初登場回



「堀先輩って、野崎くんと仲良いんですか?」

休憩の時に、思い出したことを堀先輩に尋ねてみた。たしか野崎くんから堀先輩の名前が何度か出た気がする。

「まぁな。家にも行くし」
「…堀先輩も、漫画のお手伝いに?」
「なんだ、知ってんのか。原稿の締め切りが近付くとよく背景書かされたりとかはするな」
「はっ…背景!?そういうお手伝いですか!?」
「漫画家の手伝いで原稿以外に何があるんだよ」

そう聞かれるが、まさか夢野先生の原稿に手を加えている人がこんな身近にいるなんて思わないでしょ。

「私、キャラ作りのお手伝いさせられて……なんか、不良の子として描くとか言われました」
「あの漫画で不良…?それは気になるな。今日部活のあと野崎の家行くけど、京極も行くか?原稿の手伝い頼まれててよ」
「わ、私もいいんですか?」
「漫画のこと知ってるならいいだろ。行こうぜ」

誘われてしまったので、せっかくだから行くことにした。
部活を終えてから堀先輩と二人で野崎くんの家まで歩いたけど、ちょっと緊張した。
家に着いてから呼び鈴を鳴らせば、野崎くんが出てきた。

「堀先輩、待ってましたよ」
「京極も居るんだが良いか?」
「構いませんよ」

あぁよかった、とホッとして上がらせてもらった。今日はみこりんも千代も居なかった。

「新キャラ出すって聞いたけど、どうなったんだ?」
「今回の原稿で出てきますよ。ペン入れまで終わってるんで読みますか?」
「お!読む」

野崎くんは堀先輩に原稿を渡したので、私も見るために堀先輩の横へ座って原稿に目を向けた。

今回もまたマミコがモブの不良に絡まれる話だった。いつも通りだしどれが私なのかと迷ったが、そこに一人の男が助けにはいった。いつものパターンだと鈴木のはずなのに、来たのは目付きの悪い別の不良だった。
『てめーら俺の縄張りで女漁ってんじゃねぇよ』などと口の悪いことを言いながら凄んでモブの不良たちを追い払うと『ありがとう、助かりました』と微笑むマミコにドキッとする不良。『案外可愛いな。どうだ、俺と遊ばねーか?』とマミコの肩に手を回す。しかしマミコは拒絶し走り去る。残された不良は切なそうな顔でマミコの背中を見つめていた。


「…野崎くん、これ?これ私?」
「どう見ても京極だろ」
「私こんな怖くないしチャラくもないでしょ!?」
「悪いな、第一印象からはこのキャラしか生まれてこなかった」
「千代の馬鹿……!」

大好きな漫画に登場できたことは嬉しいが、なんだこれ。普段の私の要素がほぼ無い。かなしい。

「これの評判が良かったら今後も活躍させる予定だ」
「私マミコより和歌と付き合いたい」
「和歌には尾瀬がいるし、尾瀬だけでなくこの厄介そうな不良にまでちょっかいかけられたら和歌が可哀想だろう!」
「え、ご、ごめん」

咄嗟に謝ってしまったが、厄介なのは私ではなくこの不良だ。

「なぁ、この不良の髪の毛何色だ?」
「黒ですね」
「不良なのにか?銀とかでも良さそうなのに」
「京極が黒なので」
「…ならしょうがないな」

しょうがないのか?そこは私に合わせるのか?だったら性格を寄せてほしいところだ。

「京極、ベタ濡れるか?×付いてるとこを黒く塗るんだけど」
「わわっ、私が夢野先生の原稿に触れてもいいの!?」
「手先が器用なら是非手伝って欲しいけど」
「めっちゃ器用だよ!やるよ!」

堀先輩のおかげで私が夢野先生の原稿のお手伝いをできるなんて、まるで夢のようだ。今度堀先輩にご飯でもおごっておこう。


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