不器用な愛情
気が付いたら知らない景色だった。私は見慣れない布団に横たわっていた。それに身動きがとれなくて、よく見ればお腹部分にたくましい腕が背後から回されていて、足も絡んできていた。
「…勝己くん?」
「やっっっと起きたんか」
いつもより低い声が背後のすごく近いところから聞こえてきた。
「…ごめん、寝ちゃってた?」
「一時間」
「うっそ、ごめん!昨日とか全然寝付けなかったから…」
「…俺にどんだけ振り回されんだよ」
「しょーがないじゃん」
もぞもぞと動いて振り向けば、勝己くんの顔はすぐそこにあった。
「…勝己くん」
見れば見るほどかっこいいな、なんて思いながら見つめていたら、勝己くんは体を起こしてそのまま流れるように私の肩を押し、両腕をベッドに縫い付けるように押さえつけた。
「…あの、こ、これは?」
「前言ったよな。男の家で簡単に寝顔晒すなって」
「…うん、言われた気がする」
切島くんと三人でお勉強会をしたときに寝落ちて注意された。きちんと覚えている。
「解ってて寝たんか」
「わざとではないし…寝不足でしかたなく…」
「一時間手出さずに我慢してやったが、起きてもベッドから降りねぇってことはそういうことだよな?」
「いや…いやいやいや!?どういうこと!?」
「うっせぇ!騒ぐな」
悪い人のような台詞を吐いて、勝己くんは私の唇を塞いだ。嫌じゃないけど、少し怖い。
「歯食い縛るな」
それとこれとどう関係あるんだ、なんて思いつつも口元の力を緩めれば、勝己くんの舌が口内に入ってきた。慣れない感覚にぞくりとして動こうとすれば、更に体重をかけられて両腕ともぴくりとも動かせなくなった。
「慧…」
頬を火照らせて息を荒くする勝己くんが怖かった。だけどもう勝己くんを手離したくないから拒絶もしたくなくて、どうしていいか解らず涙が出た。
「…泣くほど、嫌かよ」
「ち、違う…」
「だったら何泣いてんだ?あ?」
そんな怒らなくてもいいじゃないか。そうやって怒るから、怖いんだよ。
「もっと…ゆっくり進んでくれなきゃ、やだ。勝己くんの恋愛経験なんか知らないけど、私ほんとに全部初めてだから、一気に色んなことされたら、怖いよ」
素直に言ってみれば、勝己くんは私を押さえ付ける手をどかしてくれた。
「…ゆっくりならいいんか」
断る理由もなく、私は黙ってうなづいた。勝己くんはそれで納得してくれたようで、優しく触れるだけのキスをしてくれた。
「帰る準備しとけ」
勝己くんはそれだけ言って部屋から出ていこうとした。
「どこ行くの」
「このタイミングで便所以外どこがあんだよ…!!」
聞いちゃいけなかったのか、めちゃくちゃドスのきいた声で怒られた。
帰る準備と言っても、荷物なんか出してないからやることないのに。とりあえず起き上がって、寝たことで乱れた服を正しておいた。
少しして勝己くんは部屋に戻ってきて、いまだにベッドに腰かけていた私の正面に立って私を見下ろした。
「いいか、俺の前で気抜くんじゃねぇぞ」
「え…あ、はい」
「次止められる保証はねぇからな」
それは怖いと思って、何度も首を縦に振った。
「あの、勝己くん。今日、押し掛けて、迷惑かけてごめんね」
「迷惑なんかかけられてねぇわ」
「…そか、ならよかった。あのさ、勝己くん外出禁止でしょ?迷惑じゃないなら、また会いに来てもいい?」
「ここまで来るならそれなりの覚悟してこいよ」
「…はい」
気抜いたらまた何かされるかもしれないってことだよね。気をつけておかないと。
「…今日は帰れ。送れねぇけど」
「大丈夫だよ、ありがとう」
それでも勝己くんは玄関までは来てくれた。
「またね」
「…」
ちょっと寂しかったけどにこりと笑ってみれば、勝己くんは無言でまた唇を寄せてきた。顔を離せばすぐに扉を開けられて、家から押し出されて扉も閉められた。照れ隠しだとしても不器用すぎるし、可愛く思えて笑みが溢れた。
- 22 -
←前・次→