平和な一時



「いい?檜佐木くん、時間は大事なんだから、のんびりしてちゃだめだからね?いっぱい遊んでいっぱい戦っていっぱい遊ぶんだからね?」
「遊んでばっかかよ」

穿界門を潜りながら、檜佐木くんにそう言い聞かせた。今日という日が来るまで檜佐木くんは、私に何度も本当に俺でいいのかと聞いてきた。むしろ行きたくないのかと問い詰めれば、焦ったように行きたいと言ってくれたので許してあげた。

「すっごい楽しみにしてたんだから」
「…俺も」

小声だけどもそう言ってくれて、一気に嬉しくなった。檜佐木くんそういうの顔に出ないように隠す時あるんだよね。恥ずかしいのかな。

「四日間平和だといいねー。私ずっと遊んでたい」
「一応仕事だからな」
「わかってるよー」

せっかくいつもと違う環境だからこそ戦いたい気持ちもあるけど、今は隣に檜佐木くんがいる。戦うよりも、檜佐木くんと楽しいことをしたい。

「…でも、誘ってくれてありがとな」
「だってせっかくの旅行だもん、檜佐木くんと一緒なのが一番楽しいからね!」

一緒にいるだけで頬がゆるむ。檜佐木くんはなぜか私の頭をわしゃわしゃ撫でてくれるし、こんな楽しいことがあっていいのだろうか。

「ね、どこ行こっか?何かしないともったいないよ!」
「あーそうだな、なんか美味いもんでも食いに行くか?」
「行くー!」

現世っぽい、食べたことのないものをいっぱい食べてみたい。お仕事頑張ったから予算はいっぱいある。なんなら檜佐木くんの分も私が出してもいいくらいだ。

「なんかあの辺おしゃれ!人いっぱいいるしお店もいっぱい!」
「駅前っぽいな。適当にあの辺行ってみるか」
「行く!」

はやく行きたくて駆け出せば、檜佐木くんも追いかけてきた。

「待てって!」

勢いよく腕を引っ張られ、無理やりにも足が止まった。すると目の前を勢いよく車が通りすぎて行った。

「ここ現世なんだからちゃんと信号見とけよ、ばか!」
「びっくりした…」
「事故って義骸壊れたら旅行終了だからな?」
「うん、うん、気を付けるよ…」

勢いとしては虚よりも強そうな、車とかいう鉄の塊が町中を走り回っているんだ。現世は怖い。手を汚さなくても機械で人を殺せそうだ。

「行くぞ」

反省していたら手を握られて引っ張られ、手を繋いだまま歩くことになってしまった。

「檜佐木くん、何この手」
「捕まえてないと一色が何するかわかんないからな」
「私そんな子供じゃないんだけど!」
「わかってるよ。良いだろ、たまにはこういうのも」

ぎゅっと手に力を入れられ、反論できなくなってしまう。檜佐木くんと手を繋いでおく理由は特に無いけど、この手を離すべき理由も特に無い。

「いいよ、たまには檜佐木くんのワガママ聞いてあげても」
「ありがてぇな」

ちょっと上から目線で偉そうに言ってみたのに、檜佐木くんには効かなかった。なんだか機嫌も良いみたいだ。

それから人混みに紛れても、手を繋いでいるおかげで周りを観察しながら歩いていても檜佐木くんが手を引いてくれるからはぐれずに済んだ。

「食べたいもの見つかったか?」
「洋菓子いっぱい食べてみたい!あそこ、おいしそうだった!」

檜佐木くんみたいな顔が怖い人には似合わないお店かもしれないけど、私はワガママを言ってみた。

「じゃあ行くか」

それなのに檜佐木くんは嫌な顔もせずに、というかむしろ嬉しそうにその店に向かった。檜佐木くんも甘いもの食べたかったのかな。


「洋菓子食べ放題…!」
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「はい」
「本日、カップル割引の日なので、カップルでしたら食べ放題コースのお会計三割引となります」
「あー残念だね、カップルじゃな、んぐ」

素直に言おうとしたら手で口を塞がれた。

「カップルなので、食べ放題二人分で」
「はい、お席ご案内いたしますね。120分コースとなっておりますので、お時間にご注意くださいませ」

檜佐木くんの嘘が通ってしまい、席につかされた。

「檜佐木くん…嘘ついてまで三割引しなくてもいいのに」
「なんだよ、俺と恋人じゃ不服だったか?」
「…檜佐木くんが平気で嘘ついたからショック受けてるの」
「そこかよ」

ため息をつかれるけど、私にとっては重大な事件だ。檜佐木くんは嘘なんかつかない誠実な男だと思っていたから。

「別にいいだろ、一色に対して嘘ついたわけじゃねぇし」
「檜佐木くんに嘘つかれたらショック死しちゃう」
「どんだけメンタル弱いんだよ。心配しなくても一色には嘘つかねぇよ」

ほんとかな。嘘つかないって言ってるしほんとだよね。

「嘘ついたら針千本飲ませちゃう」
「あぁいいぞ、約束してやる」

堂々とそんなことを言うものだから、疑う気持ちなんてさっぱりどこかに消えてしまった。真っ直ぐ物を言える檜佐木くんがやっぱり好きだ。

「早く食おうぜ、好きなだけ食っていいんだから」
「うん!食べる!」

ああもう、ずっとこの時間が続いてくれたらいいのに。

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