銀色の毛並み
身体能力テストのせいで、晒したくもない獣姿を晒してしまった。最下位は退学なんて脅されたら本気を出すしかなかった。
「まってまって!大神さんめっちゃかわいい!モフモフや!」
「すごー!触っていい!?かわいー!!」
このクラスの女子たちはどういうわけか、狼になった私の毛並みをわしゃわしゃと撫で始めた。触れたら心が読めるってちゃんと言ってあるのに。何考えてるんだ、と疑問に思ってしまったせいで私を撫でる麗日さんたちの心をうっかり読んでしまった。
「ふぇ」
心を読んでも、考えていることは口にしている言葉と一致していた。なんでみんな、そんなに単純な思考回路してるの。
このまま思考を覗くのも申し訳なくて、人間へと姿を戻した。あーあ、戻っちゃった、という心の声を最後に、みんなの手が私から離れた。
「ハッ、大神さんの個性、読心やなかった…!?獣化と読心ってすごい組み合わせやね!じゃれてる間に心読めちゃう!」
「敵だったらすごい厄介だけどヒーロー側だから頼もしいね!」
褒められた。厄介だとか怖いとかストレートに言われることばかりだったのに、こんな簡単に認めてもらえるなんて。
「あ!もう戻っちまってる!なぁ、せっかくだからもう1回狼姿見せてくんね?」
50メートル走を終えたらしい切島くんがそのまま駆け寄ってきた。
「…撫でさせないよ?」
「おう!かっこいーから近くで見たくてさ」
今なら個性使っても良いだろうし、断る理由も無いからもう一度狼になってみせた。麗日さんたちもまたキラキラと目を輝かせるし、切島くんも私の前にしゃがみこんでじっくりと見つめてきた。姿は狼と言えど、私が私であることにはかわりないのだから勘弁して欲しい。
「やっぱ狼って牙がかっこいいよなー!」
「ああ…もふもふ…」
撫でないでと言ったのに、切島くんは私の口元に触れた。見せてと言ってくれれば口くらい開けるのに。切島くんは、少し間抜けな顔で口を開けたまま私の牙を眺めていた。切島くんの開いた口から、ギザギザの鋭い歯が見えた。
「おっ、切島ー。それ大神だよな?俺にも触らせてー」
背後から突然背中を撫でられて、びっくりして切島くんの手を噛んでしまった。
「うわっ!」
「おおお俺のせいか!?悪い!!」
やってしまった。急いで人の姿に戻って切島くんの手を握った。
「ごめんなさい!大丈夫!?すぐ保健室行かなきゃ、」
「大丈夫!大丈夫だから!俺の個性硬化だし間に合った!」
「ほんと!?」
よく見てみれば、切島くんの手には傷ひとつ無かった。
「上鳴気を付けろよ!突然触ったら驚くに決まってんだろ!」
「悪かったって!つーかそんなことより大神さんめっちゃ可愛い!耳!」
上鳴くんは私の頭上に手を伸ばしてきて、そこにあるはずの無い耳に触れた。
「耳!?」
「耳だけでなく尻尾も戻ってねぇみたいだぞ」
「獣耳かわいー!」
振り向けばズボンの隙間から尻尾が飛び出していた。個性のコントロールができなかったことも、人にちやほやされることも慣れていなさすぎて、顔に熱が集まった。
「大神、」
顔をあげれば、困ったような顔の切島くんと目があった。
「そろそろ手離してくれても大丈夫だぞ…?」
握りっぱなしだった手を指摘され、更に顔が熱くなった。ドン引きされたんじゃないかと思ってつい心を読んでしまったら、上鳴くんと同じように耳めっちゃ可愛いだとかそんな心の声が聞こえてきた。引かれてないのはよかったけど、それはそれで恥ずかしくて、我慢できなくて狼に化けてその場から逃げた。
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