負けたくない
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「…大丈夫」
告白現場を見てしまってから気が気でなくて、落ち着かなかった。 もし切島くんが、あの告白を受け入れてしまっていたらと考えるだけで、泣きそうだった。響香ちゃんたちとも話したが、やはりあの場で逃げ出さずに切島くんの返事を最後まで聞くべきだった。
「無理すんなよ。早く帰って休むか」
「…うん」
聞きたいのに、怖くて聞けないのがもどかしい。個性を使ってしまえば、少し触れるだけで全て解る。でも、勝手に読んだりしてもし切島くんにそれがばれたら、今まで通り仲良くできる気がしなかった。
「朝からさ、席離れちまったからなんか物足りないんだよな」
「…私も。爆豪くん簡単に喋れないし、峰田くん喋りたくないし…」
「峰田が聞いたら泣くぞそれ」
しょうがないよ、苦手なんだもん。あんなピンクの脳内した人が真後ろに居ると思うだけでちょっと、悪夢のようだ。
「…やっぱり、切島くんの隣が一番いい」
「もう一回席替えして欲しいな」
席替えもそうだけど、普段も、切島くんの隣に居たい。もし他の女の子に先に切島くんをとられたら、切島くんの隣に居られなくなってしまう。切島くん優しいから私と登校する約束守ってくれるだろうけど、優しいから、彼女泣かせないために、私から離れちゃうと思う。
「…大神ほんとに大丈夫か?今にも倒れそうな顔色してて見てて心配だぞ」
「大丈夫だよ、体調悪くないし」
「じゃあ何かあったんか?俺で良ければ聞くし、どっか寄ってくか?」
何かって言われても、全部切島くんのことだし、本人に直接言うなんてこと、できない。私には昼休みのあの子のような勇気は無い。当たって砕けてしまったら、それこそ切島くんの隣になんか居られなくなってしまう。それだけは、絶対に嫌だ。
「大丈夫、明日になればきっと元気になるから…」
「…そっか。早く元気出せよ」
切島くんは頭を撫でてくれる。切島くんが触れてくれるだけでめちゃくちゃ安心して、嬉しくて、心があたたかくなった。
「元気出た」
「やっぱ犬みてぇ」
「狼だよ」
「知ってる」
こんなにも嬉しいのに、寂しいのはなんでだろう。頭を撫でてくれる理由が、女子としてでなく犬として見られているからだろうか。ほんとはどんな気持ちなのか、今このまま切島くんの心を読んでしまえば全部解る。そんなの個性の悪用でしか無いし、やったらだめだ。だめなことをしてしまいそうな自分が、少し嫌だ。
黒い気持ちを抱えたまま、他愛の無い話をしながら電車に乗った。切島くんの隣に居ることが、こんなに嬉しくて、こんなにも、苦しい。
「…切島くん」
「ん?」
好きだよ、なんて言えたらどんなに楽か。でも振られたくないし、振られるくらいなら、このまま、友達のままでもいいから、隣を独占していたい。
「…お昼の時、見ちゃった。…告白」
「あ。…まじか、おう」
「…切島くん、モテるね」
「そんなことねーよ。全然モテねーって」
「…付き合うの?」
震えそうになる声を抑えて、恐る恐る聞いてみた。
「や、申し訳無いけど、断った。知らない子だったし…付き合うの、イメージできなくて」
「…断ってよかったの?」
「まぁ、な。嬉しかったのは確かだけど、俺まだ未熟だし、大神にも勝てないくらいだし、もっと、何があっても相手を守れるくらい強くなってからじゃないと、そういうのダメかと思って」
私が切島くんに勝てたのなんてほぼまぐれだし、全力でやったら絶対に切島くんの方が強い。今まで私が勝ったのは、切島くんの優しさが私に遠慮していたからじゃないか。
「強くならねーと、俺が守る!って言っても説得力無いだろ」
「…そんなことないよ、切島くん強いもん」
「ありがとな。でもまだ、俺自身納得できるような強さじゃないからさ」
「…私に勝てたら納得できるの?」
「ひとまずそうだな。俺も大神も同じ近接型な訳だし、相性の問題じゃ無いと思うから、とりあえず大神に勝たないと始まらないな」
私に勝てたら、切島くん自信付いちゃうんだ。それは別に良いけど、自信が付いて彼女作っても良いかとか思われちゃったら、困る。また次今日みたいなことがあったら、もしかしたら告白も受け入れちゃうかもしれないの?
「私、負けないよ」
「え」
「戦闘も、勉強も、全部。切島くんに負けない」
「せ、宣戦布告か?」
「うん」
邪魔してごめんね。でも私、切島くんに彼女なんか作って欲しくない。だったら、私が切島くんに勝ち続けて、彼女を守れる自信なんてものは作らせたくない。
「なら、来週の戦闘訓練、また勝負しようぜ」
「…私が勝つよ?」
「俺が勝つ!今度の試験は普通に負けそうだけど…戦闘くらい勝たねーとかっこ悪いし」
切島くんはかっこいいよ。そんな言葉は飲み込んで、今度も勝つと決意した。
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