姫と王子



「ああ!完璧!Amazing!超かわいい!」

今日は演劇部の活動に参加していた。1年生の友也くんにお姫様の格好をさせてみたら可愛すぎて、思わず抱き締めてしまっていた。

「わーっ楓さんだめです!そんな軽率に…あ、嫌とかじゃないんですけど、わーっ!」
「こらこら、お姫様が取り乱しちゃだめだよー?貴方はとってもおしとやかで可愛い女の子です、おーけー?」
「ひゃい…」

友也くんにはわーわー騒がれたが、抱き締めたまま頭を撫でてお姫様だと言い聞かせれば、とても大人しくなった。いいこである。

「あ、あの、あ…あたっ…」
「あたしじゃダメです、私って言って?」
「ちが、あ、当た…て…」

ふむ、お姫様になりきるなら女に距離を詰められてどぎまぎされちゃいけないんだけどな。1年生には刺激が強すぎただろうか。

「友ちゃんばっかり可愛がられてずるいですわ。私のことも構って欲しいですよ、王子」

聞き慣れない可愛い声がして顔を向ければ、お姫様の格好をしてしゃがんだ渉くんがいて、可愛らしい仕草で瞳を潤ませてこちらを見上げていて不覚にもドキッとしてしまった。

「…、おやおや、妬いてるのかな。心配しなくとも僕が愛しているのは君だけだよ、愛しのひびきちゃん」

王子と呼ばれたからには乗るしかなくて、友也くんから体を離し、渉くんの長く美しい髪を少し手にとり口付けた。

「王子ったら大胆ね…友ちゃんがびっくりしてしまいましたわ」

ふと友也くんを見てみると、こっちを見たまま顔を真っ赤にさせて固まっていた。

「だめだよー友ちゃん、演劇部なんだからそんなにほいほい顔色変えちゃ」
「す、すみません…でも、あの、なんかいけないもの見ちゃった気がして、すみません…」
「友也くんも王子になりたかったら楓くらい堂々とかっこよくできなきゃいけませんねぇ」
「む、難しいですね…」

しかし渉くんの演技をこんなに間近で見たのは久しぶりだった。しっかりと声変わりした今でも女の子の声を出せるとは思わなかったな。

「楓にまだ演劇のセンスが残ってて安心しました」
「あ、まだ大丈夫だった?それはよかった!」
「よければ友也くんに本物のお姫様をみせてあげてもらえませんか?私が見たいから、という理由でもありますけど」

本物のって、私は別に本物のお姫様ではないし。渉くんと最後にやったのは中学の時のだ。あのときよりは今の方が演技もできるようになったとは思うけど、本物ではない。途中から演劇部の他の女の子がお姫様役になってしまい、私はお姫様をおろされたようなものだった。

「色んなサイズがありますよ。せっかくだから着てみませんか?」

渉くんは私の手を引いて衣装部屋へと連れ込んだ。私の意見を無視してお姫様をやらせようとする無茶振りは、相変わらず渉くんらしくて微笑ましくなってしまう。

「男ばっかの演劇部によくこんなにドレスがいっぱいあるね?」
「演劇にはお姫様がつきものですからね。昔から置いてあるものもありますが、私に合う丈のものはなかなか無かったので宗に無理言って色々作って貰いましたしね」

あぁ、五奇人の。渉くんてばお友達作りがちょっと下手くそなイメージあったけど、ここでもちゃんと呼び捨てできるくらいの仲の友達できたんだね。なんて、失礼ながらほっとしてしまう。

「お好きなドレスをどうぞ。楓なら何を着ても似合うと思いますよ」
「調子の良いこと言っちゃってぇ」
「ふふ、ごゆっくり」

ぱたん、と衣装室の扉をしめられる。どれでも似合うと言われても、小柄のドレスから選ぶと枚数は限られてくるけれど。
見ていたら繊細な刺繍とレースやフリルが施された断トツに綺麗なドレスがあって、私なんかが着るのは恐れ多かったが、制服を脱いでそれを身に纏ってみた。
男性用に作られただけあって少し胸が苦しかったが、大きさに問題は無かったので、扉を開けてお披露目した。

「ごきげんよう、渉さん友也さん。今日もいいお天気ですわね」
「ご機嫌麗しゅう、姫。今日は一段とお美しいですね」
「ふふ、このドレス、オーダーメイドで私のためだけに作ってもらったの。綺麗でしょう?」
「ええ、綺麗です。ドレスも、それを着こなす姫も、世界で一番綺麗ですよ。こんなに美しい方と出会えて傍に居られて、私は世界一の幸せ者でございます」

渉くんはうっとりとした表情でひざまづき、私の手をとり手の甲に唇を落とした。たかが即効劇でそこまでするとは。手袋をしているとはいえ、唇が触れる感触は充分にあって照れそうになった。
お姫様になれと言う割には、これでは渉くんの王子演技を見せられているようだ。

「貴方に慕って貰えて、私も世界一幸せ者ですわ」
「それはよかった。姫にはいつでも幸せでいてほしいものです」

演技とはいえ、渉くんの微笑みに殺されそうになる。中学の時よりもより一層美しくなり、より演技もうまくなった渉くんは私には刺激が強すぎる。着ているものはお姫様のドレスなのに、渉くんが作り出す王子の雰囲気がそれを全て飲み込んでしまい、王子感しかない。

「なんだか…上流貴族の会話を盗み聞きしてる平民の気分です」

友也くんがなかなか演技に入って来ないと思ったら、そういうことだったのか。

「楓さんが過去に部長と演劇部にいたっていうの、ほんとだったんですね…俺びっくりしちゃいました」
「えへへ、ちゃんと演技できてたかな」
「上手でした!俺も楓さん目指して立派なお姫様になります!」
「お、応援するね!」

演技を見せて喜んで貰えたなら嬉しいけど、立派なお姫様とはなんだろうか。友也くん大丈夫かな。

「久々に楓と演劇ができて楽しかったですよ。これからも部活にちゃんと顔を出してくださいね」
「ん、善処するね。私も演劇楽しいけど…プロデューサーとして連れてこられてるから、そっちメインに頑張らなきゃ生徒会長さん怖そうだし」
「英智は怒って貴方をゴミ箱に捨てるようなことをする鬼ではありませんよ」
「だといいんだけど」

実際、渉くんはゴミ箱に捨てられるどころか生徒会長に拾われてユニットの仲間にしてもらえているわけだし。それは渉くんが気に入られているからってだけかもしれないけど。私なんか要らなくなったら退学させられそうだ。

「もし英智がそんな意地悪したら、私がゴミ箱をひっくり返して貴方を救うのでご安心を♪」

とりあえず、知り合いが皇帝の仲良しだからあんまり不安に思うこともないかな。

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