やきもちやち
「いやー、たまには同級生と二人でしゃべんの楽しいね。知らない話いっぱい聞けた」
「俺ももやもやしてたこと全部聞けたし言えたしすっきりしたわ」
居酒屋からの帰り道、酔いを覚ますためにも歩いて帰った。少し遠かったけど、歩いている間にも話せるのは楽しかった。
「爆豪とか轟にも会ってみよっかな」
「爆豪忙しそうだなー。俺も会いたいけど時間合わねーんだよな」
「二人とも大人気だもんねぇ、私も人気わけて欲しいくらい」
「薄井結構人気だろ?なんか今度写真集出すらしいじゃん」
「えっ、聞いたの?ってかそれ忘れてた、どうしよ」
深く考えずオーケーしたものの、後から考えてめんどくさくなったから断らなきゃと思っていたんだった。断ることすら忘れていたけど、まだ間に合うだろうか。めんどうだし断っておこう。
「上鳴がどう思うかな」
「…ほんとだね。でも電気、嫉妬とかしなさそうだけど。今までもさ、彼女が他の男と歩いてるの見ても慌てなかったみたいじゃん。普通に許してくれるかも」
「そうか?今までのテキトーに付き合った子達と薄井じゃ扱い違うんじゃねーかなー。薄井が他の男子と喋ってたら邪魔してたし、あれ嫉妬だったろ」
「ふふ、じゃあ今切島と歩いてんのも電気が見たら怒るかもね」
「あ、たしかに…」
本当に嫉妬してくれるのか、見てみたい気持ちもあるけど。
「や、でも、だからってここで俺が薄井を一人で帰らすのもちげぇだろ。そんな漢らしくねぇことできるか」
「真面目だなぁ、私のこと襲う奴いたら返り討ちだよ」
「そういう問題じゃねーって。一人で帰らせて何かあったらそれはそれで上鳴怒るだろ」
「怒ってくれればいいんだけどね」
そう言ってしまうのも意地悪だけど、本音だった。
「あれ、家の前誰かいる」
「…暗くて見えねーな。まじで部屋の前まで送るわ」
「そこまでしなくてもいいよ?」
「何かあったらダメだって」
私の部屋はアパートの三階だった。階段で三階まで上がるのめんどくさいのに、切島は私の前を歩いて部屋の前まで来てくれた。
「…あれ?上鳴?」
「ん?…切島?」
私の部屋の前で座っていたのは電気だった。私たちを見て、やっと立ち上がった。
「待ってたの?ごめん、冷えたでしょ」
「平気。切島、幸送ってくれたん?ありがとな」
「おう。上鳴その、部屋の前で座ってんの遠目に見て不審だったからな?俺が言うのもあれだけど、連絡入れるとかしろよ」
「…メールしたし」
「えっ、うそごめん」
ポケットからスマホを取り出すと、通知のランプが光っていた。
「じゃ、俺帰るわ。上鳴もまた飯行こうな」
「おう、またな!」
「ばいばーい、ありがとね!」
切島はひらひらと手を振って、階段を降りて行った。
「電気ほんとごめんね、すぐ開ける」
「うん」
電気あんまり怒ってないなぁと少し残念に思いながら鍵を開けた。電気ももう大人だし、青い高校生の頃と違って妬かなくなったのかな。
ドアを開けて一緒に玄関に入れば、ドアが閉まった瞬間に背後から電気に抱きしめられた。
「え、え?ごめん、外寒かったよね。すぐ暖房つけよ」
「別に、待ったのは俺の勝手。気にしてない」
「ならどうしたの?」
「…ごめん、妬いた。切島部屋に連れ込もうとしたのかって、一瞬だけど疑った。幸がそんなことするわけないのに」
電気の嫉妬を知るのは初めてのことだった。きっと同級生の皆は何回も見たことがあるのかもしれないけど、私が実感するのは初めてだった。
「今思い出した。俺高校ん時もこうだった。幸が他の男子と喋ってるとすげぇもやもやしてた。あれって、嫉妬だったんだよな。俺あのときから幸のこと好きだったのかもしれない」
響香と切島の言っていた通りだ。自覚していなかっただけで、電気は私のことを、好きだった。
「もっと早く気付けばよかった」
