水着スチル



「おい椿、脱がねーのか?」
「…脱がない」
「それじゃ泳げねーだろ」
「…もともと泳げないもん」
「じゃあ何が楽しみで水着選んだんだよ!」
「やだー!結月のえっち!」

パラソルの下で日焼け止めを塗ってパーカーを羽織ったまま縮こまっていたら、結月が私を脱がせようとしてきた。結月の綺麗な体が眩しい。運動できる人間の体だ。

「遊ばなきゃ楽しくないだろ!」
「水着恥ずかしいもん!下着と同じ面積の布で外歩くとかあり得ない!」
「じゃあスクール水着にすりゃよかっただろ!」
「それじゃ悪目立ちするでしょ!?」

なんて騒いでるせいで合宿に参加した子達が物珍しそうに私たちを見てくる。だから、その視線が嫌なんだってば。

「あっ、若ちょうどいいところに!脱がすの手伝え!?」
「えぇ!?女性にそんなことできるわけないじゃないですか!」
「んだよ意気地無し!」

若松くんが意気地無しなんじゃなくて結月が異常なんだよバカ!

「おら!」
「ひぃっ」

ガバッとTシャツをたくしあげられて、水着が丸見えになった。恥ずかしい。

「焼けたくないなら私が日焼け止め塗ってやるよ!」
「ちょっ、結月!いい加減にしてよー!」

そのまま脱がされ、全身にべたべたと日焼け止めを塗りつけられた。結月ってばひどい。鬼だし悪魔だ。

「あー疲れた。かき氷買ってきてくんね?」
「知らない!結月のばか!」

Tシャツを奪い取られ、水着姿でパラソルから追い出された。千代もどこにいるか解らないし、どこへ行けというのだ。

「あっ、椿ちゃーん!」

鹿島くんの声が聞こえて顔を上げれば、背後に数人の男を引き連れた鹿島くんがこちらに向かってきていた。

「水着似合ってるね!すごく可愛い!人魚姫が僕に会いに陸まで来てくれたのかと思ったよ」
「そ、それはどうも…」
「どうかした?」
「後ろの!演劇部のみんなの視線がとても嫌!!鹿島くんには悪いけど、恥ずかしいからあんまり近付かないで!」
「椿ちゃん…!」

鹿島くんはショックを受けているようだが、仕方がない。こんな恥ずかしい姿、人に見られたくない。

「恥じらう京極良いな!」
「不良役とのギャップたまんねぇな!」
「鹿島についてくと絶景ばっか見れるぜ!」
「うるさい!」

もう歩き回るのはやめて、何か食べて気を紛らわせよう。
そう思って海の家でかき氷でも買おうとしたのだけれど、店内には女子数人と雑談して楽しそうなみこりんを見つけてしまい、少しいらっとする。別に誰と居ようがみこりんの勝手だけど、気に入らない。


「あ、若松くん」
「京極先輩!すみませんさっき瀬尾先輩の魔の手から助けられなくて…。でも水着似合ってますね!」
「…ありがとう」

やっと普通の人に普通の反応をしてもらったような感じだ。素直に嬉しい。

「まだ海にも入ってないのに結月のせいで疲れたよ」
「誰のせいだって?」
「げっ、結月」
「だいたい若が脱がすの手伝えば私も椿も疲れずに済んだんだからな。若のせいだぞ」
「脱がそうとするのが間違ってるんだよ」
「なんだよ、若の肩持つのかぁ?あっ、そーいえば椿って若と付き合いたいんだっけか、ひゅー!」
「えっ」

このタイミングで和歌の話を持ってくるとは。ていうか誤解が解けていなかったとは。

「ああもう頭が痛い!!」

早く宿でゆっくり休みたい。

- 26 -

←前次→