閻魔大王



「姫を返せ!!返さぬのなら、力づくで奪い返す!!」
「はっ…力づくか。貴様のような優男が、私に勝てると思うのか?」
「僕は必ず勝つ!!」
「小癪な…。貴様のようなガキなど私の相手にはならぬわ!!」

全力で怒りをぶつけ、一旦ここでストップがかかった。ここからはアクションになるのだが、私は殺陣ができないので今後そっちの練習もさせられるだろう。

「京極…なんかすげー気迫だったけど、何かあったか?閻魔大王みたいなオーラだったぞ」
「はは…そうですか?嬉しいなぁ、やっぱり悪役が楽しいですねー」
「…大丈夫か?」

私は今朝から荒んでいた。昨日みこりんと遊園地デートをしたとは思えないくらい憂鬱に包まれている。それの原因もまぁ、みこりんなんだけど。
今朝みこりんを見かけたから元気いっぱい挨拶したのに、みこりんはなんだか素っ気なく「おう」と言うだけでさっさと自分の教室へ行ってしまった。
ただそれだけのことであるが、私にとっては辛かった。

「今の私なら台本無視して王子殺せそうです…」
「ダメだよハニー、僕らは愛し合った仲じゃないか」

鹿嶋くんはのってきて私の手を優しく包み込んだ。

「はっ、笑わせるな。顔だけの男に愛など持つものか」
「ひっ…ひどいよハニー、あんなに愛を語り合ったじゃないか」
「残念だったな。私は貴様の顔にしか興味がない。貴様の生首さえあれば私は満足だ!!」
「うわーっ!!」

スパーン!と鹿嶋くんだけ部長に頭を叩かれた。鹿嶋くんのせいでつい遊んでしまった。

「何で私だけ!!」
「女子の頭が叩けるかよ」
「私だって女子ですよ!!」
「京極、そのー…なんだ、演技に問題は無いが、疲れてるなら休んでもいいぞ?」
「無視ですか!?じゃあ私も疲れたので休みますね!」
「お前は他の奴らと練習続けろ!!」
「部長のけち!!贔屓!!」

鹿嶋くんはぶーぶー文句を言いながら離れていった。ごめんね鹿嶋くん。

「何かあったなら話聞くぞ?」
「…恋話でもいいですか?」
「お、おう」

他の人もいるからあまり大声は出せないけど。鹿嶋くんやみんなが演技して騒いでる間なら周りに話を聞かれることはないだろう。

「…好きな人と、デートしたし、めちゃくちゃ仲良くなれたと思ったんです」
「…よかったじゃないか」
「思ったんですけど、思ったのは私だけだったみたいで、向こうは違ったんです。今朝会ったから挨拶したんですけど、めちゃくちゃ反応薄くて…なんか逃げられてっていうか、すぐ置いてかれちゃって…」

今朝のみこりんの背中を思い出しただけで悲しくなってきた。マミコに逃げられた不良の気持ちそのものだ。

「…それ、俺のせいかも」
「え?」
「俺も今朝、女子に囲まれてる御子柴見つけてさ、女子が離れてから茶化しに行ったんだよ。モテるよなーって。彼女作らないのか聞いたら、いらないって簡潔に言えばいいのに鹿嶋みたいなウザい台詞吐きやがったから、ムカついて、照れさせようと思って、京極をゴリ推ししたんだよ。お似合いだとか何とか言って」
「…なんでみこりんって解るんですか」
「見てりゃ解るだろ」

あ、ばればれだったのか。いやでもそんな好き好きアピールしてないもん。少なくとも人前ではそんな態度じゃなかったはずなのに。

「そんときクラスのやつに呼ばれたからすぐ別れたんだけどよ。まぁ京極が会ったのはそのあとのことなんだろうな」
「…ですかね」
「だから、京極のこと意識しすぎてまともに顔も見れなかっただけなんじゃないか?」

堀先輩は楽しそうににやにや笑った。
ほんとにみこりんが私を意識してくれたっていうならいいんだけど、別の理由で私から逃げていたらどうしてくれるんだ。

「そう落ち込むなよ。御子柴のことだから照れてるだけだって」
「…だと、いいんですけど」

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