全て許して
いつも通り切島くんと登校するのは気が引けて、先に行くと連絡を入れて先に登校した。1人で電車に乗るのも久々だったけど、人が少なくて、不安は無かった。ただ、隣に切島くんが居ないのが、寂しかった。
「大神さん、おはようございます」
「おはよう」
「今日はいつもよりお早いのですね。切島さんはご一緒じゃありませんの?」
八百万さんはごく当たり前のようにそんなことを聞いてきた。毎日一緒に登校してたし、気になるものなのだろうか。
「…切島くんに、変なこと言っちゃった」
「あら、喧嘩でもされたんですの?」
「…違うの」
私の汚い嫉妬心を知られてしまって、それを認めてしまった。昨日の私の言い方だと、私が切島くんを好きなことだってバレていそうだ。どんな顔して切島くんに会えばいいんだ。
「最近の大神さん、元気が無くて心配になりますわ」
八百万さんは私を包み込むように優しく抱き締めてくれた。甘えたいけど恥ずかしくて、ごまかすために獣化して八百万さんにすり寄った。
「切島さんとあんなに仲がよろしかったのですから、少し何かあったからといって逃げるのはよくありませんわ。逃げてしまったのなら、そのことは謝らないと。きちんと話し合えば、切島さんならきっと解ってくれますわよ」
そう、きっと、切島くんなら優しいから、許してくれる。でも、切島くんが許してくれても、私は私自身が嫉妬心や独占欲なんかを抱いてしまっていることが、許せない。そんな小さな器で切島くんの横に居るなんておこがましいし、肩身が狭い。だからせめて、何も知られないまま、しれっと傍に居たかった。
「今日だって顔を合わせることになるんですから、解決するならお早めに、ですわ」
解決って言ったって、どうすべきかなんて解らないよ。
鬱になっていたら、廊下から聞こえる足音で、1人分だけ特に耳につくものがあった。切島くんの足音だ。
「居た!大神!」
教室に入ってきた切島くんは、汗もかいて息を切らしていた。いつもより到着時間が早いし、私の連絡を見て急いで来たのだろうか。
「すまん八百万、もふもふしてるとこ悪いんだけど大神借りてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
八百万さんが私を体から離すと、切島くんは私の体を軽々と持ち上げて、運びやすいように抱え込んだ。さすがにビックリしたけど、切島くんは何てこと無い顔で私を抱いたまま教室を出ていくから、人間に戻る機会を失ってしまった。
どこまで行くのかと大人しく運ばれていたら、使われていない空き教室に連れ込まれた。
「切島くん、」
抱かれる心地は良いけれど、なかなか落ち着けなくて離してほしくて、扉を閉められてすぐに人へと姿を戻した。
「わ!ごめん!」
やっと私を抱えていたということを自覚したのか、切島くんは驚いて私を手離した。
「どうしたの、こんなとこ連れてきて」
「どうしたのじゃねーだろ!なんだよ、昨日は逃げるし、朝だって先に行っちまうしさ」
「…ごめん」
「いや、謝って欲しいわけじゃねぇけど…」
切島くんが私と喋ってくれたことには安心したけど、謝る以外にできることがわからない。今も切島くんを落ち込ませているし、私まで悲しくなる。
「…俺、大神とはまた、これからも一緒に登下校したい。嫌だって思うなら、理由が聞きたい」
「…嫌じゃないよ」
「じゃあなんで、俺から逃げるんだよ」
「…切島くんこそ、私のこと、嫌じゃないの?」
「はぁ!?なんで俺が大神のこと嫌になるんだよ?」
嫌だと言われる覚悟で聞いたのに、驚かれた。
「…大神、昨日、他のやつに俺の隣とられたくないとか言ったよな」
「うん…ごめん」
「だからなんで謝るんだって」
「友達にそんなこと言われても、気味悪いでしょ、ごめんね」
切島くんは怒ったりはしないけど、その優しさが申し訳なくて涙が滲んできた。
「俺は、大神に隣に居て欲しい。他の女子じゃ嫌なんだよ」
「…うそ。私でいいの?」
「大神がいい。だから、本当に嫌じゃないならもう逃げないで欲しい」
切島くん、私が逃げたりなんかしたせいで悲しんでたんだ。そうだよね、私だって人に避けられたり逃げられたりしたときすごく嫌なのに、それを切島くんにしてしまったんだ。
「わかった。…ごめん、もう逃げない。切島くんが良いって言うなら、私、切島くんの傍に居たい」
「それ…ってさ、俺うぬぼれても良いんだよな?」
精一杯、今伝えられることを伝えてみれば、切島くんは少し頬を染めながら聞き返してきた。そんな表情見せられたら、私だって切島くんに、期待してしまうんだけど。
「大神、俺大神のこと好きだ。…大神は?」
「わ…」
私だって、切島くんのことが大好きだ。伝えようと思ったのに、目にたまっていた涙が溢れ出てきて、言葉が出てこなくなってしまった。
「ご、ごめ…」
「だから謝るなって。俺別に大神のこと責めようと思ってねーよ?あんまり謝られると、不安になる」
不安にさせてごめんなさい。でも私、他に何て言ったらいいかわからない。
「私…切島くんのこと、好き。でも私、心狭いから、他の子に嫉妬しちゃうし、最近すぐ泣くし、切島くんのこと、笑わせてあげられないし…」
「…俺だって大神のこと泣かせてばっかでごめん。最近泣いてるの、俺のせいだよな」
「ちが、私が勝手に泣いてるだけだから…」
またしても切島くんをへこませてしまった。そのせいで余計に泣きそうだし、私もう、切島くんと笑えないのかな。
「大神、俺の言うこと信じられなかったら心読んでもいいから、触ってもいいか?」
「う、ん、」
うなづけば、切島くんは私を抱き締めた。鼻孔いっぱいに大好きな切島くんの香りが広がって、少し落ち着く。
「これから大神のこと絶対泣かせないから、俺と付き合って欲しい。大神が他の女子に嫉妬してくれるのだって、俺すげぇ嬉しい。心狭いとか言うけど、俺だって大神が爆豪とか上鳴とかと何かしてるとすげぇ妬くけど、大神が俺のことだけ好きでいてくれんなら、そんでいいから」
「…ほんとに、いいの?私、切島くんにいっぱい迷惑かけちゃうかもしれないよ」
「いい。迷惑かけるってことは、俺のこと頼ってくれるってことだろ?俺は大神に頼られたい」
優しくそう言ってもらえて、嬉しくて心があたたかくなる。信じられなかったら心読めとは言ったけど、私は切島くんの言っていることを疑いたくないし、切島くんを信じたい。
「大神、俺じゃだめか?」
「だめなんかじゃない。…私も、切島くんと付き合いたい」
恐る恐る切島くんの背中に手を回してみれば、更にきつく抱き締められた。少し痛いくらいだったけど、幸せだった。
「ありがとな!まじで、すげぇ嬉しい」
「こちらこそ、ありがとう。嬉しい」
ありがとう、私のことを好きになってくれて。
- 20 -
←前・次→