ファンB



「同じクラスの京極椿ちゃんです!」

今日、なぜか私は野崎くんの家に連れてこられていた。野崎くんとは千代の好きな人であり、なぜその野崎くんに、私が紹介されているんだろう。

「どうも、野崎梅太郎です。今日は来てくれてありがとう」
「…こちらこそ、お招きいただきありがとう?」

彼が野崎くんだよ!ということを千代が訴えたい気持ちがあったというのはなんとなく解る。だがしかし、なぜ私はまたもや柄の悪い格好をさせられたのだろうか。野崎くんに紹介するにあたり、髪の毛を少し乱されて、服装だって、リボンは取られてボタンも開けられスカートは短くされ、正直言って恥ずかしい。しかも人を殺しそうな目付きでよろしく!と千代に言われてしまったため、今の私は完全にヤンキーにしか見えないだろう。

「何か飲み物でもいれようか。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「私紅茶!椿はこれでも子供舌だからココアで!」
「よ、余計なことを」

悪ぶっているときにそんなこと言うなとは思うが、コーヒーも紅茶も苦手だからありがたい。

「今日は折り入って話があってな。聞いてくれるか?」
「…まぁ、ここまで来たので聞くしかないよね」
「ありがとう。実はな、俺は今漫画を描いているんだ。それで、新しいキャラを作ろうと思うがなかなか案が出なかったから、佐倉にモデルに使えそうな奴を連れてくるように頼んだんだ」

漫画?野崎くんが?なんだって?

「しかし佐倉にこんなに柄の悪い友達が居たのは驚きだな。瀬尾を紹介されたときでもドン引…びっくりしたくらいなのに、今回は更にすごいな」
「えへへっ。でもね、椿ってばこう見えて、全っっっ然不良なんかじゃないんだよ!頭良いし運動もできるし真面目だし、課題見せてくれるし優しいし、お菓子くれるし、笑うと可愛いし、えーっと、困ってると助けてくれるし、相談にも乗ってくれるの!」
「優等生なヤンキー…?」
「あ、今日はヤンキーに見えるように私が見た目いじったんだけどね!いつもは普通なんだけど、この前寝坊した日にこんな格好で登校してくるから怖くてさ〜野崎くんにも見てもらいたくて!」

と、千代は、私の目付きが悪くてクラスメイトに恐れられたり先生にもびびられたり、あとは堀先輩に勧誘されて入部したことまで楽しそうに説明していた。

「不良キャラは確かに固定ではいないし、使い道はあるかもしれないな」
「でしょでしょー!それでね、私としては、不良の椿が雨の日に捨てられてる子猫に傘をあげちゃうような優しさを見せてくれるとすごく良いと思う!」
「あぁ、典型的な奴か。だとしても、京極要素が少ないな」
「…もしかしてこの格好で連れてきたから、野崎くんには不良らしさしか伝わってない!?」

この二人で会話させても私をモデルにしたキャラなど作れないだろうと思い、私も会話に参加することにした。ついでに、眉間に皺を寄せて目付きを悪くするのに疲れたから、表情は緩くした。

「私から質問なんだけど、いい?」
「あぁ、なんだ?」
「どんな漫画描いてるの?」
「月刊ロマンスで連載中なんだが、この雑誌読んでるか?」

すっと今月のロマンスを机に出される。

「あの……うん、読んでる。毎月」
「話が早くて助かる。俺が描いてるのはこの表紙のやつだ」

今月号の表紙は、私の大好きな『恋しよっ』であり、夢野咲子先生の漫画であった。ということは、野崎くんが?夢野先生?

「ファンです!!!お会いしたかったです!!今月号も読んだけどマミコの切ない感情とかすごくよかったです!!あ、あと、今月号読んでファンレター書いたんですけど直接渡していいですか!?このあと投函しようと思って持ってたの!」

カバンのポケットから桃色の封筒を取りだして、野崎くんに差し出した。千代ごめんね、目の前で。あくまでこれはファンレターだから許してほしい。

「あ。毎月ファンレターくれてる京極椿さん!」
「そう!!ていうか、毎月とかそういうの覚えてるんだ!?嬉しい!」
「毎回感想と一緒にレベルの高いイラスト付けてくれてるからな。印象にも残る」
「やったー!ありがとうございます!今度色紙持ってくるんでサインください!!」
「あぁ、いいぞ」

まさか私の大好きな作家さんがこんなに身近にいたなんて。紹介してくれた千代には感謝してもしきれない。

「椿がそんなにハイテンションになってるとこ初めて見た…」
「そ、そう?いや、だって、嬉しいじゃん?憧れの作家さんだよ?しかも私のことキャラにして出してくれるんでしょ?…って、私が恋しよっに出られるの!?めちゃくちゃ嬉しい!!」

今世紀最大の取り乱し方をしているかもしれないが、落ち着こうにも落ち着けない。

「さしあたって京極に質問があるんだが、いいか?」
「どうぞ!何なりと!」
「鈴木のことどう思う?」
「え?っと、たしかに格好いいけど、好みじゃないかな。ああいう爽やかなイケメンって裏がありそうで……とは言え少女漫画のヒーローに裏があったら嫌だけどね」
「マミコのことはどう思う?」
「…好きじゃない、かな。典型的な少女漫画ヒロインって感じで、か弱いし、いつも守られてばかりだし、いびられても言い返せないし……でも一途に鈴木のことが好きで、他の男にフラフラいかないのは可愛いよね!当たり前だけど!好きなら好きって早く鈴木に言えって思う!」

好きじゃないといいつつ熱くなってしまうあたり、マミコのこと好きなのかもしれない。この漫画自体が好きだからどのキャラもまぁ好きなんだよ。

「個人的には尾瀬と和歌の関係が一番気になるかな。鈴木とマミコがわいわいやってる裏であの二人が何してるのか考えるともう楽しくて楽しくて…」

野崎くんはさっきから私の話をメモしまくっているのだが、役にたつのだろうか。

「だいたい固まってきたが、今度また来てくれると助かる。今日だけじゃ時間が足りない」
「いいよ、夢野先生の頼みなら喜んで」

千代がちょっと妬いてるような気がしないでもないから、ここを出たらちょっと謝っておこう。


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