コントロールできない
私の狼姿が意外と好評だったようで、女の子たちは気さくに声をかけてくれるようになった。何の気なしに個性の話をしてくれるのが、心地よかった。受け入れられているのだと、安心した。
「わっ!!」
「ひゃあっ」
お茶子ちゃんと談笑していたら、突如肩を掴まれ背後から大声をかけられた。
「よっしゃあ!俺の読みは当たってたぜ!」
「なっ…なに!?」
こういう悪戯をされることがまず無かったせいで、びっくりしすぎて泣きそうになった。振り向けば上鳴くんが笑顔で喜んでいた。
「大神さん今日も可愛い!」
「もーっ、上鳴くんそういう意地悪だめやと思うけど」
「えー、でも麗日だってこれ可愛いと思うっしょ?」
「可愛いけども!」
どれのことだと思えば、また上鳴くんは私の頭上の耳に触れた。今まで知らなかったけど、びっくりして個性が中途半端に出てくることがあるみたいだ。上鳴くんのおかげで自分の個性の新たな面を知ってしまった。
「あ……あんまり触ると、心読んじゃうよ」
「いいぜ!俺今大神の可愛さについてしか考えてないから!」
「上鳴くん……」
試しに読んでみれば本当にその通りで、逆に照れ臭くなってしまった。
「私、触られ慣れてないから、もうだめ!おしまい」
「えー、良いじゃんまだ先生来ないし」
ガルルル、と喉を鳴らしてみれば、上鳴くんは「ひぇ」と声を漏らして私から手を離した。しかしすぐに頬を緩ませて私の首に触れてきた。
「すげー!今の何?どうやったん?」
「もう!上鳴くん私のこと触りすぎだよ…!」
ばばっと上鳴くんの手を払い、この場を離れようと席を立った。「ごめんって!」と謝罪の声は聞こえたけど、これ以上触れられたくなかったから、教室から出ようとした。
「おう大神、おはよ」
丁度、登校してきた切島くんとばったり出くわして笑顔を向けられた。「おはよう」と返事をしている間に切島くんの視線は私の頭上に向いていた。
「今日も出てんのな、それ」
切島くんにも耳を撫でられ、くすぐったくて、恥ずかしくなった。事を説明しようとしたら、後ろの方が騒がしくなった。
「ちょ、心音ちゃん!」
「うおー!純白!」
「ありがとうございます!」
振り向いてみると、駆け寄ってきたお茶子ちゃんに両手でおしりを触られた。意味が解らなすぎて前方に逃げてしまい、切島くんにぶつかった。倒れないようにと切島くんは私の肩を支えてくれるし、顔に熱が集まった。
「尻尾!振っちゃアカン!」
おしりに触れているお茶子ちゃんの心を読めば、私の尻尾が揺れたことによりスカートが捲れ上がり、下着が見えてしまっていたとのことだった。めっちゃセクシーでやばいしお尻柔らかい、みたいな心の声も聞こえたけど、そこは気にしないでおこう。
「だ、大丈夫か?」
事態を理解していない切島くんは、戸惑いながらも心配そうに声をかけてくれた。その優しさを嬉しく思えば、また尻尾が動いたのかお茶子ちゃんの手が更に押し付けられた。早いとこ尻尾も耳も引っ込めたいのに、こんな落ち着かない状況でそこに神経を集中させることができない。
「あー……なるほどな?よし、どうにかするから、麗日ちょっと手離してくんね?」
「えっ、でも離したらパンツが……」
「見えねーように壁に背向けりゃいいだろ?」
「なるほど!」
お茶子ちゃんが私から手を離した瞬間に、私の体はすぐさま壁に押し付けられた。お茶子ちゃんと切島くんの連携プレーで、私のパンツはこれ以上見られずに済みそうだ。
「これならパンツ見えねーから個性のコントロールしやすいよな?」
「切島のバカヤロー!」
外野がうるさいのも切島くんの口からパンツという単語が出てきたのも、この際どうでもよかった。今この状況で何よりも私の精神を乱しているのは、切島くんに壁ドンされているという状況だった。
「どうした?」
私の肩に触れたままの切島くんの心を、つい読んでしまう。そしたら壁ドンをしているなんて意識は全く無く、壁ドンについても距離感についても、何も考えていなかった。私ばかりが意識して照れていることが、恥ずかしかった。
「……無理!!」
「えっ」
男の子に、というか人間に慣れていないせいでもう無理すぎて、逃げるために狼に化けて教室を飛び出した。他の生徒に驚かれたから、申し訳なくてトイレに飛び込んだ。
そこで人間の姿に戻って鏡を見てみれば、私の頬はまだ赤いままだった。
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