君の隣が



敵を追い返すことはできたけれど、私たちはクラスメイトを失った。爆豪くんを捕らわれてしまった。聞けば、常闇くんまでついでに連れていかれそうになったとのことで、間一髪で常闇くんだけは助け出せたそうだ。私はそれを聞いて、よかった、と思ってしまった。不幸中の幸いと言えば聞こえは良いかもしれないが、私は自分の思考を恨んだ。たくさんの人が怪我をした上爆豪くんが居なくなったのだから、何も良くない。私は自分がヒーローに向いていないのではとショックを受けた。


「…明星、大丈夫か?」

いまだ入院中の緑谷くんをお見舞いするために、動ける皆で病院に集まった。集まったは良いものの、落ち込みすぎていて切島くんに心配された。

「…ごめん、ちょっと、一人になりたい。皆で先言ってて。たぶん、後から行くから」
「…そっか、無理すんなよ。何かあったら連絡くれればいいから」
「うん…」

私は総合受け付けの前のソファの、隅っこに行って座り込んだ。私は何もできなかったのに、ボロボロになるまで頑張った緑谷くんに平然と会いに行くことなんてできなかった。
うつむいてため息をついていたら、誰かが隣に座ってきた。わざわざ壁際に来たのに、更にわざわざ隣に座りに来るなんて、と怪訝に思って隣を見上げれば、常闇くんの真っ赤な瞳と視線が交わった。

「常闇くん…」

常闇くんがわざわざ私の隣に来てくれたのは嬉しかった。けれど、過去最低なほど元気の無い姿を、見られたくなかった。

「悪いな、一人になりたいと言っていたのに」
「…ううん、嬉しい」

そっとしておいて欲しかったのは本音だけど、常闇くんが私のためにしてくれたことだ。嬉しくないわけがない。

「何をそんなに落ち込んでいるんだ」
「…ずばり聞くね」
「…悪い」
「…悪くないよ」

こんなにめんどくさい私に構ってくれて、話まで聞いてくれるなんて。

「私…何もできなかったことが、悔しいの。逃げろって言われたから逃げたんだし、個性の使用許可出たのが自衛のためなのも解ってる。でも、自分だけ逃げて森の中の誰も助けることができなかったのが、情けなくて」
「それを言うなら俺もそうだ。黒影が暴走しただけで、自力で誰も助けられてない」
「だとしても、敵倒したって聞いたよ。すごいよ、常闇くんは」

常闇くんが居なかったら、轟くんと爆豪くんの、命が危なかったって。

「緑谷くんは、逃げろって言われたけど自分から駆け出して、洸太くん助けて、敵まで倒して、常闇くんのことも助けてくれた。私だって…動けてたら、誰かの、何かの助けになれたかもしれない。もちろん弱いから、力になれなかったかもしれないけど…でも、やるとやらないのじゃ、後味が違いすぎるよ」

私が敵に太刀打ちできるほど強くないのは理解してるけど、だからって何もしなくていい理由にはならないのに。

「そんなに気負う必要無いだろう。むしろ、そんな迷いを持ったまま飛び出して死なれていたら、相澤先生も雄英もタダではすまなかっただろう。あの時は、全員生還することが第一だった。力が及ばないと思ったなら逃げるのが先決だ」
「…でも、」
「少なくとも俺は、明星が無事で良かった。もし明星が俺や誰かを助けるために飛び出して怪我をしたり、死なれていたら、悔やんでも悔やみきれなかった。生きていてくれて、よかった」

なんで、常闇くんがそんなに、慰めてくれるの。生きててよかったはこっちのセリフだよ。大変な目にあったのは常闇くんの方なんだから。

「私も…常闇くんが生きて戻ってきてくれてよかった。安心した。でも、爆豪くん居ないのに安心しちゃってる自分が、なんか、すごく嫌で…」
「…爆豪ならこれからプロヒーローたちが助けに行く。俺だって助けに行けるなら行きたいくらいだが、それでヒーローに迷惑をかけるわけにはいかない。俺らはまだヒーローではなく雄英の一年生だ。悔しいなら、これから強くなればいいだけだ」

焦るな、と一言付け足して、常闇くんは、恐る恐るといった感じで私の頭を撫でた。

「…爆豪くん帰ってくるかな」
「ああ。プロヒーローたちは強いからな。きっと助け出してくれる」

本当はどうなるかなんて解らない。でも今は、常闇くんの言葉を信じたかった。それで、気持ちが楽になりそうだったから。

「…常闇くん」
「ん」
「ありがとう」

私はきっと、本当に強くなるまで、ヒーローになるまで、自分の情けなさ弱さを受け入れ続けなきゃいけないんだ。辛いけど、でも、好きな人がこうして慰めてくれたという事実だけでも、心の支えにすることができる。

「俺は何もしていない。顔を上げられるようになったなら皆の元へと向かおう」
「あ……まって」

常闇くんは立ち上がって、歩き出そうとした。私は無意識に常闇くんの服の裾を掴んでいて、引き留めてしまった。

「…もうちょっとだけ、えっと……」
「……」

もうちょっとだけ、二人で居たい。話したい。傍に居て欲しい。言葉選びに迷っていたら、常闇くんはまた隣に座ってくれた。

「…ごめん、ありがとう」
「構わん。言っただろう、明星の隣は嫌いじゃない」

落ち着くって言っただけで嫌いじゃないなんて聞いてないよ。ていうか、落ち着くって言われるよりも、嬉しい。

「私も、常闇くんの隣好き」
「!」

常闇くんが好き。そう言えたら話は早いけど、そう言う度胸が私には無い。爆豪くんが帰ってきて、雄英がいったん落ち着いて、また常闇くんとゆっくり話す機会ができたら、そのときに。

「あ…そういえば、行きのバスの時、私寝ちゃったよね。そのとき常闇くんにもたれちゃってたらしいね。重かったでしょ、ごめんね?」
「いや…問題無い。嫌じゃなかった」
「…やっぱり、起きてて知ってたのに肩貸してくれてたんだ?優しいね、ありがと」
「……明星にだけだ」
「え」

またしても常闇くんは立ち上がって去りそうになるから、咄嗟に腕を掴んだ。

「な、何をする」
「も…もうちょっと傍に居てって言ったじゃん」
「…もうちょっと、の続きは今初めて聞いたが」

引き留めてどうする。これ以上常闇くんに何を言う。
私が腕を掴んだせいで、常闇くんは居づらそうにまた座った。座られてしまった。私もう、これ以上まともにしゃべれない。

「ここまでされるなら、聞いてもいいか?…傍に居て欲しいのは、俺だからか?それとも…誰でも良かったのか?」

緊張して、ごくりと生唾を飲み込んだ。いまだに常闇くんの腕から離せない手に力がこもる。

「常闇くん…」
「おーい常闇!明星!」
「ばっか、病院で大声出すな」

呼ばれてハッとして、常闇くんの腕から手を離した。今すごい良いとこだったのに。いや、病院で、人目のつくところで私は何を言おうとしていたんだ。

「変なことを聞いた。悪い。行こう」
「……だから、悪くないってば」

常闇くんは先に立ちあがり、皆の方へと歩きだした。私もあとを追いかけて、常闇くんに聞こえるかどうかも解らないくらいの声で呟いた。私は別に、常闇くんになら、何言われても、何されても、悪いだなんて思えないんだから。

- 4 -

←前次→