さりげない接触
戦闘訓練で怪我をしていた出久くんが心配だったけど、次の日普通に登校していたし元気そうだったので安心した。勝己くんはちょっとやりすぎたせいで先生に叱られていたが、少し反省しているように見えて、昨日の威勢はどうしたんだろうと気になった。
「今日は、学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいのきた!」
初日から身体テストをしたり昨日の戦闘訓練だったり、初っぱなから激しかったから私もワクワクした。そしてさすがのヒーロー志望というか、皆してやりたいと挙手をしていた。
「これは投票で決めるべき議案!!」
めちゃくちゃ委員長やりたそうなメガネの飯田くんが挙手をしながらそんなことを言うものだから、投票で決める流れになってしまった。
私自身はこのクラスをまとめられる自信が無いし、誰に入れよう。勝己くんに入れようかな、なんて思ったりもしたけど今の勝己くんがどんな人なのかがいまいち解らないから、委員長を任せられない。だから見た目的に委員長っぽい飯田くんに票を入れておいた。
「僕三票!?」
開票してみると、出久くん三票の八百万さん二票であっさりと決まった。他の人はだいたい一票で、私みたいに他の人に票を入れた人はゼロ票になっていた。飯田くんは悔しそうだったけど、皆が決めたことだからと受け入れていた。
それから午前の授業を終えて、出久くんのことをお昼に誘ってみたら、近くで聞いていたお茶子ちゃんもまざってきて、委員長になれなかった飯田くんもまざってきて四人でご飯に行くことになった。
食堂はものすごく混んでいて、どうやらヒーロー科だけでなくサポート科や経営科の人たちも共有のところとのことだった。
「いざ委員長やるとなると、務まるかどうか…」
「つとまる!」
「大丈夫さ。緑谷くんのここぞというときの胆力や判断力は、多を牽引するに値する。だから君に投票したのだ」
あ、だから飯田くん、私が入れた分の一票だけだったんだ。出久くんのことそこまで見てくれてるなんて、飯田くんいい人なのかも。いや、ヒーロー科だし、ほんとにいい人なんだろうな。
それから他愛もない話をして、飯田くんの家がヒーロー一家だとかいう話も聞いて感心していたら、突然大きな音で警報が鳴り出した。
「え、何??」
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』
「セキュリティ3ってなんだ!?」
どうやら校舎内に誰かが侵入したという報せらしい。上級生もこんなことは初めてらしく、慌てていた。食堂にいた全員が一斉に動きだし、私たちも避難のために移動を始めたのだが、人の波にのまれて痛いし苦しかった。
「おっ、お茶子ちゃん!」
「あーっ、慧ちゃん!」
怖いしなるべく近くに居ようと思ったのに、人波に押されまくってはぐれてしまった。そんなに背も高くないからすぐにお茶子ちゃんたちの姿が見えなくなるし、心細いけど一人で避難するしかない。
「わっ、」
人波と不安に押し潰されそうになっていたら、誰かに肩を引き寄せられた。そのまま誰なのか確認する前に、その人の胸板に顔をぶつけた。嗅いだ覚えのある、甘い匂いがした。
「か、勝己くん?」
狭い中で顔を上げてみれば、めちゃくちゃ近くで勝己くんが私を見下ろしていた。真っ赤な瞳には私だけが写されていて、ドキッとした。
勝己くんはぷいっと前を向いて、私が押し潰されないように配慮しながら移動してくれた。助けてくれて、守ってくれているのだと実感して、嬉しくて、勝己くんの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「皆さん、大丈夫!!!!ただのマスコミです!!」
上方から声がして見上げれば、非常口の上で非常口の人のポーズをしている飯田くんがいた。
「何もパニックになることはありません!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
飯田くんのおかげで人の流れが弱まり、収まった。とはいえまだ人口密度が高くて動けなくて、どうしようかと思っていたら頭を抑えられ、また胸板に顔を突っ込んだ。事態に頭が追い付かないのだけれども、なんとなく解るのは、どさくさに紛れて抱き締められているのでは、ということだった。まだ人混みに押されているのかというくらいの力強さで抱き締められ、混乱する。さすがにもう、混乱の収まった中でいつまでもそんなことされていたら、周りに見られるだろう。どうしようかと思い少し抵抗してみたら、体を解放された。周りをみれば、やっと丁度動けそうな余裕ができてきた頃で、人の隙間を縫って勝己くんは去っていった。
「何それ…」
結局勝己くんは私に何も言うこともなく、ただ抱き締めるだけ抱き締めて去っただけじゃないか。助けてくれたと言えば助けてくれたのだけど、なんだか腑に落ちない。
「慧ちゃん!大丈夫!?」
「へっ!?あ、はい!大丈夫!」
立ち尽くしていたら出久くんの声が聞こえて、近付けば近くにお茶子ちゃんもいた。
「大変だったね、潰されなかった?大丈夫?」
「はは、まぁ、大丈夫、潰されてたけど…」
主に、勝己くんに。けどそんなこと口が裂けても言えなくて、というか、言ったら後が怖そうで、言えなかった。
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