気になる人
夜の自由時間に、A組とB組の女子全員で女子会をしていた。女子が集まってすることと言えばやっぱり恋愛トークで、みんなちょっとドキドキしているようだった。
「この中で彼氏いる人!」
三奈ちゃんが聞くけど、誰も手が上がらなくて、きょとんとしていた。誰も隠しているような様子すらなく、本当に、いないようだった。
「え、じゃあ、ほら、好きな人は?誰かいない?」
ここで手を上げたらめちゃくちゃ聞かれるんだろうなぁと考えていたら、その前にお茶子ちゃんの顔が真っ赤なことに気がついた。
「お茶子ちゃん?」
「え!?いや!そういうんじゃないよ!ほら、恋バナするの久々だから照れたっていうか、動悸がしただけで…!」
皆で何かを隠していそうなお茶子ちゃんを問い詰めてみたけど、久々だから動悸がしたという解答しかどうしても絞り出せなかった。皆がちょっと残念そうにして話が尽きそうになったから、手を上げてみた。
「ん?あかりちゃんどうした?」
「私ちょっと気になる人いる」
「あかりちゃん!!!」
さすが女子なだけあり、その一言だけで場がワッと盛り上がった。
「誰!?あっ、待って皆で当てよ!」
「ふふ、いいよ、当ててみて」
自分が話題の中心になるのはなんだか恥ずかしいけど、恋バナをするのはやはり楽しい。
「無難にイケメン轟とか?」
「轟くんはちょっと、顔綺麗すぎて恐れ多い」
「じゃあ上鳴?ウェイのおかげで顔面控えめだし…ブフッ」
「上鳴くん顔はたしかに好きだけど…ね?女の子みんなに優しいから、好きになれない。優しいのは良いことなんだけどね!付き合うってなったら、たぶん嫉妬で狂う…」
「あかりって意外に嫉妬に狂うタイプなんだ」
だって好きな人が他の女の子ににこにこしてたらイヤでしょ。私はイヤ。
「爆豪くんだったら他の女の子には優しくしないよね」
「彼女にすら優しくなさそう」
「てか彼女できないでしょあれだと」
「ちょっと、あかりが爆豪好きだったら失礼じゃん」
「え?いや、違うけど」
だよねー、と皆胸を撫で下ろす。こんな話、爆豪くんにばれたら全員爆殺されそうだ。
「A組ってあと誰居たっけ?切島?」
拳藤さんがそう言い首をかしげる。
「それっぽい!あかりちゃん明るいし切島似合いそう!」
「たしかに、仲良いしね」
「よし!切島でファイナルアンサーだ!」
三奈ちゃんがそう言いきり、皆ワクワクして私を見る。そんな期待の眼差しで見られても、
「ごめん、違う」
「うっそ!待ってあと誰残ってる!?峰田は論外だし…飯田とか?緑谷とか?」
「それも違う…」
ここまで言われて名前が出てこないとは思わなかった。それだけ、皆が彼を男として見ていないということなのだろうか。
「常闇くんやなくて?」
お茶子ちゃんが首をかしげて聞いてきた。
「席隣だし、今日もバス隣だったし、寝落ちて常闇くんの肩に頭あずけてたし…」
「何それ!?そんなことあったの!?」
「え、嘘、私そんなことなってた?寝惚けてたから起きたときのこと全然記憶ないんだけど…」
「なってた。ついでに常闇くんも寝てたみたいだからあかりちゃんが常闇くんおはようって起こしてた」
あ、そういえば常闇くんのこと起こした気がする。ていうかおはようって、あれお昼時だったでしょ。恥ずかしいな私。あのあとの魔獣の森の特訓のせいでそんなこと忘れてしまっていた。
「明日常闇くんに謝っとこ…」
「ね!ね!それより、答えは?常闇なの!?」
「あ、うん」
「わーお!」
みんな驚いていたけど、どこか納得しているようだった。
「二人並んだらサイズ感可愛いよね」
「わかるー!常闇小さいし、あかりちゃんもっと小さいしね!」
たしかに隣に立ったとき、常闇くんの目線は私のちょっと上ってくらいで、他の男子たちみたいに見上げることはない。たしか男子のなかで峰田くんの次の背の高さなのが常闇くんだ。
「どのへんが好きなの?他の女の子に優しくなさそうなとこ?」
「言い方が雑だなぁ…!まぁ、上鳴くんみたいに無闇に優しさ振り撒いたりしないのは良いと思う。けど普通に優しいし」
「…顔は、どうなの?」
「好き。目付きの悪さは爆豪くん並みだけど、優しいからオッケー」
へへ、と笑みが溢れてしまう。常闇くんのこと考えるだけでちょっとにやにやしちゃうのやばいな。
「…超正直なこと言っていい?常闇と付き合ったとしたらさ、その…キスするときどうなるんだろうね」
「三奈ちゃん…!」
「は、はしたないですわ…!」
「だってあのくちばし、くちばしだよ?痛そうっていうか、固そうっていうか」
ああ、たしかに。常闇くんのことは気になるけど、そこまで考えたことがなかった。
「常闇くんの方がもどかしそうだよね。キスしたいのにできなかったら気にして闇が深くなりそう」
「黒影パワーアップしちゃうね」
「そんな弊害、明星さんの愛で包み込んでしまえばいいのよ。何も唇にするのだけがキスではないでしょう」
塩崎さんが思いきったことを言うので、想像して頬が熱くなった。
「そもそもあかりちゃん、気になる人って言っていたわよね。常闇ちゃんとお付き合いしたいくらい好きなのかしら?」
「へっ!?…あ、あの、あのね、その答え私も出したかったからちょっと聞いて欲しいんだけど、いい?」
「なになに!?話して!」
キスの話のあとで話づらいなぁとか思ったけど、皆また私に注目してくれたから、話すために一つ咳払いをした。
「今日バス隣だったじゃん?でも常闇くん静かだから黙って座ってたんだけど、むこうがね、明星も皆とはしゃぎたいだろ、悪いな、とか言ってきたの。黙って私のこと考えてくれてたってだけでもちょっと嬉しかったし、全然悪くなかったから、悪くないよって、常闇くんの隣落ち着くしって言っちゃって」
恋バナ聞いてもらうの緊張するな。恥ずかしい。
「そしたら常闇くんも…私の隣は落ち着くって言ってくれて。私今まで常闇くんのこと何とも思ってなかったんだけど、それ言われてすごいドキドキしちゃって落ち着かなくなっちゃって!それからずっと常闇くんのことばっか考えてて、もっと話したいなーとか色々、考えちゃって」
「落ちてるね」
「うん、恋する乙女だね」
「やっぱそーなのかな!?私の落ち方ちょろくない!?なんかそれがすごい恥ずかしくて…!」
頬に手を当てれば、手の方がひんやりしていた。これ絶対顔色変わってるでしょ。
「でもあの常闇がねぇ…」
「常闇って簡単にそういうこと言わなそうだよね。あかりちゃんだけ特別じゃない?」
「浮かれさせないで!」
「付き合っちゃえば?」
「軽い!」
私の感情が恋の可能性が高いことは解ったけど、いきなり付き合うとかそんなの、はやすぎる。
「合宿中遊んでる暇無いけどさ、ご飯の時とか隙見つけて常闇に話しかけなね!」
「うん…がんばる。三奈ちゃんも補習がんばって」
「ううっ…がんばるよ!そろそろ行くね!」
付き合うまでは急ぐつもりは全然無いけど、常闇くんに興味が湧いたのはたしかだし、気になるし、好きだし。できれば、少しでもいいから、仲良くなれるといいんだけど。
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