恋の予感



下校時刻、千代と結月と喋って過ごしていたら、朝の約束通りみこりんが迎えに来たみたいで、教室の外からこちらを伺っていた。

「みこりんだ、どうしたんだろ?」
「ごめん、なんやかんやでみこりんと帰ることになったから行くね」
「なんやかんやでイケメンとデートか?」

結月がヘラヘラした顔で聞いてきた。
デートとは? デートってなんだ? 二人で登下校するのはデートの内に入るのか?

「熱いねぇ、ひゅーひゅー」
「いやいやいや、デートじゃないし、むこうもそのつもり無いから…」
「でもあいつソワソワしてるぞ?」
「みこりんがソワソワしてるのはいつものことだよ。放置するの可哀想だからほんとに行くね、それじゃ、また明日ね」

ばいばーい、と言い合って、すぐにみこりんに近付いた。

「お待たせ」
「遅ぇよ、他クラスの前で待つの心細かっただろうが」
「ごめんね、行こうか」

あの人気でかっこいいみこりんと二人で登下校だなんて。やっぱり、端から見たらデートっていうか、そういう関係に見えたりするのかな。なんて、結月のせいで少し意識してしまう。


「けっこー雨降ってんな」
「そうだねー…」

雨を望んだのは私だが、いざまた相合い傘をするとなると、緊張する。やっぱり止んでくれた方がよかったかな。

「ん」
「あ、お邪魔します」

そしてまた、みこりんがさしてくれた傘の下にお邪魔した。もしかして緊張してるの、私だけなのかな。

「…今日の朝も、こうやって二人で来ただろ。それクラスの奴らに見られてたらしくて、なんかすげぇ尋問された」
「そうなの? べつにみこりんの周りに女の子がいるの、珍しくないのに」
「そうだけど…俺に寄ってくるの、派手な女子が多いんだよ。それなのに京極みたいなのと二人ってのがどうも引っ掛かったみたいで」
「…あの、私みたいなのって?不良みたいな、とかじゃないよね? ちゃんと普通に大人しそうな女子って意味だよね?」
「あいつらにはそう見えたらしいな」

あいつらには、とは? やはりまだみこりんの目から見ると、私は大人しい女子ではなくヤンキーに見えているのか?

「あの…ちゃんと聞いておきたいんだけど…、みこりんって、私のことどう思ってるの?」
「…どう、って、」

少し前にスケ番セーラー服姿を見られたばかりだし、まだそういう柄の悪いイメージは抜けていないのかもしれない。

「…かわいいと思うぞ」
「…んん!?いやっ、あの…、」

私の聞き方が悪かったのか? 私はただ、まだヤンキーのイメージが抜けないのか、それとも普通の女の子だってことを理解してくれたのか、それを聞きたかっただけなのに。
かわいいって、私のことだよね? それは間違いじゃないよね?

「な、なんだよ、お前が聞いてきたんだろ!?つーか、なんで聞いた!?」
「ご、ごめん、第一印象の誤解が解けたのかどうかが知りたくて…あの、予想外の答えを引き出してしまいまして…」
「第一印象だぁ?あー…とんでもねぇ不良だと思ったけど…、さすがにもう、誤解は解けてる。暴れてる姿も見ねぇし、悪い噂も聞かねぇし」

あ、よかった。誤解とけてたんだ。安心したら、熱くなった顔の温度も下がってきた。

「いまだに不良だと思ってたら、こんな風に優しくしねぇし仲良くもしねぇっての」
「…そっか。じゃあ、もう普通のただの女子として見てくれてるんだね。よかったー」

初めのころなんか明らかに避けられてたし、誤解が解けていなかったらあのまま避けられ続けていたのだろう。

「…俺は鹿島とは違ぇから、そう簡単にただの女子に触ったり同じ傘の下に入ったりしねぇよ」

なるほど。では私は結局ただの女子扱いはされていないということか。ということは? え、なに? 特別な女子扱いされてるの? あ、友達だからか。え、でも友達に可愛いとか言うか?

「…みこりん。きゃぴきゃぴした女子たちにならまだしも、私にまでそういうこと言うと、簡単にハントされそうになるからできればかっこつけてイケメンオーラ放つのやめて!」
「おっ、…おう」

このままでは、みこりんに落ちてしまう。そんなのはだめだ。みこりんみたいな人のこと好きになったら、敵が多いし、みこりんは女の子に愛想振り撒くし、ラブハンターだし、絶対疲れるだろうな。私はもうちょっと、平凡に恋したい。

- 10 -

←前次→