罰ゲーム
若松くんと付き合いたい、だなんて誤解をめちゃくちゃ謝りながら解くことになり、結月にも説教をしてさらに疲れた。
宿についてからは美味しいごはんを食べて温泉にも入って大満足だ。そこで問題は、このあとの自由時間をどう過ごすかだ。
野崎くんのところへ行けばついでに千代もいて、だが恋話をしろと言われそうだし。堀先輩のところに遊びに行っても三年の先輩たちも居そうでちょっと気まずい。鹿島くんは堀先輩のところか、もしくは女の子に囲まれているかだから近付けそうにない。結月と若松くんに近付くとなぜか疲れるのでそれは避けたい。
そして、私としてはなにより、みこりんに会いたい。だがみこりんはどこにいる?親友の鹿島くんのところに居てもおかしくないが、鹿島くんが女の子に囲まれていたら別行動だろうし。
「ねぇ千代、みこりんどこに居るか知らない?」
「みこりんならさっき男子たちに取り合いされて逃げてたよ」
なぜみこりんが男子に追われるはめに?まぁみこりんも女の子に人気あるし、エサとして捕まえようとしてるのかな。私だってみこりんのところへ行こうとしているくらいだし、他の女子が狙っていてもおかしくない。
「千代たちは今からなにするの?」
「みんなとお話しながらトランプしようかなって。椿もくる?」
「うん、そうしよっかな」
今日全然みこりんと話せてないや。みこりんの浴衣姿が見たかったけど、探し回るのも大変かと思って千代についていくことにした。
「何やる?ババ抜き?大富豪?」
「ババ抜きでいいから、負けた奴から恥ずかしい恋話をする罰ゲームをしよう」
「野崎くん自分が負けること考えてないの?」
「俺は負けない」
他の女子も含めて6人でババ抜きが始まったのだけれど、一周目から全然数字が揃わなくて、引きの運も悪くて私が負けてしまった。
「さぁ京極!聞かせてくれ!」
と、野崎くんはメモを構える。人の恥を楽しみやがって。
「…夏祭りに行ったときのことなんだけど、」
「季節ネタか。すまんがこれからの時季を考えて、季節の関係ない話にしてくれないか」
「注文多いなぁ!」
ナンパから救出されたってのが一番問題なく話せることだと思ったのに。
「雨の日のことなんだけど、」
「梅雨ももう終わっただろ」
「くっ…」
「ちょっと野崎、早く聞きたいんだからケチつけないでよ」
演劇部の子が野崎くんに歯向かってくれた。ありがとう。
「電車に乗ったときなんだけど、」
「あ、季節関係無くなった」
「すっごく人が多くて座席に座れなくて、そのときちょうどいた、あの、高校の知り合いの男子がいたから挨拶してちょっと話したりとかしてて、その、電車って揺れるじゃん?それで、ふらついてたら、手を貸してくれて…」
マミコと鈴木が徒歩や自転車通学なのを知った上で電車の話にしたのだが、それでも野崎くんはメモをとっていた。なんだか悔しい。
「電車降りるまで、ずっと手握っててくれたの」
「う、うらやましい…!」
千代が頬を染めながら目を輝かせていた。そうか、野崎くんは電車使わないもんね。
「もういいでしょ!次こそ勝つから!」
「よし、もう一戦!」
だがしかし、もう一戦したところでまたしても私が負けてしまった。なぜこんなにも手札が残るのか。
「椿ってこんなにトランプ弱いんだ…」
「運が悪いだけじゃないかな…」
落ち込む私を他所に、野崎くんは楽しそうにメモを出す。
「じゃあ、えーっと…この前の部活のとき。練習で、台本読んでたんだけど、その、恋、してからね、ヒロインの演技もちょっとできるようになった…」
「あっ、この前の切なそうなやつね!部長にも褒められてみんなにも好評だったよねー!」
「京極も普通の恋する女子だったというわけか…」
その通り普通の女子なんだけど野崎くんは今さら気付いたのかな?やっぱり今まで不良の女子だとでも思ってた?
「なんかもう恥ずかしい。私ちょっと飲み物買ってくる…」
「逃げるのか!?まだ聞き足りないぞ!」
「飲み物買ったら戻ってくるよ!」
楽しそうな野崎くんにイラついて、少しきつめに言っておいた。あんまり私ばっかり負けて恋話するのも嫌だったし、まぁ逃げるだけなんだけど。
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