ハッピーエンドをめざして
「んーっ…疲れた!」
「そろそろ休憩にするか。何か飲むか?」
「飲む!」
原稿の細かい作業をしていたら、体が痛くなってきた。
「そういやこの前のゲームまだ終わってなかったよな?」
「堀先輩ってゲームとかやるんですか?」
「ここではやるぞ。野崎が担当に貰ったやつとか、御子柴が持ち込んだやつとか」
「へー。どんなゲームです?」
「京極もやるか?なかなか面白いぞ」
堀先輩は馴れた手付きでテレビ台の下からゲーム機を引っ張りだし、ケーブルを接続し始めた。男性のやるゲームってどんなのだろう。格闘ゲームとかかな。
「堀先輩、それやるんですか」
「まぁいいだろ」
液晶画面に表示されたのは、愛するヒロインとらぶらぶ学園生活!と書かれたやたらと可愛いロゴと、やたらと可愛い女の子たち数人だった。
「これは…あれですか。ギャルゲーですか」
「おぉ、わかるのか」
「堀先輩がこういうのやるなんて意外ですね。しかも女の私にこれを勧めてくるとは思いませんでした」
「どのキャラのルートでも入れるはずだから、見た目で好きな子選んで進めれば京極でもできると思うぞ」
ゲームの詳細など聞いていないというのに。とりあえず渡されたコントローラーを操作し、名字は自分のもので、下の名前は困ったから、恋しよっのキャラの龍之介の名前を入れておいた。
「野崎くんもこういうとこでキャラ作りの参考にしたりするの?」
「いや、参考にするのは乙女ゲームの方だな」
「野崎くん乙女ゲームやるの!?」
「あれはいいぞ。女子がどんな男を求めているかがよくわかるからな。それにシチュエーションもなかなか参考になる」
「そ、そうなんだ」
意外だ。みんなそういう恋愛シミュレーションゲームってするものなのか。それなのに全員恋人がいないのは、それが現実のシミュレーションにならないということなのだろうか。
「う〜〜ん、ツンデレはめんどくさいな〜」
「幼馴染みのストーリーが一番王道な展開だったぞ」
「生徒会長のスチルは良かったな。あと、保健の先生」
二人の好みが解ってしまうような気がしてなんだかオススメは聞きたくないな。その三人は避けて別の子にしよう。
「うわっ!この後輩可愛い!!」
クラスメイトと仲良くせずに過ごしていたら、廊下で女子とぶつかった。その子が偶然落とした生徒手帳を拾い、届ける試練を与えられた。
『あっ、さっきぶつかった人!拾ってくれたんですね、ありがとうございます!助かりました!』
「うわっ、素直だ!明るい!可愛い!何かお礼とかしてくれる!?」
「…してくれないみたいだな」
今回は生徒手帳を返すだけで終わってしまった。だがこちらは君の名前を見て覚えたしクラスも覚えたぞ。自由時間にこの教室あたりをうろつけばまた会えるだろう。
『こんにちは!京極先輩また会いましたね、一年生の教室前なんか歩き回って、暇なんですか?』
「堀先輩!響ちゃんが可愛くないこと言ってきます!今のうちに女の子乗り換えるべきですか!?」
「まぁとりあえず選択肢選んでから考えろよ」
暇なんですか?に対する選択肢が3つ表示されていた。
一つ、たまたま通りかかっただけだ。
二つ、生意気なこと言ってんじゃねぇよ。
三つ、君に会いたかったから。
私は即座に三つめの選択肢を選んでいた。
『えっ?や、やだなー!そんなこと言われたら照れちゃいますよ!』
そして頬を染める響ちゃん。これは、あの、あれだ。もっと照れさせたい。
「堀先輩、私、響ちゃんとらぶらぶ学園生活を送ってハッピーエンド迎えます」
「気に入ったのか?」
「とても!もう他の子に構ってられないです!私は一年生の教室前をうろうろします!」
「そーか、くくく」
私がギャルゲーをやる姿がおかしいのか、堀先輩はにやにやと笑う。
しかし気にせず自由時間や休日のたびに響ちゃんが現れそうな場所をうろついて進めていたのだが、日付が一ヶ月経ったところで、強制イベントが発生した。
『放課後、図書室で待ってます』
そう書かれた響ちゃんからの手紙が靴箱の中に入っていた。
「これって呼び出しで告白ですかね!?まだ五月なのにちょろいですねこの子!」
「くくっ、そうだな」
「何がおかしいんです?」
「いや、京極のはしゃぎかたが面白くてな」
たしかにあまりはしゃぐ方でもないけど。たまには私だってテンションは上がる。主に夢野先生が関連してる時だけど。
『先輩、急に呼び出したりしてすみません。先輩に真面目な話があって…』
なぜか背中を向けている響ちゃんにドキドキしながらAボタンを押せば、響ちゃんは振り向いた。だがその顔は、愛の告白をする女子の表情ではなかった。
『最近、よく私の周りに現れますよね…。はっきり言って、迷惑なんです。つきまとわれてる感じがして、怖くて…。だから、もう私の前に現れないでください!』
まさか可愛い後輩にストーカー扱いされるとは。なんだこのゲーム。構えば構うほど好感度が上がるんじゃないのか。
そしてまた現れた選択肢の、わかった・うぬぼれるな・どうして、の中から、理由を聞くために、どうして、を選んだ。
『怖いって言ってるじゃないですか!ち、近寄らないでください!やめて!きゃあ!』ガタガタッ
ふっと画面が切り替わり、二人とも転んで、男が響ちゃんを押し倒すようなスチルが表示された。まさかここまで胃に悪く押し倒すシチュエーションが存在するとは。
『いやあっ!離れてください!ごめんなさいぃ!』
『こらっ、何やってるんだ!』
聞いたことのない声が聞こえてきて、現れたのは教師だった。そしてそれからは、生徒指導室に連れていかれ反省文を書かされ停学になるというバッドエンドを迎え、早くもエンディング曲を聞くことになってしまった。
「堀先輩…これはとんでもない泣きゲーですね…」
「ははは!まさかバッドエンド直行するとはな!」
「先輩もしかして解ってて黙ってた、っていうか笑ってました!?ひどいです!」
「悪い悪い、でも面白かっただろ?」
「ええ、とても!!」
とても悔しい。まさか一途な気持ちが裏目に出るだなんて。
「野崎くん!もう一周してもいい?」
「いいぞ。晩御飯食べてくか?」
「えっ、それは悪いよ」
「堀先輩は今日泊まりだからどっちみち多目におかず作るけど」
「…じゃあ、ご馳走になってもいい?」
「ああ。ゲームでもして待っててくれ」
「ありがとう!」
野崎くんのお言葉に甘え、響ちゃんとのハッピーエンドを目指すことにした。
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