口説かれる



「おはようございます!」

朝、偶然結月と会ったから二人で教室に向かっていたのだが、途中で最近聞きまくるようになった声が聞こえてきた。

「おはよー若松くん、今日も元気だねー」
「京極先輩は今日も可愛いですね!」

突拍子もなく笑顔でそんなことを言われたものだから、不意打ちすぎて赤面した。まさか日常的に特訓を仕掛けてくるつもりか。
しかし若松くんはそれだけ言って去っていった。言い逃げするとは。

「椿、若に好意でも持たれてんのか?」
「いや…照れ対策の特訓が続いてるんだと思う」
「ははっ、顔真っ赤だぞ?」
「うるさいっ」

こんなことでは、いつまでたっても鹿島くんを相手にすることができなさそうだ。

「おはよう椿ちゃん、今日も可愛いね」

考えているそばから鹿島くん本人が現れた。

「ありがとう…それ今さっき聞いた台詞だよ」
「えっ、私以外にそんなこと言う人いるの?御子柴?」
「な、なんでみこりんなの」
「御子柴でもないの!?えっ、まさか、彼氏いたの?」
「いないよ!」
「彼氏でもないのに可愛いとか言うの!?」
「鹿島くんだってそうでしょ!」

なんだか恥ずかしかったけど、鹿島くんにことの経緯を説明した。鹿島くん相手にすると照れてしまうことと、照れるのを我慢する特訓のために後輩に手伝ってもらっていることを。

「だったら直接私に言えばいいのに。いくらでも手伝ってあげるよ?」
「…そ、そんなに鹿島くんと過ごしたら、鹿島くんに惚れちゃうかもしれないでしょ。それは、困る」
「椿って女でもいけるのか」
「いけません!でも万が一ってこともあり得るから若松くん借りてるの!」

鹿島くんがどんなにかっこよくて綺麗でも、女なんだから。惚れるわけがないし、惚れてはいけない。

「でもそれ、若松に惚れる可能性ねーのか??」
「…え?」

- 13 -

←前次→