絶体絶命



三日目、補習メンバーを覗いて肝試しの時間が訪れた。B組も合同で、互いにビビらせて失禁させた人数の多いクラスの勝ちだとか。失禁は嫌だから、肝試し直前にお手洗いに行っておいた。

「二人一組…」

勝己くんとがいい。別にそんなに怖いわけではないけれど、勝己くんと二人で並んで歩きたい。
そんな下心を持ちつつチラッと勝己くんの方を見てみれば、目が合ってしまった。びっくりして、直ぐ様目線を先生に戻してしまった。
二人一組のペアはくじ引きで決めることになったから、ドキドキしながらくじを引いた。

「2番…」

ぼそっと勝己くんの口から番号が聞こえた。絶対2番を引いてやるつもりでくじを引いてみれば、8番だった。番号が違うどころか順番すらそんなに離れるなんて。

「あ、慧ちゃん8番?僕と一緒だ」
「出久くん!」

勝己くんとじゃなかったのは残念だが、出久くんなら良かった。峰田くんとかになっていたら肝試しどころじゃなかっただろう。
程無くして肝試しも開始され、順番の早かった勝己くんたちは早々に森へと姿を消していった。

「慧ちゃん怖いの得意?」
「へ?んー…普通かな。出久くんは?」
「僕も普通かな。実際驚かされたらびっくりしちゃうかもしれないけど」
「まぁそうだよね。ていうかB組の皆が脅かしてくれるの楽しみ」

隣に勝己くんがいないのなら、もう純粋に肝試しを満喫するしかない。私の予想だと失礼だけど出久くんは私よりびびるだろうし、その様子も含めて楽しもう。

「…慧ちゃんさ、最近かっちゃんとめちゃくちゃ仲良いよね」
「えっ、そ、そうかな?そう見える?」
「見えるよ。仲直りできたみたいでよかったね」
「うん!よかった!」

出久くんから見てもそう見えるなら安心した。

「出久くんは勝己くんと仲直りしないの?」
「仲直りも何も、元々仲良しだったわけでもないからね…」

そう言う出久くんは複雑そうに苦笑いを浮かべた。そうか、そういえば皆一緒に遊んでいるときでも、出久くんと勝己くんが特別仲良さげにはしていなかったかもしれない。というか、無個性だからと出久くんのこと下に見ていじめていた。なのになんで出久くんは勝己くんと一緒に居たんだろう。

「僕らはこんなんだけどさ、慧ちゃんとかっちゃんは昔より仲良くなったよね」
「うん。勝己くんなんでか一緒に居てくれるんだよね。帰り遅いと家まで送ってくれるし」
「それは…す、すごい特別扱いだね。あのかっちゃんが優しいんだ…?」
「たまに優しいね。優しくて強くて賢いから、絶対ヒーローなれるよね。私ね、勝己くんのそういうとこ憧れちゃう」

勝己くんのことをそこそこ知っている出久くんになら話してもいいかなと思って言ってみた。

「私がまたヒーローになるって決めたの、勝己くんのおかげなんだよ」
「えっ!?」
「一緒にヒーローになるって言ってくれたから。だから高校でまた仲良くなれなかったら私危うく退学するとこだった」
「かっちゃん……何ていうか、すごい、慧ちゃんのこと気に入ってるんだね」
「…そうかな」

出久くんは考え事をし始めたらしく、何やらぶつぶつ言い始めた。唐突で怖い。
しかし私が勝己くんに気に入られてるって、ほんとかな。実際、他の子よりは長い時間一緒に過ごしてるし、もちろん嫌いだったらそんなことしないのも、解るけど、お気に入りなのか。

「…参考までに聞きたいんだけど」
「ん?何?」
「……大きくなったら結婚しようねって話、覚えてると思う?小学3年生くらいのとき言われたんだけど」
「けっ…!!!」

言葉の続きを言わないように、出久くんは自らの口を手で塞いだ。ありがとう、周りに聞かれたら死ぬところだった。

「…かっちゃん、名前覚えてる人との出来事はそこそこ覚えてると思うよ。だからこそ、慧ちゃんとすぐ仲直りしてめちゃくちゃ仲良くできてるわけだし…」
「……覚えてた、として、それってまだ有効なのかな」
「そ……それは、本人に聞かないことには…」

申し訳ないことに、出久くんの顔が真っ赤になってしまった。私もつられて顔が熱くなる。どう考えても肝試し前にこそこそ話す内容じゃない。

「…でもそれ、もし有効だって言われたら…」

核心を突かれそうになり、鼓動がうるさくなり顔にも更に熱が集中した。変な汗まで出てくるしどうしようと思ったら、無理やり出久くんの言葉が遮られた。

「うわ!!」

物音の方に顔を向ければ、引率のピクシーボブが敵の手により地に伏せられていた。

「なんでっ…」

助けなきゃと思ったけど、怖くて体が動かなかった。真っ先にマンダレイと虎が動き出したけど、森の奥の方からも轟音が聞こえて血の気が引いた。森の中は皆ばらばらで先生たちだって居ないのに。
私たちは逃げろと指示をされたけど、出久くんだけはマンダレイに一声かけてから勝手に走り出してしまった。嘘だ、私がこんなに怖くて震えてしまうのに、あの出久くんが飛び出していけるだなんて。

「ま…待って」

勝己くんが危ないかもしれない。勝己くんは強いけど、だからって敵にやられない確証は無い。助けに行って私が力になれる確証も無い。

「佐伯も早く!」
「でも勝己くんが、」
「あいつならそう簡単には死なないって!」
「でもっ」

マンダレイたちが敵を足止めしてくれている間に動かなきゃ手遅れになる。だけど個性を持っている私たちがただ逃げるだけだなんて。

「失礼する!」
「うわっ」

決断に迷っていたら、飯田くんが私の体を持ち上げて肩に担いだ。

「ちょっと!」
「そもそも君が生き残らなければ彼にも会えなくなるんだぞ」
「っ…」

確かに私と勝己くんでは私の方が弱いし殺されやすいかもしれないけど。だから、否定もできなくて、暴れることもできなかった。

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