昔の思い出
私は小学生の途中まで、出久くんと勝己くんと同じ学校に通っていた。保育園も一緒だったから二人のことは物心ついたときからなんとなく知っていたし、小学校にあがって、皆に個性が出て、私の個性も出てきたあたりで、出久くんが無個性だといじめられるようになったのも覚えている。
「弱いものいじめしちゃだめ!」
「うわっ」
教室で出久くんがいじめられているのを、私はヒーロー気取りで助けたことがあった。出久くんの前に立ってみんなの悪戯を防ごうとしただけなのに、意地悪していた子の体が後ろに押され、尻餅をついたり近くの机や椅子に体をぶつけて予想外の被害を出してしまった。
「佐伯のそれずるい!そんなに強いならお前の力も弱いものいじめじゃん!」
「頭ぶったぁ」
「わ、わたし、そんなつもりじゃ、」
「肩痛い!強い個性見せびらかして楽しいかよ!」
「そーだそーだ!」
先に出久くんに対して個性使ってたのは皆なのに、どうして私が責められなくちゃいけないの。私間違ったことなんかしてないよね。
「慧ちゃんは悪くないよ、僕が…弱いから、いけないんだよ」
出久くんは泣きそうなくらい涙をためて、無理やり作った笑顔を私に向けた。私、出久くんのこと助けたかっただけで、そんな顔させたくなかったの。ごめんね、弱いものいじめとか言って、出久くんのこと、弱いとか決めつけて。
「うわっ、なんだ?」
「きゃっ」
気付けば窓がガタガタ揺れていて、出久くんに目をそらされた瞬間、教室の窓が全部割れた。運悪く、苛めっ子たちは窓の近くにいたせいで、ガラスの破片を少し浴びて怪我をしてしまった。
「いたー!!」
「うわーん!切れた!血がぁ!」
わざとやった覚えは無いけど、自分の個性が暴走したとしか思えなくて、腰が抜けた。出久くんを助けたかっただけなのに、個性でクラスメイトに怪我をさせ、出久くんのことも結局泣かせてしまった。ヒーローに憧れていたのに、その気持ちも塞ぎこんでしまった。
後日、親が怪我した子の親に謝罪したりと大忙しで、本当に申し訳なくて、自分の力が怖くなった。
「慧ちゃん、一緒に遊ぼ」
私を怖がって近寄らない人が増えたから、出久くんもきっとそうだと思ったのに、自分から遊びに誘ってくれるようになった。へこんでいる私を気づかってくれているのだとしたら、私なんかよりもよっぽどヒーローらしかった。
「この前、助けてくれてありがとう。慧ちゃんヒーローみたいだった」
「…ヒーローじゃないよ。怪我させた。出久くんのことも、傷付けた」
「僕怪我してないよ?」
「ごめんね」
「えっ、ええ??」
弱いものとか言ってしまったこと、もしかしたら出久くんはほんとに気にしてないのかもしれない。それでも、謝っておきたかった。
「でもね、慧ちゃんならヒーローになれると思うよ。かっこよかったもん」
「…かっこよくないよ。無理だよ、皆に嫌われちゃったもん」
「…皆じゃないよ。僕は嬉しかったし、慧ちゃんのこと好きだよ」
無理しなくていいのに、とその時思った。でもありがとうと言いたかったけど、その言葉は邪魔されて言えなかった。
「おい、くそデク!今日は女子と遊んでんのかよ!」
「かっちゃん…」
「ついに男子に嫌われて遊んでもらえなくなったのか?」
それが勝己くんと初めて向き合った日のことだった。派手な個性のおかげで存在は知っていたけど喋ったことはなかった。でも目の前でボンボン爆破している手のひらを見て、怖いと思った。
「出久くんが嫌われたんじゃなくて、私が皆に嫌われちゃったから出久くんが遊んでくれてるんだよ」
「ああ?一緒だろ」
「一緒じゃないよ」
「テメー俺に口答えしてどうなるか解ってんのか?」
「ご、ごめんねかっちゃん」
「なんで出久くんが謝るの」
「だって、かっちゃん怒ると怖いから」
私と出久くんのやりとりを見ているだけでも勝己くんがイライラしているのは一目瞭然で、出久くんのビビり方を見るだけでも、いつもひどいことされてるのかな、と思ってしまった。
「テメー邪魔だからこの公園から出ていけよ」
「…やだ」
「ほーん?」
勝己くんとは、初対面で喧嘩した。ブチ切れて襲い掛かってくる勝己くんの動きを私が止めるだけという、勝敗の決まらない争いだったけど、その状態で口喧嘩もした。何を言ったか全然覚えてないけれど、ずっと勝己くんに吼えられてて、怖くて勝己くんを解放することもできずに困っていたら、たまたま通りかかった勝己くんのお母さんが勝己くんを叱って引きずって帰っていったことは覚えている。
それから毎日勝己くんは私を見るたび構ってきて、どうにかして個性を使わせてきた。次第に喧嘩じゃなくなって、いつの間にか普通に遊ぶ仲にまでなっていた。
「おい、ボールそっち行ったぞ!」
「うん!」
ある日公園で勝己くんたちと一緒に遊んでいるときのことだった。道路に飛び出たボールを取りに、私も道路に飛び出した。もちろん周りなんか確認しなかったから、走っていたトラックにももちろん気が付いていなかった。ボールを捕まえれば、右から物凄い音のクラクションが聞こえ、私は思わず目を瞑った。
「おい、救急車呼べ!」
「大丈夫か!?」
「慧!!」
私を呼ぶ勝己くんの声がやけに鮮明に聞こえた。目を開ければ、きらきらと輝く勝己くんの笑顔があった。
「慧の個性すげーな!トラックに勝ったぞ!見ろよ!」
私は生きていた。トラックの方は前面が不自然に凹み、横転していた。運転手さんはふらふらしながらトラックから降りてきたけど、無事生きていた。
「こんな強ぇならヒーローなれるぜ!トラックより強ぇなら人間に負ける訳ねぇしよ!」
「…でも勝己くんにも勝てないよ?」
「そりゃ慧より俺のが強いからな!俺がヒーローになるんだから、俺の次に強ぇ慧がヒーローになれねぇ訳がねぇ!」
こんなにはしゃぐ勝己くん初めて見た。私の強さを認めてくれたということなのだろうか。
「でも私、人気無いし、」
「今はそうでも、強けりゃかっこいいんだから人気くらい出るわ!慧がヒーローになったら俺がファン1号になってやるよ!もちろん俺のファン1号も慧だからな!」
勝己くんの根拠の無い応援が、嬉しかった。他の誰に好かれていなくても、自分が強いと認めた勝己くんに認めてもらえるのが、嬉しかった。
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