愛と驚きを
「なぁ嬢ちゃん、ちょっくら頼みごとしてもいいか?」
UNDEADの晃牙くんの衣装がほつれてしまったとかで、修繕を頼まれので教室で空き時間に行っていたら、紅郎くんに声をかけられた。
「どしたの?」
「衣装制作、手伝ってもらいてぇんだ。裁縫得意なんだろ?流星隊に頼まれてるんだが五人分あると時間かかっちまってよ」
「いいよ、手伝う。UNDEADのこれ直したらすぐ手伝うね」
「あぁ、さんきゅ。急がなくてもいいからな、焦って失敗したら元も子もねぇからよ」
転校してきて初っぱな1番怖かったのはこの鬼龍紅郎くんだった。デッドマンズでも紅月でも見ていたから存在は知ってはいたけど、彼は敬人くんと違って、オンもオフも変わらず怖くてかっこいい雰囲気を漂わせていた。
「今日はどっかのユニットのレッスン入ってたりしねぇのか?」
「今日は無いよ。まだ未熟だからあんまり頼られてないんだよねー。紅月のレッスンとか、よかったら見学したいかも」
「明日の放課後だったらちょうど紅月で集まるぞ。来るか?」
「え、ほんとにいいの?」
衣装を直しながらただなんとなく思い付きで言っただけなのに、紅郎くんはさらっと誘ってくれた。
「見学してくれていいから、感想も聞かせてくれると助かるぜ」
「私なんかの感想でよければお安いご用だよ」
「あぁ、頼んだ」
あぁ嬉しい。だってあの心打たれたデッドマンズにいた紅郎くんと敬人くんの今の姿を間近で見ることが許されたんだ。
「なんか、夢みたい」
「ん?」
「…私、アイドルのただのファンだったのに。今こうしてプロデューサーとしてアイドルと接してるの、わけわかんなすぎて現実かどうか疑っちゃう」
「嬢ちゃんもアイドル好きなのか」
「ん゛」
ファンではなくプロデューサーになった今、私が誰のファンだとか言うのはちょっと公平に接するためにはダメな気がする。全員に対して同じように接しなければいけないはずだから。
「…デッドマンズ」
でも、本人を目の前にしてアイドルの話題を出されたら、黙ってなんていられなかった。
「ふ、久々に聞く名前だな。知ってたのか」
「知ってる…。あの日、零くんがライブするって聞いたから私も観に行ってたの。4人ともかっこよくて一生追い掛ける!って決めたのにあの場で解散されて寂しかった」
「そりゃすまなかったな。蓮巳の旦那も悔しがってたよ」
それも知ってる。零くん目当てで行ったけど、きちんとその時の敬人くんのことも見ていた。本当にデッドマンズは終わってしまうんだ、と私も悲しかった。
「けどよ、アイドル好きだったってんなら、プロデューサーの仕事も楽しいんじゃねぇか?」
「もちろん!まだ何していいかあんまりわかんないけど、すっごく楽しい」
「そりゃよかったぜ。慣れてきたなら隣のクラスとか下の学年の奴らの面倒も見てやれよ」
「紅月のレッスン行けば隣のクラスの敬人くんにも2年生の颯馬くんにも会えちゃうね」
今のところまだ敬人くんとは喋れていないし、年下の子も晃牙くんとアドニスくんくらいしかまともに関われていない。もっと自分からプロデューサーです!ってアピールしにいった方がいいのかな。
「そうだ、今度、空手部観に行ってもいい?流星隊の子いるよね」
「あぁ、鉄か。あいつもまだまだ未熟者だからよ、鍛えてやってくれや」
「ふふふ、楽しみだなぁ」
「プロデュースもいいですけど、演劇部にもちゃんと顔を出してくださいね〜?」
「んわっ」
背後から急に声をかけられて、びっくりして指に針を刺してしまった。
「いったー!」
「おい、大丈夫か」
「だ、大丈夫、ちょっと刺さっただけだから」
絆創膏やるよ、なんて言いながら紅郎くんはカバンをがさがさ漁り始めた。
「すみません楓、驚かせる気でやりましたけど、貴方を傷付けるつもりは無かったんですよ」
渉くんはしゃがんで私の手を取り泣きそうな顔で謝ってきた。針1本刺したくらいでそんな顔しなくて大丈夫なのに。
「大丈夫だよ、こんなの舐めれば直るから」
「…では私が魔法で治しますね」
渉くんは私の親指をぺろっと舐めて、丁寧にそこにキスをしてから手を離した。
「痛いの痛いの〜飛んでけっ!」
「渉くん!?」
渉くんは駆け出したかと思うと、窓からぴょんと飛び出した。待って、三年生の教室ここ結構な高さあるんだけど。慌てて窓に駆け寄れば、下から気球が上がってきて、ゴンドラには渉くんが乗っていた。
「楓の痛みは私が遠くまで運んでおきますからね〜!」
なんて言いながら渉くんは遠くへと消えていった。
たしかに今の行為でびっくりしすぎて痛いのを気にするどころではなくなってしまった。
「おい、絆創膏あったぞ」
「あ…ありがとう、もらう」
指にキスされたの、紅郎くんに見られてなくてよかった。そんな仲なのかと誤解でもされたら、転校早々プロデューサー失格になってしまうところだった。
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