方がないとずっと自分に言い聞かせていたのだが、電車が揺れるたびに、お尻を撫でられるような感触があった。最初はカバンか何かが当たっているだけだと思ったが、それにしてはよく動き、次第にそれが誰かの手なのだと気が付いた。

周りを見ても逃げられそうな隙間は無いし、逃げるなら扉が開いた瞬間だ。でも、雄英高校はまだまだ先だし、そもそも雄英高校の人間が、痴漢ごときから逃げ出していいのだろうか。
考えているうちに時間は経ち、気付けば痴漢は手のひらで堂々と私のお尻を撫でたり、揉んだりしていた。私はヒーローになるんだから、このくらいの奴に屈してはいけない。やめてと言うために恐る恐る振り返ってみれば、頬を上気させた知らない男と目があった。男はにやりと口角を上げて、私の耳に息を吹き掛けてきた。気持ち悪くてぞわっとして、泣きそうになった。命の危機なわけでもないのに声なんか出せなくて、自分の無力さを思い知った。心が折れたその瞬間、男の心の声がぶわっと私に流れ込んできて嫌悪感でいっぱいになった。

「おい!どこ触っとんだてめぇ!」

人混みに押されたかと思うと、聞いたことのある声とともに腕を引かれた。

「待てやコラ!!」

気付けば痴漢は電車から降りようとしていて、私も腕を引かれてそのまま電車を降りることになった。

「てめぇ俺に手間かけさせといて逃げられると思うなよ!!」
「ご、誤解だ!俺は何も、」
「何もしてねぇのにこいつがここまで怖がるわけねぇだろうが!!オイそこのお前、駅員呼んでこい!」
「は、はい!」

爆豪くんは私の肩をしっかり掴んで支えてくれて、痴漢の腕も潰しそうなくらい掴んでいた。電車は行ってしまったけど、私は助かった。助けられたのだ。

「オイ、耳しまえ。周りうるせぇだろ」
「…」

言われた通り耳を引っ込めれば、周りの人たちの声が一気に静かになって「痴漢か?」「雄英じゃん」「可哀想」などの声が、ただのざわざわという雑音へと変化した。
しばらくすると駅員さんがやってきて、痴漢は誘導されていき、話を聞くために私たちも連れていかれた。


「ごめん爆豪くん、遅刻しちゃうよね…」
「悪いと思うならあのくらいどうにかしやがれ。ヒーローが助けられてどうすんだ」
「…ごめん」
「泣くな!泣いても俺は慰めてやらねーぞ」

爆豪くん、優しいんだか厳しいんだかわかんないよ。
そんな気難しい爆豪くんと一緒に駅員さんや警察に詳しく話を聞かれ、めちゃくちゃ気が滅入ってしまって、登校する爆豪くんをよそに、私はそのまま帰宅することにした。

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