花より団子




入隊してから、馬鹿が先輩死神たちにばれないように真面目なふりをするのに精一杯だった。九番隊は結構真面目なとこらしく、はしゃいで目立っては浮いてしまいそうで、檜佐木くんと居るときも悪目立ちしないように自分を抑えてしまって苦しかった。そんな日々を何ヵ月も過ごしていて、少し憂鬱だった。
ただ檜佐木くんを追いかけるためだけに九番隊を志望したの、間違ったかもしれない。もう少し調べておけばよかった。

「一色さんって綺麗な顔してるよね」

食堂で一人で考え事をしながらご飯を食べていたら、斜め前からそんな声が聞こえてきた。口には食べ物が入っていたので思わず吹き出しそうになってしまったが、堪えてその声の主に目を向けた。

「琉魂街出身って聞いたけど、上品だし、真面目だし、おまけに美人だ」

名前は忘れたけど、たしかうちの隊の席官の人だ。十何席とかそのくらいの。そんな人に突然誉められまくって、動揺しないわけがない。驚いて喉につまりそうな食べ物を、なんとか飲み込んだ。

「あ、ありがとうございます」
「うんうん。謙遜せずにありがとうって言えるところとか、俺好きだよ」
「ほ…褒めても、何も、出ませんよ」

出るのはせいぜい口から食べかけのお昼ご飯くらいのものだろう。

「あれ?告白したのにスルー?」

告白なんていつされただろうか。と記憶を遡れば、そういえば好きだよって軽く言われた気がする。軽すぎて聞き逃すところだった。

「ありがとうございます、まだ新入りなのに気に入って頂けて嬉しいです」
「それ天然?まぁいいや。気に入っちゃったからさ、今晩ご飯ごちそうしてあげるよ」
「えっ、そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。俺がただ一色さんが美味しそうにご飯食べるとこ見たいだけだから。お昼だと俺大体忙しいからあんまり見れないし。だからさ、今夜、付き合ってよ」

お願い、と手を合わせて頭を下げられてしまう。上司の頼みを簡単に断っていいものなのだろうか。というか別に断る理由も無いし、行けばいいのかな。

「明日もお仕事なので、お酒は付き合えないですけどいいですか…?」
「いいよ、俺も明日仕事だし。じゃあさ、定時になったら迎えに行くよ。新入りたちって午後は演習場だよね?」
「あ、はい、そうです」
「おっけー。じゃあ俺そろそろ行くね。また、今晩のデートで」

流されるようにデートの約束を取り付けられてしまった。というかこれ、デートなのか。席官さんはひらひらと手を振って立ち去った。ああそういえば、名前も解らないんだった。

なんだかもやもやしたまま私もお昼ご飯を食べ終え、準備をして演習場へと向かった。演習場には一足先に檜佐木くんが着いていた。

「あ、檜佐木くん。やっほー」
「おー。ちゃんと飯食ったか?」
「カツ丼食べたよ」
「…その割には元気なくねーか?腹でも痛いか?」
「え、普通だけど…」

檜佐木くんが怪訝そうにして聞いてくるから、私も私があんまり元気じゃないことに気が付いた。

「元気だけど、元気じゃないかも…?」
「大丈夫かそれ?」
「うーん、大丈夫」

こんなの、少し考え事をしすぎたせいだ。真面目なふりして生きることが苦しいだなんて、口が裂けても言えない。そんなことを真面目に考えていること自体にも嫌気がさして、負のスパイラルに陥ってしまっただけだ。

「何かあったなら聞くぞ。晩飯でも食いに行くか」
「あ、今日は…」
「何かあんのか?」
「…なんか、席官の人にデート誘われて行くことになった」
「デート!?」

声大きいよ恥ずかしいな。

「私が可愛いから気に入られちゃったみたい」
「はー…席官なのに見る目無いな…」
「失礼だ!」

私にもあの人にも失礼だ。私ちゃんと可愛いし、私を褒めてくれる人みんな見る目あるでしょ。

「つーかそんなほいほいデート行っちまっていいのかよ、学生ん時とはもう違うぞ」
「え、何が違うの」
「…結婚を前提に、とかなんか、あるかもしれーねーじゃん」

そうなのかな。でも確かに、付き合うことの重みがなんか、こう…違うのか?いや、よくわからないや。

「でも結婚して養ってもらえるなら、毎日おいしいご飯食べれて幸せだろうなぁ」
「…そういやお前の死神になる動機、美味い飯食いたかっただけだったな」
「だけって言わないの!ご飯重要だよ!」

おいしいごはんがあれば私は元気に生きていけるんだ。だから別に、デート誘われてご飯食べるくらいならほいほいしちゃってよくないのかな。

「ご飯のことばっかじゃなくて相手のことも考えろよ?つーか、まじで気を付けろよ?お前ほら、馬鹿だから…飯につられて変な男に騙されるかもしれねーし…」
「私をどんだけ馬鹿にしてるのかな」

さすがにご飯につられて騙されるとか、あるわけがない。あったら逆立ちして瀞霊廷一周するよ。

「…まぁ、俺が勝手に心配してるだけだから。聞き流してもいいけどよ」

檜佐木くん、今まで私の面倒を色々見てきてくれたけど、こんなことまで心配してくれるとは。なんか、世間で言うお父さんみたいだ。私が彼氏作ったら寂しがるかな。

「心配ありがとね。でも私も、檜佐木くんがハニートラップにひっかからないか心配だよ」
「んなもんにひっかかってたまるか。つーか俺を騙すメリット無いだろ」
「気を付けてね」
「言われなくてもな」

- 10 -

←前次→