弱点の発見


今日は演習の日で、私は緊張していた。タイマンバトルをするようだが、私は自分の個性をあまり利用したことがないし、穏便に暮らしてきたつもりだから戦えるかどうか。入試のときは獣化してロボを破壊しまくったが、今度の相手はクラスメイトであり、人間だ。

「俺の相手は大神か!よろしくな!」

しかも相手が切島くんだなんて。先生は全力でやれだなんて言うけど、入試みたいに全力でやったら切島くんの体を噛みちぎってしまいそうだ。

「……怪我、させちゃったらごめんね」
「それはこっちの台詞だって。けど、全力でかかってこいよ!」

切島くんは熱い男だ。遠慮なんてしたら、それこそ失礼だろう。

「切島くんもね」

スタートの合図と共に獣化し、切島くんに向かって駆け出した。切島くんは両腕を硬化させているようだから、腕に噛みついても無駄だし、あれで殴られたらひとたまりもない。
勝利条件は、相手を戦闘不能にすること、戦意喪失させることだ。切島くんを気絶させるほどの衝撃は与えられないだろうから、どうにかして降参させる他ない。

「うおっ」

とにかく視界から外れないと接近できないと思い、切島くんに近付いたところで思いきり地面を蹴り、背後に回り込んだ。もちろん切島くんは振り向いて目で追ってくるし、あわよくば私を掴もうとしてくる。そのままぐるっと回り込み、切島くんの正面に出る前に脛に噛み付いた。しかし肉に歯が食い込んだ感触がなく、個性を使われたのだとわかる。

「そう簡単にやられねーよ!」

すぐに身を翻したのだが、思いきり尻尾を掴まれてしまった。

「観念しろ!」

そのまま尻尾を上に持ち上げられ、体が宙に浮いた。尻尾は痛いしくすぐったいし、視界が逆さまで寒気がする。この程度で負けたくなくて足をじたばたと動かせば、今度は両手で尻尾を掴まれた。力が分散されたおかげで痛みは減ったが、くすぐったさが勝ってしまった。

「離してっ!」

吠えてビビらせて離させるつもりだったのに、気付けば人の声が出ていた。いつの間に私は個性が解けていたんだ。
切島くんも驚いたのか、パッと手を離してしまったようで、私の体は地面に落とされた。頭も打ったし痛い。

「わ、悪い、大丈夫か!?」

このまま倒れていたら私の負けにされそうで、痛みを堪えて起き上がろうとしたのだが、ジャージから出る手足が獣のもので、自分の姿の中途半端さに驚いた。固まった一瞬の隙に、未だに残っている尻尾を、心配したのであろう切島くんが撫でた。それにより背筋がぞくっとして、肩が震えた。

「き、切島くん、」
「ごめん、尻尾痛かったよな。てか、頭とか色々打ってたけど大丈夫か?」

心配しながら尻尾を撫で続けてくれるのは切島くんの優しさなのだろうが、くすぐったくて、ぞくぞくして、気持ちよくて、触られたくないのに動けなかった。

「む、無理……」
「無理!?ま、また俺何かしたか!?」

ごめん、切島くんは悪くない。驚いた切島くんは私の尻尾から手を離した。離して欲しかったはずなのに名残惜しくて、少し落ち込んだ。

「切島くん、」
「おい、大神」

頭上から声がして、見上げれば相澤先生と目があった。

「お前の負けだ。姿戻せ」
「……はい」

悔しいけど、動揺した私が悪い。いつものように人間の体に戻そうとしたら、なぜか戻らなかった。先生も近くにいて落ち着いているから、できないわけないのに。逆に狼の姿になろうとしても、何も変化が起こらず、手足の先はもふもふしたままだった。

「あれ?」
「どうした」
「…できないです」

なんだか不安になってきて、体を起こした。そしたらさっき打った頭がズキッと痛んで、つい頭をおさえた。

「切島、保健室連れてってやれ」
「あ、はい!」

どうしよう、頭痛いし戻らないし、このままなんて嫌だ。外傷でも無いのに保健室行ったって、リカバリーガールにどうにかできるものじゃないんじゃないの?

「行くぞ大神」

不安に思っていたら切島くんが私の背中に手を当て、膝の裏に手をやって私を持ち上げた。というか、抱き上げた。クラスメイトにお姫さま抱っこされてしまった。

「ごめんな、俺のせいだよな」

いい匂いだなんて呆けていたら、切島くんに申し訳無さそうに謝られた。違うの、切島くんは悪くない。

「私こそごめん、迷惑かけちゃって……。保健室着いたら、すぐ授業戻ってくれていいから」
「んなこと言うなよ、ちゃんとついててやるって」
「でも、」
「…嫌か?」

不安そうに眉尻を下げられて、どんどん申し訳なくなってくる。私が弱いせいで、切島くんを落ち込ませてしまうなんて、嫌だ。

「嫌じゃないよ」
「…なら、そんな泣きそうな顔すんなよ、大丈夫だから。やっぱ痛むか?」
「…動いてないから痛くない」
「じゃあ、なんで、」

なんでって、そんなの、切島くんが落ち込んでるからだよ。

「…さっき、尻尾触られるの嫌だったから怒ってるのか?」
「へ?」
「また無理とか言うからなんか、そうなんかなって」

それはただ、切島くんの手がくすぐったくて、気持ちよすぎて、私としては戦いの最中にされるのが無理すぎただけだ。

「違うの、意外と気持ちよかったから、マヌケな声出ちゃいそうで…恥ずかしかったから、無理って言っちゃっただけで……」
「……」
「…切島くん?」

切島くんは口を開けたマヌケな顔で私を見て、なんとなく頬を染めていた。

「わ、悪い!」
「なにが?」
「なんでもない!俺が悪かった!」

切島くんはブンブンと首を振って前を向いた。
訳がわからなくて心でも読んでしまいたかったが、不用意にそっちの個性を使うのは嫌で、やめておいた。

「尻尾、弱点ぽいし、あんま触られない方がいいと思うぞ」
「…そうだね」
「だから、また誰かに掴まれたら、その瞬間に姿戻した方がいいと思う」
「…うん、気をつける」

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