自分の立ち位置
渉くんと手を繋いで歩いた熱を忘れられないまま登校してしまったけれど、肝心の渉くんは何事も無かったかのようにいつも通り振る舞っていて拍子抜けしてしまった。
ちょっとでも渉くんのことを意識してしまったのはプロデューサーとしてはミスでしかない。私もいつも通りの笑顔でいつも通りに「おはよう」と挨拶を交わして他愛もない話をするだけだった。
ただ、昔話をしてお互いの感情を打ち明けたこともあり、いつもより気分は晴れていた。
「ほら〜〜、友也くん!ぴょん!てとこもっと可愛さ振り切っていいよ!」
「そ、そうは言っても、楓さんの視線が突き刺さってきて恥ずかしくて…!」
「私1人に動揺してどうするの?舞台に立ったら数えきれないほどのお客さんが友也くんたちのことみてくれるんだからね?」
2年生のあんずちゃんがTrickstarばかりお世話するように、私もついついRa*bitsのお世話に片寄りがちだった。プロデューサーとして、それはいけないとわかっているのだけれど、可愛いウサギさんたちの誘惑には勝てていない。
「Ra*bitsはみんな可愛いよ。もちろん友也くんもすっごく可愛い!だから、もっと自信を持って、ぴょん!てやってほしい」
「可愛いって言われるのは複雑だけど…がんばります!」
「そうそうその意気!友也くん、普段はちゃんとかっこいいから、大丈夫だからね。Ra*bitsでいるときだけは、俺は可愛い!って信じて欲しい」
「かっ…あ、ありがとうございます」
友也くんに自信をつけて欲しくてかっこいいと褒めてみたら、素直に照れてくれた。そういうところが可愛いんだよ友也くん。
「友ちゃんばっか褒められてずるいんだぜ〜!」
「そうですよ、羨ましいです…!」
「えぇ?いや、俺だけダメ出しされてたところだろ…」
Ra*bitsは可愛いからすぐ褒めすぎてしまっていると思って自嘲していたけれど、みんな褒めてもらいたいらしい。
「こらこら、楓を困らせるなよ〜?」
なんて、に〜ちゃんは皆を宥めるけどその必要はない。Ra*bitsはきっと褒めて伸びる。少なくとも光くんはそうだし、1人を褒めるならみんな褒めなきゃ平等じゃないよね。そうにちがいない。
「私は大丈夫だよ。ちゃんと皆のこと見てるから、みんなの良いところ知ってるもん」
そう伝えるだけでも皆嬉しそうな表情をしてくれるから本当に愛おしい。
「光くん、元気いっぱいで笑顔も良くて、見てるこっちが元気になれるのでとてもいいです!ウサギさんみたいにいっぱい跳び跳ねてて、可愛い!よしよし!」
「やったー!褒められたんだぜ!」
褒めながら光くんの頭を撫でてあげると、撫でやすいように少し屈んでくれた。に〜ちゃんは私とそんなに変わらないけど、他の子達は私よりも背が高くて不思議な感じだ。こんなにも可愛いのに。
「創くんは声が綺麗だし、音程も安定してるから聞いてて癒されるね!仕草もとっても可愛いくて雰囲気も柔らかいから、ザ癒し系って感じでよいです!よしよし!」
「えへへ…♪ありがとうございます、楓お姉ちゃん」
「んうっ」
癒しの力が強すぎて、創くんの笑顔で浄化されるかと思ってびっくりした。意識を保たないと危ない。
「友也くんは普段かっこいいのに可愛さも兼ね備えててすごい!歌もダンスも良い意味で普通にこなしてるので、安心して見てられるね。あとは可愛さ前面に出してくれたらもっと褒めてあげるね、よしよし!」
「ありがとうございます、がんばります」
頭を撫でてあげると余計に照れてしまって、なんだか申し訳ない気持ちにもなってしまうが皆平等にするためには照れ顔も晒してもらわないといけない。ごめんね友也くん、照れ顔見せてくれてありがとう。
「に〜ちゃんも、リーダーになって皆のことちゃんと見て全体のことを考えて動いてて立派だと思う。歌もダンスも綺麗だし、笑顔も可愛い!ほんとに、に〜ちゃんが笑顔でいてくれるとほっとする」
去年までの、Valkyrieだった頃の仁兎なずなのことを思い出すと、心底そう思ってしまう。あれがダメだったとかそういうわけでは決してないけれど、に〜ちゃんが幸せに笑ってアイドルをしてくれていることが、ファンであった私としても、きっと宗くんとしても望みだろう。そうあって欲しいという私の勝手な願望だったとしても、もう誰も傷付いて欲しくない。
かつての三人の頃には戻れないんだろうなと思ってしまうから、せめて宗くんが大事にしていたに〜ちゃんのことを私も大事に扱って、幸せを感じるお手伝いをさせてほしい。
「こら、いつまで撫でてるんりゃよ!」
「へ?あ、ごめんごめん!なんか改めて、こんな簡単にアイドルに触れちゃうのを感慨深く思っちゃって!」
慌ててに〜ちゃんの頭から手を離したけれと、怪訝そうな顔で見られてしまった。
「遠慮しないでどんどん頭撫でてくれていいんだぜ!」
「光ちんはちょっとは遠慮しろよ〜?」
遠慮なく光くんは頭を差し出してくるので、私の手はそこに吸い寄せられて撫でてしまうし、自制ができなくて困ってしまう。
「皆楓お姉ちゃんのことが大好きなので、楓お姉ちゃんは遠慮なんてしないでくださいね。僕も、頭よしよしされると嬉しいので…えへへ」
「ううっ…私もRa*bitsのみんな大好き…」
ああ、こんなの他のユニットの子達に聞かれたら何て言われるか。贔屓だって言われても否定できない。
「さぁさ、休憩できたしレッスン再開するぞ〜!楓ももう休憩終わっても大丈夫か?」
「うん!大丈夫!皆のおかげで元気いっぱい!」
「ならよかった。引き続きよろしくな!」
「はーい!」
Ra*bitsのファンとしての感情に呑み込まれる前に、に〜ちゃんがレッスンを再開してくれて助かった。プロデューサーとしてまだまだいけないところをちゃんと正してくれるから、に〜ちゃんは頼もしいし、リーダーにも向いていると思う。
私もしっかりして、アイドルの輝きに殺されないくらいの精神を持ったプロデューサーにならなくては。
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