後ろめたい
「うそ…」
勝つと宣言したのは誰だっただろうか。切島くんに彼女を作らせないために決意したのに、対策もめちゃくちゃ考えておいたのに、私の体は捕縛ロープで縛られて転がっていた。
「やっと勝てた!」
切島くんは笑顔で私を見下ろしていた。私は泣きそうだった。獣化も読心も使って全力で切島くんの動きを読んで頑張ったのに、勝てなかった。
「…悔しい」
「ごめんな、結構怪我させちまって」
「いい。切島くんが全力でやってくれた証拠だもん」
切島くんは心配そうにしながら、私を縛る捕縛ロープを外してくれた。
「わ、顔も擦ったのか、まじでごめん」
「いい」
ヒリヒリと痛むほっぺに触れられる。切島くんの指の感触が変だし、たぶん擦り傷になってしまっているんだろう。負けた悔しさと傷の痛さが相まって、涙を溢してしまった。
「そ、そんなに痛いか?ごめんな!?」
首を振って否定するけど、涙が止まらなくて説得力の欠片も無かった。切島くんに心配をかけさせてしまう罪悪感もあって、余計に泣けた。
「大神。…一緒に帰るか?」
帰り際、切島くんはいつもと比べ物にならないくらい控えめに聞いてきた。目の前で泣いてしまったせいだろう。めんどくさい奴だと思われていそうで、気分が重い。
うなづいて、切島くんと一緒に教室を出た。ちょっとだけ空気が重いのも、私のせいだろう。
「…今日の戦闘さ、読心も使ってたんだよな?」
「うん。負けたくなかったから…」
「その…どの程度読めるんだ?戦闘中の瞬間だと」
「読んだ瞬間の、次どう動こうとしてるのかとか、どこ狙ってきてるのかとか、そのくらい。頑張って読んだけど、切島くん反射神経良いから考えてたこととすぐ違う動きして、やりづらかった」
こうなったら私も素早さを上げるしかないのかな。体力つけないと、切島くんにはもう勝てなくなりそう。
「…じゃあ、俺が大神に勝ちたかった理由とか、そのへんまで心読めたわけじゃなかったりすんのか?」
「戦闘中の一瞬じゃ読めないよ。…でも、勝ちたかったのって、強いって自覚して、彼女作りたかったからとかじゃないの」
「はぁ!?いや、そ、そんな認識だったのか?」
「…違うの?」
切島くんは困ったような顔をして、苦笑いをした。なにその顔は。
「あれ?じゃあ大神が俺に負けないって宣戦布告してきたのってどういう理由だったんだ?…俺が勝ちたい理由の、邪魔したかったんじゃなくてか…?」
お互いに顔を見合わせて首をかしげてしまった。色々と認識のずれがある。なにかがおかしい。
ただ一つ解るのは、切島くんが大事なことに気づきかけているということだった。私が、切島くんに彼女ができないように邪魔したかったということに。
「…負けて、泣くほど邪魔したかったんだよな?」
私の心の狭さを、汚さを、切島くんに感付かれてしまった。知られたくなかったのに。
「…ごめん、私、嫌だったの」
「へ?」
「切島くんの隣、他の子に取られたくなかった」
付き合ってもいない、ただの友達なのに、独占欲を丸出しにしてしまった。好きだとか思ってしまったせいで、切島くんの邪魔をしてしまった。
「ごめんね、 もう邪魔しないから、嫌いにならないで」
これ以上私の醜い嫉妬心を知られたらまた泣きそうで、誤魔化すように獣化して、切島くんから逃げ出した。切島くんが私を呼ぶ声は聞こえていたけど、これ以上泣き顔を見られたくなかった。
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