女子A



「げっ、教科書忘れた…」
「あーあ、数学の先生厳しいのに」

最近寝坊したり忘れ物したり、たるんでるのかな。こんなことが続くようだと、ほんとに不良の仮面が素顔になってしまいそうだ。

「みこりんとかに借りてきたら?」
「…そうだね」

よその教室の男子にわざわざ教科書を借りるのは気が引ける。しかもあの人気なイケメンに借りるのか?無理だろ。鹿島くんがいたら鹿島くんに借りよう。部活一緒だしそれなりに仲良くなったし、みこりんよりは気軽にいけそう。

「あの、すいません、鹿島くんって……」
「鹿島ならあそこだけど」

G組の教室で扉付近にいた人に尋ねてみた。その人が指差す先には、女子に囲まれ過ぎて声の届きそうにない鹿島くんがいた。

「あれでも呼んだ方がいいか?」
「…じゃあみこ…柴くん、呼んできてもらってもいいですか?」
「御子柴ー!女子が呼んでるぞ!」

呼んできてくれと頼んだのに、その場で大声で呼びやがった。教室内の人たちがこっちを見てきて、すごく居心地が悪い。
御子柴くんはイヤホンを外してからすぐに寄ってきてくれた。

「どうした?」
「数学の教科書忘れちゃって……みこ、柴くん、もし持ってるなら貸して欲しいなって」
「そんなことか。ちょっと待ってろ」

御子柴くんは教科書を取りに席に向かった。いつものくせでみこりんと呼んでしまいそうだけど、なんだか他の人たちにそう呼んでいるところを聞かれたくなかった。みこりん人気だし、仲を疑われたら怖そうで。

「ほらよ」
「ありがとー!助かる。また後で返しに来るね」
「おう」

舞台でならまだしも普段の姿をじろじろ見られるのは好かなくて、逃げるようにその場をあとにした。


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