マミコと和歌と夢野咲子



「ねぇ椿、最近野崎くんのお家にお邪魔しすぎじゃない…?」

千代に不安そうな顔でそう聞かれてしまった。

「最近ね、椿からは野崎くんの話聞くし、野崎くんからも椿の話よく聞くと思うんだけど」
「そ、そうかな」
「椿が漫画大好きなのは解るけどさ〜」
「うん、あの、別に野崎くん目当てで行ってるわけじゃないからね?」

野崎くんは私の好みではないし眼中にない。だから千代に疑われるようなことは何もないんだけど、千代からしたら心配なのだろう。

「千代ももっと遊びに行けばいいんじゃない?」
「だって私ベタ係だから、そこまで呼ばれないもん…。椿みたいに器用で何でもできるなら毎日でも通うけど…」

これは、千代に嫉妬されているのだろうか。せめてなんとかして野崎くん自体には興味がないということを伝えなければ。

「椿は野崎くんとしょっちゅう過ごして何とも思わないの?」
「うん。千代が感じるようなドキドキは野崎くんに対して感じたりしないから…」
「…ほんとに?野崎くんあんなにかっこいいのに?」
「私の好みではないからな〜…」
「椿はどういう人が好きなの?そういえば椿とこういう話したことなかったね!」

そうだね、千代とはしてないね。ただそれはみこりんとか堀先輩とか若松くんと野崎くんたちとはしたよ。なんで男子と恋話なんかしたのかな、バカなのかな。

「…私ね、好きな人できた」
「えっ!?椿大人しそうな顔して好きな人いるっ、」

千代が馬鹿みたいに騒ぐから、咄嗟に手で口を塞いでやった。これ確実に周りに聞こえてたでしょ。なんてこと言ってくれるんだ。

「千代、騒ぐなら私毎日野崎くんの家に通うけど」
「ご、ごめんなさい!」

話す気がすごく無くなったけど、千代のことだから話しておかないとしつこく聞いてくるだろう。

「三択で聞くからあててね」
「う、うんっ」

しかしここは教室で昼休みだ。直接名前を出して誰かに聞かれでもしたら困る。

「一、夢野咲子」
「!?」
「二、和歌。三、マミコ」
「えっ、えっ…一じゃないのは確かだよね!?!?」
「そう思う?」
「そうじゃないとだめ!!」
「うん、二か三のどっちかだから安心して」

千代はほっと胸を撫で下ろした。

「でも椿、よく和歌と付き合いたいって言ってたよね?ってことは若…なの?」
「選択肢一つずつ潰してくのよくないと思うんだけど。ちゃんと一つに絞って選んでほしいなぁ」
「えええ、うーん…」

適当にどっちか答えさえすれば、正解か不正解かは教えるんだからどっちみち答えは解るのに。

「椿…若のこと好きだったのか?」

突然頭上から降ってきたその声は、結月の声だった。神妙そうな顔で私たちを見下ろしていた。

「そういうことなら早く言えよ〜!私が仲取り持ってやろうか!?」
「待って結月、勘違いだからとにかく騒がないで!!」
「恥ずかしがるなよなー!若と付き合いたいんだろ?」
「私の言う和歌は若松くんのことじゃなくて、好きな漫画のキャラクターで、」
「あぁ?ややこしいな、どっちでもよくね?」
「よくない!とにかく、若松くんは関係ないから、それだけは理解して」
「ふーん」

理解してくれたのかどうか解らないが、結月は自分の席へと戻っていった。

「素直に結月のこと頼ればいいのに」
「和歌だと思った?残念でした!!」
「えっ、違うの!?ってことは、えーっ!!」

そんなに驚くほど意外だったかな。まぁ何はともあれ、野崎くんに興味がないことは伝わっただろう。これでよいのだ…。

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