気づけなかった数年間の空白を埋めたいのだろうか。電気は私を抱きしめる力を強くした。
「…電気、離して」
優しく言ってみたつもりだけど、電気はパッと手を離し後ずさった。
「ごめん、嫌だった?」
心配そうな、泣きそうな顔で聞いてきた。嫌じゃないよ。電気の切ない顔を見るのが苦しくて、私から電気に寄って背中に腕を回して抱きしめた。
「…幸?」
「心配させてごめんね。そんな顔しないで」
「俺そんな情けない顔してた?」
「うん。元気出して」
ぎゅう、と力をこめれば電気も私を抱き締めてくれた。久しぶりの人の温もりが、心地よかった。
「切島にね、電気と付き合ってるって報告してたの」
「えっ、まじで?…幸乗り気じゃなさそうだったから、俺言わない方が良いのかと思って黙ってた」
「響香にも報告したよ」
「…いいの?俺なんかが彼氏って言って恥ずかしくなんねぇ?」
「なんでそんな卑屈なの。言ったらいけなかった?」
「全然!だったら俺、瀬呂とかに会って報告してくる。峰田にも自慢してやりてぇ」
電気の声が嬉しそうで安心した。私を彼女にして自慢だなんて、そんな風に思ってくれていることが嬉しい。
「部屋入ろ?暖房付けるよ」
「あぁ」
体を離して電気を見上げれば、嬉しそうにはにかんでいた。その表情が可愛くて、靴をテキトーに脱いで、電気の手を引いてリビングに移動した。
「電気、大事な話」
そのまま電気をソファに連れていき、隣り合わせに座って体を電気に向けた。
「解ると思うけどね、切島とか、私も男友達居るから会うこともあるよ。だから電気のこと心配させることあるかもしれないけど、電気がさっきみたいに不安になってくれるんだったら、私ちゃんと電気に誰と会ったか報告するから。皆友達だから、会わなくするってのが無理なのは解ってほしい」
「…解ってる。たぶん俺も、耳郎とかと二人で会うことあると思うし、無理は言えない。俺も今ので嫉妬する気持ち解ったから、ちゃんと報告するわ」
「うん、偉い。おりこう」
しょぼんとしてしまう電気が可愛くて、頭を撫でてあげた。これでも嬉しそうに口元を緩ませるものだからやめられない。
「なんかさ、俺幸にうまいこと手懐けられてる気がする」
「気のせいだよ」
今まで彼女に対して、電気は折れることなく自分のしたいように過ごしていたと思う。話を聞く限りはそうだった。でも今、私と付き合っている電気は、割りと控えめで、私を尊重してくれている。
「…俺今日来るんじゃなかった」
「え、なんで」
「…めっちゃ帰りたくねぇ。明日朝から仕事なのに」
電気は眉尻を下げて私を見つめてくる。そんな子犬みたいな顔をされても、どうしろと言うんだ。
「でももう、帰んないと…夜遅いし…」
「うん…また明日来ていい?」
「いいよ、明日休みだし。あ、」
そういえばと思って立ちあがり、棚の引き出しから鍵を一つ取り出して、またソファに戻った。
「これ、合鍵。無くしたら大家さんに怒られるから、大事にしてね」
「…いいの?」
「いいよ。ただ、来るならちゃんと連絡はちょうだいね」
「うん、ありがと。めっちゃ嬉しい」
同棲したいと言い出すくらい心を許してくれているのだから、私もこのくらいはね。
「明日、俺も合鍵持ってくるから」
「ん、待ってる」
帰るために立ち上がった電気だったが、立ちあがりついでに私の額にキスをしてきた。びっくりして見上げれば、電気は頬を染めていた。
「これ以上するとまじで帰れなくなるから、また明日な!」
「う、うん」
動揺したけど見送りたかったから、玄関までは電気を見送りに行った。
「んじゃ、お邪魔しました」
家を出るとき、電気は私がいつもするように私の頭を撫でてくれた。意外とそれが心地よくて、電気が帰ってしまうことが名残惜しかった。
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