大魔王役



「エリザベス!しっかりするんだ!傷は浅い!」
「王子…私のことは、置いて逃げて。きっとこれは、王子を殺そうとした、報いだから…」
「弱音を吐くな!君のことは僕が必ず助けてみせる!だから…」

鹿島くんが必死な顔で呼び掛ける。死に際にこんな必死で泣きそうな顔をされたら、どんなに苦しくて、どんなに嬉しいか。

「王子…今まで、ありがとう」
「エリザベス…!」
「愛しているわ…だから、貴方の幸せを、ずっと願っています…」
「あぁ、僕も君だけを愛している…!」

ずっと鹿島くんの顔を見ていたかったけど、死ななきゃいけないから目を瞑り、全身の力を抜いた。今頃鹿島くんが私に顔を近付けて別れのキスの振りをしているのだろうが、目を瞑っているからわからない。


「カット!!京極うまくなったな!」
「ほんとですか!ありがとうございます!」

堀先輩に褒めてもらえると、勇気が出るしとても嬉しい。もっと褒めてもらいたくなる。

「部長〜!たまには椿ちゃんが幸せになれる配役してあげてくださいよぉ!当て馬にされたり不良だったり死んだりするの可哀想です!」
「たしかにそうなんだよな…。京極、なんかやってみたい役あるか?」
「えっ、あの、言ったらやらせてもらえるんですか?」
「次回それっぽい役があったら考えておく」
「じ、じゃあ…悪役やりたいです!」

素直に答えたのに、堀先輩含めみんなが呆気にとられた。

「あの、いつもの町の不良みたいなのでなくて!その、一番悪い役です!桃太郎でいうところの鬼みたいな!ボスを!」
「いいの?ハッピーエンドのヒロインとか言っとけばやれたかもしれないのに」
「んー…だって、幸せになったお姫様の気持ち、私には解らないから、芝居できない気がして…」

今回みたいな、王子にさよならを告げるヒロインの気持ちなら、なんとなく解る。だからこそ堀先輩に褒めてもらえたのだろうし。
おとぎ話のヒロインの幸せは、味わったことが無いから解らない。

「じゃあとっておきの悪役を用意してやる!それでいいな?」
「はい!楽しみにしてます!」

私が輝けるのは、きっと悪役をやるときだ。どんなに真面目に生きて優等生をしてきても、これといって輝く瞬間の無かったこの私が、堀先輩に見初められて悪役として舞台で輝くことができたんだ。
みこりんの彼女役だって、告白してきた女の子からすればただの悪役でしかなかっただろう。みこりんのお姫様になれない私は、所詮悪役がお似合いなんだ。

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