柄にもなく
一晩経って冷静になり、昨日渉くんを残して先に帰ったのはやり過ぎたかななんて反省した。教室に行って、渉くんに会えたら謝ろう。こんなことで渉くんを落ち込ませたくなんかない。
教室の扉を開ければ、珍しく私よりも早く渉くんは登校していて、席に座っていた。私が一歩教室に入ると渉くんはこっちに気付いてすぐに駆け寄ってきた。
「おはよう渉く、」
「おはようございます!今日はいいお天気ですね!」
「ちょっと!?」
挨拶もまともにし終える前に、駆け寄ってきた勢いで渉くんは私に抱きついてきた。ここが教室だと理解しているのだろうか。
「あの、言葉と行動が噛み合ってないんだけど!」
「すみません!私てっきり楓を怒らせて嫌われてしまったのかと一晩中びくびくしてしまいまして、会ったら何を話そうかといっぱい考えていたんですけれど、貴方がこっちを見てくれて挨拶までしてくれたので安心して取り乱してしまいました!」
あぁやっぱり、私がやり過ぎてしまったんだ。渉くんが取り乱すところなんて初めて見た。
「昨日はやり過ぎてしまってすみません、反省しました。私はただ楓に愛と驚きを与えたかっただけなんです」
「…わかってるよ、私がびっくりしすぎちゃっただけだから。私も勝手に帰ったりしてごめんね、怒ってないし嫌ってないよ」
よしよし、と背中を撫でてあげれば、渉くんはやっと私を離してくれた。
「…お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたので、退散しますね。今日は授業をさぼって観劇でもしてきます」
「えっ、もう行っちゃうの?」
「また帰りに会いに来ますね!」
渉くんは笑顔で手を振って、またしても窓から飛び降りていった。どうせまた気球とかに飛び乗ったのだろうと思ったけど、気球が上がってくる様子は全然無くて、もしかして落ちて死んでたりするんじゃないかと不安になって窓から下を覗いてみた。しかしそこには気球はおろか、渉くんの姿すら見当たらなかった。
「死ぬわけないか…」
ほっと胸を撫で下ろしていたら、くいっと袖を引っ張られた。振り向けばに〜ちゃんが心配そうにしてくれていた。
「なんかいつになく渉ちんおかしかったけど、大丈夫か?」
「私もびっくりした…」
「おれにどうこうできる気はしないけど…なんか困ったら頼ってくれていいからな?」
「ありがとう、心強いよ」
渉くんは人を驚かせることは好きだけど、あんな風に突然抱き締めたりして驚かせるようなこと昔はしなかったのに。驚かせ方が単純すぎていつもの渉くんらしくない。
「帰りって言ってたけど、今日うちの子たち見てもらうから遅くなるんじゃないのか?」
「たしかに。渉くんにもそうやって言っとこ」
「なんかごめんな」
「に〜ちゃんが謝ることじゃないよ。渉くんのことは気にしなくていいから」
帰りに会えるかも解らないし、今日はもう渉くんに会えないかもしれないのは寂しかった。
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