やきもち



「今月も和歌が可愛い…やっぱ付き合うならまみこじゃなくて和歌がいいよー。夢野先生〜〜不良を、不良をまみこではなく和歌に〜〜」
「だから、尾瀬で手一杯だって言っただろう」
「…誰にも見向きされない不良が可哀想!!」
「和歌が突然不良になびいたら読者が不安になる」

あぁ、たしかに。可哀想な私。いまだに不良扱いで名前すらないモブ不良。舞台上での私みたい。

「そんなに和歌が良いならモデルにした現実の奴と仲良くしたらいいだろう」
「えっ、和歌にもモデルがいるの?」
「京極も最近仲良くしてるだろ?」
「…和歌…松?くん?」
「ああ」

では私の戯れ言は、野崎くんの耳には、私が若松くんと付き合いたいと言っているようなものだったのでは。ていうか、はじめから私はまみこではなく和歌と付き合いたいとか言ってたし、今若松くんと仲良くできているのは夢野先生が引き合わせた運命…。

「だから若松くん可愛いのかー。どこかで見たような可愛さだと思った」
「若松よりも和歌の方が可愛いがな」
「親バカ…」

たしかに和歌は乙女だし、やること全てが可愛い。だがそれも若松くんの可愛いところを凝縮しただけなのでは?まみこだって、みこりんの可愛いところを集めただけだし。

「おい、御子柴。和歌の周りに不穏なトーンを貼るな」
「え?あ、しまった」
「それ若松くんが結月イメージしたトーンじゃん…」

恋する和歌の可愛いシーンだからキラキラしたトーンが必要なのは私にもわかるのに。何を間違えたらそんな邪悪にできるんだ。…邪悪とか言ってごめんね結月。

「なんか、調子悪いから帰るわ」
「えっ、トーンこのまま!?」
「明日も暇だから来るし、明日直す」
「…、そっか」

みこりんはなんだか暗い表情のまま、野崎家をあとにした。何か悩み事でもあるのかな。

「みこりん大丈夫かな?」
「ご機嫌ななめだったな」
「私が追いかけたらうざいかな?」
「…まみこは寂しがり屋だから、嬉しいと思うぞ」
「また漫画のネタにしようとして…」
「報告よろしくな」
「…夢野先生が望むなら…」

私の行動が少女漫画にそこまで役に立つとは思えないけど。とりあえずみこりんを追いかけることにした。部屋を出て地上を見下ろせば、駅の方に向かうみこりんの姿があった。見失わないように急いで地上に降りて走った。

「みこりん!」

私服にヒールを履いていたせいで、階段を駈け降りて少し走っただけで疲れた。足がちょっとだけ痛かったけど、とりあえずみこりんには追い付けた。

「お前も帰るのか?」
「うん。せっかくだから、みこりんと一緒に帰ろうかと思って」
「…そうか」

なんだかみこりんが素っ気ない。ご機嫌ななめな理由が私にあったりするのか?いや、それは考えすぎっていうか、自惚れすぎかな。

「…みこりん、何かあったの?」
「別に…」
「…何も無いならちょっとくらいこっち見てくれる?」

みこりんの袖を引っ張れば、みこりんは視線を私に向けてくれた。目があって、ドキッとした。そういえば、最近みこりんと話す機会が減った気がする。主に部活と若松くんに時間を割いているせいで。

「…最近、若松と仲良いみたいだな」
「え?まぁ、そうだね」
「若松に迫られて照れてるとこ見かけるし…若松に口説かれてるって聞いた」
「間違ってはいないけど…あの、全部、特訓だし」
「なんで若松なんだよ」

なんか、みこりんちょっと怒ってる?ご機嫌ななめなだけではない?

「鹿島じゃレベル高いってのは解るけどよ、なんで若松に頼るんだよ」
「え…結月が、貸してくれるって言うから」

若松くんは結月の所有物なわけでもないんだけど、そう言われたし。

「鹿島と若松じゃ月とスッポンじゃねぇか。鹿島対策にならねぇだろ」
「…もしかして、みこりん頼ってほしかった?」
「そ、そんなこと言ってねぇだろ!」

あぁ、やっぱそうなんだ。だからなんかご機嫌ななめなんだね。

「みこりんがやってくれるなら、みこりんの方がいいよ。その、かっこいいし、イケメンに慣れるって意味ではみこりんの方が頼りになるし」
「俺…かっこいいか?」
「うん、かっこいいよ」

いつもの調子に戻ってきたみたいで、みこりんがちょっと嬉しそう。よかった。

「しょうがねぇな。そこまで言うならこの俺が手伝ってやるよ」
「うん、ありがとう」
「俺がかっこいいからって、簡単に照れるんじゃねぇぞ?」
「簡単には照れないよ。一応、顔色変えない特訓はしてきたんだから!」
「ほう、言ったな?」

みこりんは余裕たっぷりの笑みで、私の手を握ってきた。
野崎くんの家で若松くんにも手を握られるくらいの特訓はしたし、顔色だって別に変えずに済んだし、そこまでドキドキしなかった。
しかし今は屋外であり、相手がみこりんなのである。ドキドキしないわけがない。

「…若松との特訓、意味あったのか?」
「あった、と、思いたい」

この程度で照れていたら、舞台上で鹿島くんに抱き締められることすら不可能だろう。いよいよやばくなってきたな。

「…みこりんだって、照れてるじゃん」
「あ、当たり前だろ!真顔でこんなことできっかよ!」
「そう考えると鹿島くんが異常なんだよね…」
「…そうだろうな」

そんな感じで喋っていたら、手を離すタイミングが解らなくなってしまい、離そうだなんて言い出せなくなってしまった。みこりんも同じなのか言ってこないし、ちょっと困った。
結局駅までずっと手を握ったままになって、ICカードを出すときになってやっと、どちらからともなく手を離した。
改札を通ってからもずっと、手のひらに残る熱が消えなかった。

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